第3話  中国人特有の栄養学

今、中国の都会に行けば、どこにでも哈根达斯ハーゲンダッツ冰淇淋アイスクリーム屋さんがあります。


しかし、中国人は本来、冷たいものを口にしたがらない民族性でした。


中国人はよく、各々マイ水筒を持参していますが、夏でも開水 カイシュイ( お湯 ) を平気で飲んでいます。


私が中国に駐在し始めた2006年ごろ、福建省の田舎の方ではまだ、ビールを冷蔵庫で冷やして飲むという習慣がなく、猛暑の夏でも、ぬるいビールしかありませんでした。


行きつけの店になると、気心知れた老板ラオバン ( 店長の意 ) が、ビールを冷やしておいてくれるようになり、「老板ラオバン啤酒ピイジウ冰的ビンダ。」(マスター、ビール、冷えたやつね)


と、いちいち言わなくても冷えたビールが出てくるようになりました。


一般的に中国でビールを飲むコップといえば、 御猪口くらいの可愛い一口サイズのグラスです。 何故、そんな小さいサイズかというと、中国では会食する際、

同席している一人一人と、

我敬你一杯ウォジンニイイーベイ 」 ( あなたに敬意を払って一杯飲みます ) などと言いながら、杯を交わす習慣があります。「乾杯ガンベイ」というのは、文字通り、杯を乾すことなので、空にする必要があります。

飲み干したら、杯をひっくり返して、「飲みましたよ」というアピールをします。


そんなルールがありますので、ジョッキや普通の大きさのコップでは身が持たないのです。 日本の乾杯でしたら、ジョッキの生ビールを一口でも飲めばいいわけですから、ビールの飲み方ひとつ取っても、文化の違いがあります。


中国人は伝統的に、冷えたものを口にするのは体に良くない、というふうに思っていますが、 そういった考えは、中国人特有の栄養学に基づいています。


ふつう、日本人は、肉や魚のたんぱく質や、野菜や果物のビタミン C とか B とか、鉄分や食物繊維とか、食べ物の栄養素で食事のバランスをとります。


中国人には中医ジョンイー ( 東洋医学 ) の陰陽五行説に基づく、独特の栄養学があります。 食べ物によって、体をあっためる「陽」の食材と、体を冷やす「陰」の食材があります。


体をあっためる「陽」の食材を「上火シャンフオ」と呼び、体を冷やす「陰」の食材を「降火ジアンフオ」と呼びます。




上火シャンフオの食材・・・羊肉などの肉類、唐辛子、生姜、酒 ( ビール以外 ) 、ピーナッツ、ライチ、パイナップルなど


降火ジアンフオの食材・・・キュウリ、茄子、西瓜、梨、ビールなど。



上火の食材には、精のつきそうなものが多く、あまり食べ過ぎると、ニキビが出来たり、 口内炎が出来たりします。上火シャンフオの食材を食べ過ぎた後は、茄子を食べたり、生のキュウリをかじったり ( よく中国の農村では夏に生のキュウリをかじっている人を見かけます ) 、降火ジアンフオの食材を摂取して、なんとか体温のバランスをとります。


日本では麻婆茄子という呼び方をしますが、

中国では、魚香茄子ユィシアンチエズと呼ばれる料理があります。

たくさんの唐辛子と細切れの豚肉、そして茄子が入っています。

この料理は、肉と唐辛子の上火シャンフオを打ち消すための茄子の降火ジアンフオが効いていて、 非常に理に適っています。


いわゆる上海蟹、中国では大閘蟹ダージャーシエなどと呼びます。

上海蟹は晩秋が旬です。

九雌十雄ジウツーシイシオン」という言葉があり、

旧暦の九月に食べる雌の上海蟹が美味しく、

十月には雄の上海蟹が美味しい、という言葉です。

この蟹を食べるとき、ビールを飲んではいけないとよく言われます。

なぜなら、蟹は「降火ジアンフオ」であり、ビールも「降火ジアンフオ」なので、 冬場に体を冷やしてしまうことになるからです。

この蟹を食べるときには、熱燗の紹興酒を飲んで体をあっためることをおすすめします。


中国のレストランに行くと、可楽コーラ雪碧スプライトと並んでよく置いてあるジュースで、

王老吉ワンラオジイ」というジュースがあります。

この飲料は、漢方薬の甘いお茶のような味がしますが、「降火ジアンフオ」の効果があります。機会あれば是非ご賞味ください。


日本語でも「秋茄子は嫁に食わすな」などと言いますが、

ケチな姑が意地悪してこう言ったわけではなく、

体を冷やすことになるから、

秋に茄子を食べるのは控えなさい、という意味かもしれません。



                           合掌

















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