第149話 鋼の素材をどう使いますか?

 勇者がドリスなどの残りの移民の面接をしていた頃、農業系の仕事を任されたトーマス率いるグリーンチーム達


「これで全員か?それじゃあさっそく、畑を作くってもらうぞ」


 トーマスの言葉に移民達は困惑し、その1人が恐る恐る口を開いた


「畑を作ると言われましても・・・、その…トーマス様」


 トーマスは頬を掻き照れくさそうにつぶやく


「トーマス様って・・・」


「トーマス様とお呼びしては何か不都合でも?」


「いや、俺は指揮する立場だし間違ってないんだが、慣れたなくてな。気にしないでくれ」


「は、はぁ?」


 トーマスの言葉に移民達は不安そうに狼狽え始めた。それを見たトーマスはまずいと思い強めの言葉で言う


「だから気にするなって! 用件はなんだ?」


「は、はい! 畑を作るとおっしゃりましたが、その為の道具類が見当たらないのですが」


「そのことか・・・。残念ながら使えそうな道具は今はこれだけだ」


 トーマスは後ろにまとめてあるガラクタを親指で指差してそう言うとそれを聞いた移民は狼狽え出し、トーマスは頭を抱えた。


「これだけですか!?」


「ああ、その内に生産係の連中が作ってくれると言う話だが、補充されるにしても早くて明日以降になるそうだ」


「明日・・・、では今日は何を?」


「この少ない道具を使って壊された畑の修復と拡張・・・だな。畑を荒らされないように丈夫な囲いで覆う必要もある」


 移民の1人がそのガラクタを見てトーマスに質問する


「あの、その少ない道具の中に折れた剣なども混じっているのですが・・・」


 トーマスは平静を装いながら答えた


「ああ、スコップ代わりに使えそうだから譲ってくれるように頼んだ」


「するとこの板も・・・」


「察してくれ・・・。道具が回らなかったヤツは瓦礫から使えそうな物を調達な。勇者さんいわく現地調達は基本だそうだ。ハイエナ共が言うには実際に勇者様も石斧を作って木々を伐採していたとかなんとか・・・」


 思わず頭を抱えてしまいながら言うトーマスの姿に移民は動揺している


「わ、わかりました。・・・正直にもうしまして、聞された以上に悲惨な状況の様ですね」


「たぶん、アンタの想像の斜め上の状況になりかねないから覚悟しろよ。色んな意味で何がおきるか分からないからな」


「はい、肝に銘じておきます」


「じゃあ準備を始めるぞ。作業範囲はロープの中だけだから外に出るなよ! まず畑の周りを堀も兼ねて水路をを掘る! 装備は早い者勝ちだ!総員行動開・・・」


 トーマスが指示を出した所に、後からやって来た人物がさえぎる様な叫び声でかき消された


「まてぇ~い! 俺を忘れてもらっちゃ困るぞ!」


「誰だお前?」


「俺はバリストンってんだ。不本意だが農作業組になったんでよろしくな」


「不本意っておい。じゃあ何で来たんだ?」


「もと闘技場選手だったんだが、それが最近負けつづきな所にここの領主さまとやらが連れてた犬にやられてクビだクビ。で、そのワンコロに復讐してやろうと来てみたんだが・・・・」


「それがなんで戦闘員じゃなくこっちに回されたんだ?」


「道具の要らない鋼の如く鍛え上げられた肉体が武器だとアピールしたんだが」


「ほう」


「ユートの旦那に怪力で岩を退かせますか?なんて聞いて来るもんだから、岩や地面ぐらい素手で掘り返してみせらぁ!・・・っと、言っちまったのが原因だなたぶん。やっちまったぜ」


 トーマス話を聞きながら”岩なんてこの辺りにあったっけ?”と首を傾げながらバリストンに話し掛けた。


「岩ねえ・・・。そりゃ災難だったな。ところで犬ってポチィーの事か?」


「おう、確かそんな名前だったな。あのクソ犬」


「ポチィーなら、ろつかれると危ないから首輪で繋いでおいたんだが・・・、縄を食いちぎって来ちまったみたいだな」


 ポチィーはバリストンの後ろで尻尾を振っていた


「ワン!」


「あ、てめえ!」


 バリストンはポチーを睨んでいる。トーマスはポチーを見て困惑した


「あー・・・どうしよう。バリストン、ダメもとで言うが悪いがポチィーを勇者様の所へ返してきてくれねえか?」


「言われんでも羽交い絞めにしてみせらあ!」


 バリストンはポチィーに掴みかかった


「ワン!」


 しかしバリストンの攻撃は躱された


「このッ逃がすか!」


 バリストンはポチィーの首輪から垂れ下がるロープを掴むことに成功した!


「ワンワン!」


 バリストンは踏ん張ったが、そのままポチーに引っ張られていった。バリストンの踏ん張る踵で畑が耕されて行く


「ぅうおおい!? そんなのありかあ!?」


 トーマスと移民達達は歓喜した


「おお!まるでラバにつないだスキで土が掘り起こされて行く! さすが鋼の肉体を自称するだけのことはあるな!」


「まさに人間重機ですねトーマス様!邪魔になりそうなのでここはあのお方に任せて私たちは退散しましょう」


「そうだな。おーい!作戦変更だ! 畑はあの1人と1匹に任せて水路を掘るのに全力を注ぐぞ!」


「「はい!」」


 移民たちは団結した


「おい!誰か!この犬を止めるのを手伝ってくれよ!」


 バリストンの助けを呼ぶ声は届かなかった


「ワンワン♪」


 ポチィは散歩が出来て喜んでいた

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彼方は勇者ですか?「はい」 軽見 歩 @karumi

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