第6話 竜聖炎武先生に捧げる、ゲームに関するエッセイ

大阪難波。とある雑居ビルの一角に

「ファミコンバー」と呼ばれるバーがひっそりと佇んでおります。

この店は、懐かしいファミコンカセットのゲームがやりたい放題であり、一杯飲みながら中年のオッサンたちが童心に帰る、秘密の隠れ家であります。 ちなみにこの日は、ゆきずりのサラリーマンのオッサンと、ナムコの野球ゲーム、「ファミリースタジアム」で対戦し、 真弓、バース、掛布という、黄金時代のタイガースの強打線を見事に封じ込め、勝利の美酒に酔ったのであります。

しかしまあ、最近のテレビゲームのグラフィックたるや、

SF映画顔負けのクオリティであります。

ゲームのシナリオもシステムも細部まで工夫が行き届いており、

インターネット通信なんかも出来るし、中毒性十分。

もし私が十代の少年だったら、あっという間に廃人にされてしまうであろう。

しかし、やはり私はもうオッサンの脳になってしまったせいか、

なんだか全然、最近のゲームに夢が持てない。

ゲームの中のキャラクターのレベルが上がれば上がるほど、

現実の自分のレベルが下がっていく気がしてしまう。

ゲームに興味を持てなくなった自分を寂しくも思う。

昭和51年生まれの私は、もろにファミコン直撃世代である。

スーパーマリオに胸をときめかせ、高橋名人の16連射を崇拝し、

寒い冬の夜、ドラクエ3を徹夜で朝まで並んで買った。

高橋名人は「ゲームは一日、一時間」、などと謳っていたが、

少年の私は、3度のメシよりファミコンが好きだった。

今思えば、当時のゲームのクオリティは非常にしょぼい。

絵は原始的なドット絵だし、 BGMもテクノっぽい数和音しか出せなかった。

ゲーム設定も操作性も不親切極まりなく、

敵キャラは理不尽に強かったし、主人公はあまりに貧弱だった。

何時間もかけて、苦労してプレイしても、 うっかりゲームオーバーになったらそれっきり。 セーブ機能もコンティニューも皆無の時代。

問答無用で、あっという間にオープニング画面に戻る。

なんという諸行無常であろうか。

いっそチベット僧になって砂曼荼羅でも作った方がまだマシ、と思えるほどの苦行であった。

「ゲームばかりやってると、キレやすい子供になる」という、

ゲームを悪者にする大人たちの世論は当時から存在した。

しかし、あの頃の原始的なゲームは、 忍耐力が無ければ決して楽しめない、シビアな代物だったのである。

「ゲームばかりやっていて、今の子供は想像力がなくなってしまう」、

みたいな世論もやはり当時からあった。

しかし当時のゲームはグラフィックがしょぼかった分、想像力で補うしかなかった。ファミコン時代のドラクエは、どんな魔法を使っても、その効果は文字でしか表示されなかった。「炎の魔法を使った」という文字を見て、その様子を脳内で想像するほかなかったのである。

たとえば今のゲームで、魔法使いが炎の魔法を使えば、

ど派手でリアルなCGで作った炎が、モンスターを焼き尽くす映像が見られる。

魔法使いの声を演じる、アニメの声優が叫ぶ。

「くらえー!!炎のなんたらかんたら!!」

グラフィックがすげえな〜と思う反面、

これでは子供たちの想像する余地が全く無い、とも思う。

そして私もかつての大人たちのように、ついついこう言いそうになる。

「ゲームばかりやっていて、今の子供は想像力がなくなってしまう」ってか。

少年時代、親の監視もあり、

家の中でファミコンは、限られた時間しか遊べなかった。

家の中でファミコンするだけでは飽き足らず、

我々はさらに「ゲームセンター」なる娯楽場へ遠征し遊ぶことも覚えたのである。

家庭用テレビゲーム機であるファミコンより、

ゲームセンターに置いてあるゲーム機、いわゆるアーケード版の方が、

グラフィック、BGMなどのクオリティが圧倒的に高かったのである。

「ゲームセンター」と言っても、今日のようにプリクラやUFOキャッチャーが置いてあって、カップルや親子連れで行けるような、ぬるいアミューズメントパークではない。

当時のゲームセンター、いわゆるゲーセンは駄菓子屋の一角を改装して

何台かゲーム機体を置いてあるだけの粗末な場所が多かった。

メダルゲームなどが置いてある、近代的なゲーセンが登場したのは、

私が中学生になったくらいだった。

駄菓子屋のゲーセンは、なんと1ゲーム30円だった。

ゲーセンにはタバコを吸ってる不良の高校生の兄ちゃんたちも出入りしていて、じつに退廃的な雰囲気であり、「不良少年の社交場」の趣きがあった。

カツアゲをされるリスクも当然あり、小学生の頃、初めてゲーセンに行った時は、500円玉を靴下に隠して、ドキドキしながら店に入ったものだった。

少年時代の私は、ゲームセンターに入りびたる背徳感に酔っていたように思う。

ゲーセンの一大エポックメイキングといえば、私が高校生の時くらいに一世を風靡した、「ストリートファイター2」であろう。 誰かが一人で遊んでいる台の向かいに座って、100円を投入し、 乱入して見知らぬ人と通信対戦するシステムで負けた人は丸々100円を機械に呑まれる。 空気を読まずに勝ちまくると、 リアルのストリートファイトでボコボコにされるケースもあった。

きつすぎる冷房の空気と、タバコのヤニが混ざった匂い。

誰かがコーラをこぼして、踏むとベタつく床。

なんか知らんけどよく置いてある、セブンティーンアイスクリームの自販機。

ああいうゲーセン、今はあんまり見なくなったなあ、としみじみオッサンは思う。

社会が健全だったころは、見るからに不健全な遊び場があった。

今は、ゲーセンも、パチンコ屋も、競馬場も、

なんだかオシャレで健全な、 ぬるいアミューズメントパークに成り下がってしまった気がする。不健全な場所が無い社会の方が、かえって不健全という気がする今日このごろ。

ハイボール、もう一杯おかわり。

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