第3話 悪魔のささやき
「くそ今度は悪魔か」
立ち上がる庚申に天魔と祐子のが駆け寄り三人はゼブルと対峙した。
ゼブルは天魔に目をとめた。
「また会ったな、坊や。まだ生きていたとは驚きだ」
「てめぇ!」
「教えてくれ魔王ゼブルとやら」
庚申が天魔をさえぎる。
「なぜ我々の世界を崩壊させようとする?天使が言っていたように人を殺すのが目的なのか!」
「まったくそのとおりだ」
「なぜそんなことをする?」
「知ってどうする?」
ゼブルが庚申の胸のうちを見透かした。
「ただ知りたいだけだ!」
ゼブルの背後からさきほどのように天魔が切りかかろうとする。しかしゼブルの尾が槍のように天魔の腹部を貫いた。
「ごはっ!」
「その芸はすでに見せてもらった」
「天魔くん!」
「大丈夫だ」
その祐子の横に天魔は立っている。
「天馬くん?それじゃあれは……」
ゼブルに刺された天馬がナビの竜妖精ドラコに変身した。
「不意打ち失敗」
「なるほど、あの時もこうやって逃げのびたわけか」
「こんどは逃げない!仲間の仇を討たせてもらう!」
ゼブルに襲いかかる天魔。
その天魔をゼブルの尾が切り裂く。
しかしそれもまたドラコの作り出した幻影だった。
「つまらん、ほかに芸はないのか」
さらに天魔が出現して切りかかるのをゼブルの爪がつかむ。
「つかまえた」
が、天魔は爆発してゼブルの腕を吹きとばした。
「これは厄介だな」
ゼブルは瞬時に腕を再生した。
「面白い、ナビと入れ替われるのか」
庚申が状況をのみこんだ。
「協力させてもらおう」
ゴクウが天魔のコピーをつくりだした。
「庚申!ぼけっとしてないで早く『マレン』に行け!」
天魔が叫ぶ。
「そうさせてもらおう。祐子さん行くよ」
祐子の手を引く庚申。
「お前、この世界と我々に興味があるようだな」
「……!」
「よかろう、教えてやろう。そのかわり我がしもべとなれ」
ゼブルは悪魔の笑みを浮かべた。
「はるかなる時空のかなたで、世界に関するある絶望的な証明がなされた。なんだと思う?」
「庚申さんこれは罠よ!」
魅入られたような庚申をゆする。
「知りたい……」
「悪魔なんかとと取引きするな!」
天魔が切りかかろうとするところへゼブルが炎を吹きだした。炎の壁にコピーたちが消滅してしまう。
「死後の世界が存在しないことがあきらかになったのだ。これがどれだけの衝撃かわかるか?しかしあきらめきれなかった一部の愚か者たちがこう考えた『死後の世界がなければ創ればいい』」
ゼブルは哄笑した。
「聞くな庚申!」
「こうして人の創造せし天国と地獄が高次元空間に築かれた。だがその天国に行けるのは選ばれた者だけであまりに狭く独善的だった。そんなことが我慢できるかね。死後も神や天使を名乗る特権階級に支配され、死の自由と平等を奪われるなんて」
「庚申、究極の法なら俺が教えてやる!今度はただで教えてやるから」
天魔が呼びかける。
「我々は死を取りもどすために立ち上がった!ありとあらゆる時空に死を与えるために戦い続けているのだ!」
ゼブルは叫び、そして庚申にささやきかけた。
「わかったか、わかったならさあ、あの者に幸福なる死を」
ゼブルは天魔を指し示した。
「うう……」
「迷うな、我にしたがえばこの世の秘密をすべてさずけよう」
ゼブルの爪が知識の額を突く。
かさぶたのような鱗が知識の全身に広がっていく。
庚申が錫杖を天馬に向けた。
「おねがい、やめて」
祐子が割ってはいるがゼブルに捕まってしまう。
「あっ!」
「来い娘!まだお前がひつようだ」
ゼブルは祐子と地中に吸い込まれるように消えてしまった。
天魔と庚申が激しく斬り結んだ。
「いいか庚申よく聞け!俺が知ってるこの世の理は……」
庚申の動きが一瞬止まる。
天魔の二刀流が閃く。
「くっ!」
「たいした知識欲だ。ご褒美に教えてやる。この世の根本原理は」
手傷を負う庚申に天魔の指が輪をつくった。
「銭だよ、銭!ハハ、地獄の沙汰も金しだいってね!」
「少しでも耳を傾けた自分に腹が立ちます!」
庚申が反撃する。
「朝に道を聞けば、夕に死すとも可なりじゃなかったのか!往生ぎわが悪いぜ教祖さまよ!」
「たかがお金のために死ねるかよ!」
庚申怒りの連続突きが天魔に炸裂する。
もちろんこれも天魔の本体ではなかった。
「はっ!」
しかし再び現れた天魔をゴクウが打ちすえた。
ついにダメージを負った天魔が膝をつく。
「金銭だと?そんな人生になんの意味がある」
「生きている意味なんて誰にもわからねーよ」
「それはお前らに生きている価値がないからだ」
転がる天魔を追うように独鈷杵が地をえぐる。
「思い出せ!それはどんなものにも誰にでも例外なくあてはまるもの!」
「黙れ!」
天魔の肩を腰を庚申の錫杖がしたたかに打つ。
「それはいつの時代でもどの場所でも変わることなくあてはまるもの!」
「黙れ、黙れ!」
頭を割られ天魔が血に染まっていく。
「庚申お前の価値は誰が決める!」
庚申の背中をぞくりと興奮が走った。
何か大事なものにかすった気がした。
(なんだ、いまの感覚は。金銭?価値……)
錫杖を振りかざしたまま固まる庚申。
「この世のことがすべて金ならば……すべてのものに価値があり……」
天魔の剣が錫杖を真っ二つにした。
「あうっ!」
庚申が尻餅をついた。
「ああ……この世のすべてのものには、だれかにとって、なにかにとって価値があり、意味がある……無意味な存在などない……」
天魔の剣が庚申の額でぴたりと寸止めされて。頭部から全身へと蛇のような表皮が剥がれ落ちていく。
「これが究極の法、この世の理なのか」
庚申は泣いていた。
「おい、しっかりしろ!目を覚ませ!」
天魔が庚申のからだを揺さぶった。
「お姫様がさらわれたぞ!」
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