第6話 ふりかえって見て

 あれは、ちょっとしたいたずら心だった。

 なのに今、みんなにふりかえられている私。

 うん、私が悪かったよ。

 だから、そんなにみんなしてこっち見るな。

 いらいらと、もはやほとんど小走りになって、家へと向かう。

「ただいまー!」

「おかえりなさい」

「おかー」

 お母さんと弟の声を聞きながら、台所にまっすぐ向かう。

「あれー? ねぇちゃん、なんかすっげぇにおいしない?」

「うるさい」

 とにかく急いで鞄から紙袋を取り出す。

「お母さん、何かビンちょうだい」

「ビン? 何するの?」

 台所から届く声。

「とにかく、フタできるヤツ!!」

「はい、これでいい? ……あ、キンモクセイ?」

 お母さんが差し出してきたジャムのビンに、ざらざらと紙袋からオレンジの粒を流し込んだ。

「くっさ! においくさ!!」

 わざとらしく、鼻をつまむ弟をにらみつける。

「お前はあっちいけ!」

 とにかくしっかりとフタをして、ようやくほっと一息ついた。

「これはまぁ、すごいねぇ……」

 肉厚で小さなオレンジ色の花は、ビンの半分ぐらいまで入った。

「授業中、トイレの匂いがするって言われたよ」

 ぶーたれる私に微笑みながら、お母さんは手の上でビンを軽くゆすった。

「こんなにあると、ラムネかチョコレートみたい。こういう形のお菓子、なかった?」

 四葉のクローバーを、小指の先に乗るぐらい極端に小さくした形のお菓子。

 確かにあったような気がした。

「だけど、本当にすごいね。木から落ちたのを拾ったんでしょ? 最初はゴミや砂とかもついてたんじゃないのかな」

 そう言われて、あらためてつやつやとした花を見つめる。

 紙袋を渡された時の、あの子の顔が浮かんだ。



「花屋のお姉さんに聞いたんだ。駅前の公園にいっぱい咲いてるって」

 全開の笑顔で言われて、まさか冗談だったとは言えなくなった。

「がんばって、きれいなの集めたから、もらってね!」

 特に仲がいいわけでもなかったけど、ハンカチを忘れたあの子に、貸してあげただけだった。

 なぜかなつかれて、面倒だと思ってた。

 誕生日の話をしていた時に、いつも誕生日の頃はキンモクセイがいい匂いをしているから。

 プレゼントにキンモクセイの花が欲しいなって。

 冗談のつもりだったのに。

「まさか、木だって、知らなかったとは……」

 花屋を何件かまわったけど、なかったらしい。

 最後に行った花屋のお姉さんに教えてもらったんだと言っていた。

 今の私は甘いお菓子を大量に食べさせられた気分。

 いくら好きでも、もういらない。

「ああなんか……負けた気がする」


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 ☆キンモクセイ(金木犀)


 種 類 - モクセイ科

 原産地 - 中国、日本

 花 色 - 橙

 花 期 - 秋

 花言葉 - あなたの気をひく

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花想い @Shiorin

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