第4話 量子使い

 地下100メートルにある『マレン』制御施設の中央、半裸の祐子が十字架にかけられている。

ゼブルの尾が祐子の腹部の穴に潜り込む。

「ああっ!あっ!やめてー!」

 祐子の悲鳴がこだます。

「よし地獄に通じた。あとは『マレン』とやらが暴走して終わりだ」


「佑子さんはトンネルというわけですか」

「ほう支配から逃れたか」

 庚申の声に振り返りもせず応える。

「勉強させていただきました……もうあなたから教わることはなにもありません」

「こちらもお前の協力は必要なくなった」

 祐子の腹部の穴から悪魔の眷属が溢れ出した。

「ゴクウ!」

 ゴクウが庚申に重なるように出現した。

「わたしはこの世界での有効な戦い方を見つけてしまいました」

 庚申は愉快そうな笑みを浮かべた。

「あの惨劇でなぜ天魔だけが生き残れたのか。答えは彼だけがナビと一心同体になるテクニックを持っていたから」

 庚申はゴクウと融合した。

「そしてあなたたちはナビを持っていない」

 錫杖が雑魚を薙ぎ払う。

「おのれ!」


「魔王さんよお姫様は返してもらうぜ」

 十字架の下に現れた天魔は竜妖精と合体した竜戦士のいでたちだった。

「ぬおおおっ!」

 叫んで天魔に飛びかかる。

天魔の鎧に爪をかけ火花が散る。

「なんと!?」

 ゼブルの爪が折れていた。

「いまの俺には一万人分の力が宿っている」

天魔はこぶしを握りしめた。

「くたばれ!」

 ゼブルを殴り飛ばす。

「ぶほっ!」

「俺の分!やられた仲間の分!お姫様の分!庚申の分!」

 次々にこぶしが炸裂する。

「そしてこの宇宙の全生命になりかわって撃つ!!」

「ぐわああぁぁっ!!」

 凄まじいエネルギーを乗せたパンチに魔王ゼブルが砕け散った。


「おいしいところを持っていかれた」

 祐子を十字架からおろす庚申。

「あ、ありがとうございます」

「『マレン』を止めるぞ」

 天魔が制御盤の前に立った。

「その前にやることがあります」

 祐子を天魔にあずける。

「佑子さんの穴を消しておかないとまた同じことがおきる可能性があります」


 制御板の前に立つ庚申。

「佑子さんのお腹の穴はホワイトホールです」

「ホワイトホール?」

「天文学者いくら探しても見つからないわけです、まさかマイクロサイズだったとは」

 庚申は操作して微笑んだ。

「きゃっ」

 祐子の腹部が白と黒の渦を巻き大極図のようになる。

そして渦の消えた後には普通の肉体があった。

「なにをしたの?」

「マイクロブラックホールを発生させて対消滅させただけです」


~~~~~


 相転移ドームが欠けるように消滅していく。

「おお、ドームが消えていく!」

 総理が感動している。


 天魔と庚申、佑子が現れる。

 佑子は天魔にお姫様抱っこされていた。

「もっと一緒にいたかったな」

 佑子は静かにまぶたを閉じた。

「おい嘘だろ」

 天魔は佑子を揺すった。

「こんなのいやだーっ‼」

 天魔は泣き叫んだ。


(人殺しにも存在理由がある……か。我ながら愚かなことを言ったもんだ)

 庚申は佑子に掌をかざした。

「でも生き神の存在理由なら……」

 庚申に後光がさす。

「庚申……」

「これが本業ですから」


 祐子の瞳がひらかれていく。

「……あれ?天魔くん、泣いているの?」

 天魔は黙って佑子をきつく抱きなおした。

 


               終わり 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハルマゲドン 伊勢志摩 @ionesco

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ