後日談

 家に到着するなり、軽トラックをどこからか借りてきて、石材店を回る。

「この安いヤツにしようぜ」

「海神様がそっちの龍の方がいいと仰っているけど……」

 北嶋さんは値段を見る。

「ふざけんなよ!車買えるじゃねえか!こっちの安いヤツにしろと言え!!」

 あまりの高額に首を縦に振らない。確かにこれは高価だしなぁ…

――我を連れて来たのは貴様だ!!しかも無理やり!!ならば最低限の礼義を尽くせと言え!!

 北嶋さんと海神の間に挟まれ、やいのやいの言われて、キレた。

「あーもう!私の独断でコレにしますから!」

 私が選んだ龍の神体は高価な十和田石を使用した彫刻で、高さも1メートルと大きい。台座を含めると、殆ど2メートルだ。

 手には水晶が握らされて、目にも水晶が埋め込まれていると言う豪華な仕様。

――我はその隣の、もっと大きいのを所望しておるのだがな!!

「そっちの一番小さいヤツにしろって!家の床抜けちまうだろう!!」

 二人(?)が煩い。なので無視し、お会計を済ませる。どうせお財布は私が握っている事だし。

「神崎、そんなデカいモン家に置けないってば!!」

 北嶋さんが手をバタバタさせて私の説得を試みる。

「大丈夫。まさかこんなに早く北嶋さんに教える事になるとは思わなかったけどね…」

 私の自信にキョトンとする北嶋さんだが、あれは北嶋さんのお金で造った物だ。

 初めて祀る神様が海神になるとは思わなかったけど、これも縁。しかも北嶋さん自らが作った縁。


 北嶋さんと海神様の新しい御神体を軽トラックに乗せてやって来たのは、北嶋さんの家の後ろの山。

 伐採も完了し、杉は巨木以外無くなり、遊歩道を整備、湧き出ている水を利用した池や、多少小高い丘になっている広場。松や竹が生い茂っている林等々。

「この頃うるせえと思っていたが、裏で工事していたのか」

「少しは気が付きなさいよ…これは北嶋さんの物なんだから…」

 北嶋さんがふーん。と言う表情を作って直ぐに固まった。

 そして私をゆっくりと見る。

「俺の物……?」

「そうよ。師匠から言われて、裏の林を整備して神様を祀る聖域を作っていたの」

 そうなのだ。

 師匠がいきなり私に連絡して来て、お金は出すから神を祀る場所を作れと言ってきたのだ。

「な、なんでそんなもん……」

「なんか、来たるべき時に備えるとか何とか……」

 師匠の指示でそこに社を建立しろ、と言われて社を作ったのだが、丁度海神様を祀れる池の前の社が完成したばかり。

 ここに海神様を祀る事にした。

「それでね、ちょっと言いにくいんだけど、師匠から戴いたお金が少し足りないのよ。だから北嶋さんのお給料の殆どをここの建設資金に充てている訳なのよ……」

 実は師匠が出したお金は見事にキッパリだったのだが、工事には不確定要素が沢山ある。

 軟弱地盤が思ったより深かったから、土の入れ替えが倍以上掛かった。

 湧き水が思ったより出ていなかったから、掘り下げて水脈を新たに探した。

 等々。

「だから俺の給料が5万円な訳か…………」

 北嶋さんは見るも気の毒な程、ガックリと肩を落としていた。

 知らない間に自分名義で聖域を作られた事。財源補填の為に自分のお給料からお金が出ていた事。

 北嶋さんにしては、有り難迷惑。寝耳に水。

「だから来たるべき時の為に、ね?ほら!丁度良く海神様も祀れるんだし!!」

 北嶋さんの肩をポンポン叩いて、何とか宥めようとする。

「……来たるべき時って何だ?」

「それは師匠が言って下さらなかったから……」

「……神を祀る意味は?」

「さぁ…何かの祭事か…」

「……意味解らないのに、俺に何かしろと?足りないから金出せと?」

「………」

 流石に掛ける言葉が見つからない。

 北嶋さんは本当にズーンとしている。あの能天気な北嶋さんがダメージを受けている。当然だけど。

「ほ、ほら、頼んだ石屋さんも来て下さったわ!海神様をお祀りしましょ!!」

 無理やり話を終わらせ、仕事に切り出す私だが、北嶋さんは四つん這いになりながら全く動かない。

 途方に暮れていたその時、頼んでいた石屋さんが言葉を発する。

「旦那さん、奥さん、龍の石像、この社でいいんですよね?」

 訂正しようと少し前屈みになったが、北嶋さんが一気に立ち上がり、石屋さんの所に超スピードで駆け付ける。

「やっぱりそう見えます?ねぇねぇ?夫婦に見えますやっぱり?」

 石屋さんの両手をギュッと握ってニタニタした。

「あれ、まだご夫婦じゃないんですか?」

 石屋さんは驚きながらも訊ねた。

「いやー!まだなんだよねー!考えてはいるんだけどさー!あ、神崎、海神ここでいいんだろ?」

 激しくハイテンションになり蘇った北嶋さんに向かって微妙な作り笑いで頷いた……

 なんて平和な人なんだろう、とか思いながら……


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆     


 あれから十日後。婆さんに電話をする俺。

『どうした小僧。何の用じゃ?』

「何だじゃねーよ婆さん!裏山の件を説明して貰おうか?」

 聞こう聞こうと思っていたが、面倒になりどんどん後にしていた。だが、婆さんに用事があり、今日電話を掛けたついでに聞こうと言う訳だ。

『ああ、じゃから来たるべき時の為に……』

「だから来たるべき時って何だよっ!いつ来るんだそんな時はっ!」

『まだ来ておらぬから教えられんのー』

 このババァは言わないと言ったら言わないのだ。

 面倒くせぇババァだが、ゼネコン並みに世話になっているので聞かない事にしよう。機嫌を損ねたら更に面倒臭そうだし。

『それがええ。全ては廻って来るのじゃ。お前さんもその時が来れば解る』

「心を読むなっ!!」

『ははは…で、本当の用事は何じゃな?』

 おっと忘れていたぜ。この歳で健忘症は嫌だな。今度からは用事を優先して話をしよう。

 俺は以前頼んだ事を実行して貰うべく、婆さんに電話を掛けたのだからな。

「あのバカホテルの支配人は金を払う気が無い事が昨日解った。よって以前頼んだポリのお偉いさんに逮捕してくれるように頼むぜ」

 あの支配人の大村が約束の期日にも金を払わなかったので、神崎が電話で催促した。

 したらば!!

 あの出来事は集団催眠で、悪霊やら祟り神は無かったとか!

 集団催眠は除霊で解決した訳じゃないから払う義務は無いとか!

 神主を捜すのは土地の氏子の仕事だからとか!

 俺との契約を全く無視しやがったのだ!!

『うん……菊地原ちゃんに既に頼んだんじゃがな…警察は民事不介入じゃから無理じゃと』

「何?契約違反とか詐欺とかで逮捕できないのか?」

 ガッカリした。もう誰も信用できん程ガッカリした。

 タダ働きはともかく、あのクソ支配人の思うツボなのが腹ただしい!!つか普通にタダ働きも冗談じゃねーけども。

『じゃから支配人は別件で逮捕するそうじゃ。叩けば埃がいっぱいあるそうじゃからな』

 クソ支配人は逮捕されるか。

 少しだけ救われたような気分になる。

『して、支払いじゃが、支配人からは一銭も出ん代わりにホテルのオーナーから金を出して貰う事にした。オーナーは小僧の条件を全て飲むそうじゃ。無論神主の件もな』

 俺は更にテンションが上がり、軽くジャンプをした。

『支配人はクビになる。横領が発覚したからの。それにあそこのオーナーはワシの昔からの知人じゃ。間違ってもワシにとって不利益な事はせん』

 つまりバカ支配人はホテルをクビになり、ポリに別件で逮捕される訳か。

「はははは!!約束を反故した報いはデカかったようだな!!」

 助けて貰ってから裏切る馬鹿は、どうせまともな人生を歩んではいまい。

 別件逮捕の内容が気になるが、俺の知った事では無い。世界一ざまぁ見ろと思うけど。

『して金額じゃがな。もう少しまからんか、と言っておるが』

「馬鹿支配人がクビになった時に値引きに応じると言ってくれ」

『お前さんもなかなか慎重じゃな。解った。伝えておく。じゃあの』

 ガチャリと電話が切れ、俺は小躍りしながら喜びを表現していた。

 それから一時間も経たない内に婆さんから支配人がクビになったとの電話が入った。

 神崎とオーナーとの話し合いの結果、50パーセントオフで手を打つ事で落ち着いた。

 あの時の神崎の見積もりより少しだけ上乗せした程度だが、それでも充分満足したので、俺は頷いた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 あの男により、この地に連れて来られた我だが…

 何故海神の我が、このような山に祀られているのか理解ができぬ…

 てっきりあの男の屋敷とやらが海辺に有ると思っていたが、海辺どころか川すら無い場所ではないか!

 憤るも、我の神体に毎日参る女や、ブチブチ言いながらも掃除に来るあの男に多少感謝を感じる我もいるのも事実…

 海の中ではそのような事も儘ならぬからな。

 ならば我はこの地で海神の役目を全うしようかと思う。

 幸いにして、我の社前には、湧き水で溜められている池がある。

 大きさは四畳程、深さは四尺程の、海とは比べ物にならぬ程小さな水溜まりだが……


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あ~あ……掃除面倒くせぇなぁ……」

 ブチブチ言っている北嶋さんを引っ張り、海神様の御社に掃除に向かう私達。

「文句言わない!北嶋さんが呼んだ神様でしょ?」

 北嶋さんはやはりブチブチ言いながら、バケツに池から水を汲む。

「ん?…あ、あれ?」

 北嶋さんが目を擦って何かを見ている。

「どうしたのよ?」

 私も池を覗き込む。

「え!?真鯛!?」

 池の中に赤い鱗の魚が居た!!

「それだけじゃないぞ!!あれは車海老だ!!」

 北嶋さんの指差した先に、車海老が真鯛から逃げようと必死になって泳いでいるのが見えた!!

 私は海神様の方を向く。海神様は面白くなさそうに、ぶっきらぼうに、それでも聞きたかった事に答えてくれる。

――不本意だが、海神としての責務は果たさねばならぬ。この大きさの池ではこれくらいが限界だがな…

 海神様は海神様なりに北嶋さんに礼を尽くした。

 しかしこの池はもう誰の目にも触れさせる事ができなくなった。

 真水に海の生物が生息するのが他に漏れたら、奇跡の泉とか言われて観光地になってしまう。

 そんな危機的な状況で、北嶋さんははしゃぎながら真鯛を捕まえようと躍起になっていた。

「おおう!!まさかのアワビまで居る!!なんだこれは!?パラダイスか!!」

 もうそれはそれは楽しそうに。見ているこっちも楽しくなるように。

「北嶋さん、この奇跡は海神様が起こしてくださったのよ」

「マジで!?グッジョブだぞ海神!!」

 何様のつもりなのか、北嶋さんは親指を御神体に向けて立てた。

――もう少し広いのならば大型の魚も放てるのだがな。もう少し深ければ大型の蟹も放てるのだがな。貴様の池が小さすぎ故に、この程度の加護しかもたらせなかった

 海神様の弁を北嶋さんに伝える。

「なに?じゃあ、でっかくすればマグロもタラバガニもこの池で獲れるのか?」

 伝えると頷いたのでそうだ、と答える。

「そうか……じゃあ…」

 北嶋さんは何かを思い付いたように家に急いで帰ってしまった。私を置いて。

――どうしたのだろうなあの男は?

「さあ…あんなに決意したような顔の北嶋さんは珍しいのですが…」

 何がどうしたのか私も解らない。ただ、何か企んだ事だけは想像できた。

 その想像は次の日に当たる事になる。


「なんかうるさいな…」

 家の近くで騒音が聞こえる。何か重い物を下ろしている様な、そんな音が。

「北嶋さん、ちょっと見て来てよ」

 促すも返事がない。外に出たのか?さっきまで家の中にいたのに。

 そうこうしていると、騒音が本当に家の近くで聞えてくる。具体的には庭の方から。

「ホントに何の音だろう?」

 いよいよ不安になり、外に様子を見に出る事にした。

「な!?なにこの機械!?」

 あまりにも驚いて叫んでしまった。

 大型重機がトレーラーから降ろされて、今まさに家に庭に入って来ている最中だったのだから!!

 その大型重機の操縦席から顔を覗かせて私の方を見ているのは…

「北嶋さん!?」

「おう神崎、トレーラーの運ちゃんの伝票にサインしといて」

 呑気に用事を言いつけるが、イヤイヤ、ちょっと待って!!

「この重機どうしたの!?」

「借りたに決まってんだろ」

 そんな事は解るわよ!!なんで借りたのかって事!!

「あ、まさか誤解しちゃった?買ったとか?お前は知らないだろうが、重機は買えばアホみたいな金額で…」

「そんな事知ってるよ!!なんで重機を借りたんだって事!!」

 見当違いな返しが来たのでちゃんと訂正した。この人の思考が今更だが解らないから。

「昨日池を広げりゃマグロがゲットできるっつってたからな。しかもあの池、ただ掘って周りに石を置いただけだ。あれじゃいつか崩れて埋まってしまう」

 マグロが欲しいから池を広げるって言うの!?

 呆れた。ただ呆れた。この人の無駄な行動力に。

「崩れて埋まるのならちゃんと直さなければ駄目なのは解るけど…あの土地は海神様の土地なのよ?勝手に弄るような真似は…」

「そうなのか?俺の山なんだから俺の自由にしてもいいように思うが、まあ、連れて来たのは俺だしな。その理屈も解らんでもない。んじゃサインしたら池の方に来てくれ。許可とやらを貰いに。俺話せないし」

 そう言って重機を裏山に走らせる。と、取り敢えず待っている運転手さんにサインをして、私も池に向わなければ…


 先に池に到着していた北嶋さん。海神様が、その機械は何だ?我の聖域を破壊するのか?と頑張って話し掛けているのに、大きめの岩に座りながらタバコを吸って知らん顔だった。

――おお、女、この男に我の言葉を伝えてくれ。文字通り話にもならん

 安堵して私に助けを求める。実がこうこうで、とお話しした所、海神様が目を剥いた。

――池を広げる!?それは良い事だ!!我の聖域がこんな小さな水溜りなのは戴けぬからな!!

 予想と反して乗り気な様子。てっきり弄るのは反対だと思っていたけど…

「お許しを得たけど…どこまで広げるつもり?」

 北嶋さんは降ろしていた腰を上げて御社を指差した。

「そうか。こいつ海の神様なんだろ?海の中は快適だったに違いない。だけどそれは無理、つうか、池の中に参りたくない。お供えも陸であげたい」

――こいつとはなんだ!!もっと我を崇めぬか!!

 お怒りの御様子だが、北嶋さんには届かない。呑気に話を進めているし。

「だからこの社を中心にして池を広げる。社に渡る為に橋も架けようかと思う。海の中とまでは言わないが、水に囲まれているんだ。ちょっとは快適に過ごせるだろう。どうだ?」

 そのどうだ?は私に話せと言う事だろうけど…

――聞こえておる。確かに貴様の言う通りよ。我は海神。本当は海が見える場所が良いのだが、それは儘ならぬ。貴様の代案で手を打とうか

 口では不満を表しているようだが、微妙に嬉しそうだ。ならば気持ち良く海神様の言葉を北嶋さんに伝える事ができる。

「そうか。んじゃ広さだが…この倍はどうだ?」

――足りぬ。土地全部池にしろ

 い、一応その要望を伝える…

「なに?ふざけんなよ!どんなに金を使わせるつもりなんだ!!」

 確かに…私は建設の事は解らないけど…結構なお金が必要なんじゃないかな…

――金の心配か?なんと甲斐性の無い奴よ。そのくらい貴様の責で何とかしろ

 いや、お金の事はね…ホントは言いたくなんだけど…

 困っていたその時、私の携帯に着信が入った。師匠からだった。

「は、はい師匠。今ちょっと立て込んでいて…」

 後でかけ直す。そう言おうとした。しかし先に師匠からの言葉で遮られる。

『聖域の拡張な。自分の希望の為でもあるが、小僧にしては中々気が利いておる。ちゃんと海神様の事も考えておられるようじゃしな』

 そう言われると…水で囲んで、の件はまさにそうだ。

 海神様の事もちゃんと慮っていた。マグロもそうだけど。でも、自分の聖域が広くなる事は単純に喜ばしい事だろう。

『小僧に伝えい。擁壁の製品はタダでくれてやる。世話をしたコンクリート製品制作会社のストック品じゃが、規格外製品になったから処理に困っているそうじゃ。それを使えと言ってくれ』

 製品がタダ?それは喜ばしい事だけど…こういう仕事は全く解らないので、北嶋さんに電話を代わって貰って直接話して貰う事にした。

「もしもし?婆さんか?何の用事だ?…ほう…ほほう…数は?へ~…そうなのか?じゃあ明日早速持ってきてくれ」

 意外と早く電話を終えた。結構簡単に話が決まったんだなぁ。

 そしてニコニコ顔で私達の方を向く。

「土地全部は無理だ。歩道も必要だからな。だが、土地の7割、池にしてやる。だいたいそれくらいの材料が手に入りそうなんでな。それでどうだ?」

 土地の7割!?それは…

「殆ど25メートルプールじゃない!?」

 学校とかでよく見るプールを想像して貰えれば理解できると思う。それだけ広い池を作ると言うのだ。

――土地の7割とな?確かに貴様等人間の歩く場所も必要だ。もう少し欲しいところだが、そこは深さで補って貰おうか

 ご満悦ながらに頷く。

「そ、それでいいって…」

「おう、そうか」

 簡単すぎるけど…師匠との話じゃ材料は無料になったみたいだけど…

「作業員はどうするつもりよ!?」

 これまた私はこう言う仕事に疎いからよく解らないけど、結構な人手が必要なんじゃないの!?

「俺一人でやるよ。代わりにキャリアも借りなきゃならんけど」

 一人で!?一人で25メートルプールに匹敵する池を作ると言うの!?

「じゃあ早速キャリアを手配するか。神崎、伝票の会社に電話して中型キャリア借りてくれ。んで明日持って来いって言って」

 中型キャリアって何!?と言うか決定なの!?理解が色々追い付かない!!

「ちょっと北嶋さ……」

 話したい事、聞きたい事がいっぱいあったのに、北嶋さんは既に重機に乗って走り出していた。え?まさか?ひょっとして?

――ほう?早速取り掛かるようだな。怠け者だと思っていたが、なかなか…

 感心する海神様。その言葉通り、北嶋さんは端の方に行って土を掘っていた。

「気が早すぎる!!図面とか無いのに!!」

――あの男の頭の中には既にあるのだろう。それよりも女、貴様、男に頼まれ事をされていたのでは無いのか?

 咎めるような視線を向けながら言う。置いて行かれた感がものすごぉくあるけれど…

 頭の中で師匠が叫ぶ。

「いいから言われた通り手配せえよ尚美!!」

 隣で海神様が促す。

――我の聖域の為に仕事をすると言うのだ。女、貴様も協力して然るべきだろう

 実際海神様の為でもあるし…師匠に言われた事でもあるし…

「わ、解りました…仰る通りですし…」

 海神様と頭の中の師匠は満足そうに頷いた。やっぱり置いて行かれた感が払拭できないが、これは必要な事なのだろう。

 手配の為に家に戻る。

 その道中、こんな考えが頭に過る。

「…一体どれだけお金掛かるんだろう…」

 工事には不確定要素が沢山ある。それを補うために北嶋さんのお給料は5万円になった。

「…まあいいか…北嶋さんのお給料を暫く5万円にすればいいだけだしね」

 と言うか、それしかないだろう。勿論協力できるところはするけれど。

 それよりも、工事に従事すると言う事は、仕事が出来ないと言う事だ。

 お金の問題と噛み合って、そこは本当に頭を悩ませる。

「だけど…彼にできない事をやるのが私の仕事なんだよね」

 まあ、何とかなるでしょ。最悪一人で依頼をこなせば済む話だし。

 ある種の覚悟を決めた。あまり心配はしていないけど、資金繰りは任せて貰おう。

 覚悟を決めたと同時に爽快感を覚える。その爽快感を無くしたくないと思ったのか、家に戻る足取りが軽くなった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

北嶋勇の心霊事件簿5~魂喰らい~ しをおう @swoow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ