第13話 西成夕焼けハイボール

師走のたそがれどき、西成の夕焼けが五臓六腑に沁みる。

この惑星の横っつらをハイボール色の琥珀に染めた。


ちっとも新しくない新世界。

永遠に昭和を引きずる通天閣界隈。庶民の娯楽スマートボール。

小便臭い路地裏。目やにだらけの野良猫。五十円のジュース自販機。

ホルモンが焦げる香ばしい匂い。


あいりん地区で空き缶拾いするおっちゃん達も、

飛田新地で股を売る姉ちゃん達も、

うつろな目でブツブツ独り言を言ってるシャブ中も、

搾取するヤクザどもも、それぞれ弱肉強食の掟の中で生きている。


この界隈で人間が暮らしてる社会は、

天王寺の動物園よりももっと野生に近いジャングル。

弱肉も弱肉なりにたくましく、いのちそのものを野ざらしにして、

なまなましく生きている。なんとなく死を待つ者。でたらめに生き急ぐ者。

彼らはたしかに孤独死予備軍。

でも考えてみれば、死ぬ時は、誰だって一人だわな。


「生まれ生まれ生まれ生まれて生のはじめに暗く


死に死に死に死んで死の終わりに冥し」。


弘法大師空海のお言葉。


この街には、なぜかこの言葉がとてもよく似合う。


空は何時の間にか茜色から藍色。商店街にネオンが灯る。


串カツを頬張り、ハイボールを一杯ひっかけて、高野山に帰ろう。

ビリケンさんに捧げる、勝手に作ったオリジナルの真言を口ずさむ。

オンビリビリケンバヤケンバヤソワカ。

                合掌

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