第2話



捜索一日目





とりあえず、俺たちは迷い犬のポスターを街中に張ることにした

こんな大きな犬だ、街中を歩いていたらすぐに情報が来るだろう


「~♪ 主殿~、んふふふふ♪」


「なんだ、ずいぶんご機嫌だな?」


「~~~~~~♪何でもないのじゃ~」


現在俺はコハクと一緒にポスター貼りの真っ最中なのだが

なぜか彼女は鼻歌交じりで上機嫌みたいだ。

商店街まで来ると、キョロキョロとあたりを見渡しては

手当たり次第に気になるものに吸い寄せられていく、そして、之は何じゃ?

之は何じゃ?と質問攻めしてくる始末だ

そういえば、今まであまり外に連れ出す事がなかったからな

街中まで連れて来たのは初めてかもしれない。


「んふふふ、夫婦の初めての共同作業じゃな~」


「そんな言葉、何処で覚えたんだお前」


お互いに協力して電柱にポスターを貼る作業をしていると

不意にコハクが二ヘラニヘラと笑いながら可笑しな事を言うものだから

俺も改めて考えてしまった。

こうして二人で歩いていると、他人からはどう見えているんだろうか?

間違いなく夫婦ではないだろうがw兄妹?イヤイヤ

見た目中学生くらいの少女と、くたびれた中年オヤジだ

きっと親子に見えるに違いない

不思議なものだ、圧倒的に俺より年上なのに、こうして燥いでいる

コハクを見ていると、見た目相応の少女にしか見えない




ちなみに、事務所にいる時と、表にいる時のコハクは人化

していて、耳は人間そのもので尻尾は無い

涼しげなワンピース姿が、白く長い髪の彼女によく似合う

余談だが、うちに帰った後は本来の狐の姿でいる。

最初のうちは半獣の姿でいたが、狐姿のほうが俺に構ってもらえる

事を学んだらしい・・・・・

だって、もっふもふなんだよ!耳とか毛がふっわふわなんだぞ!!

狐が丸まって寝てるところなんて!!!

思わず添い寝してしまうのだが、翌朝人化した嫁気取りのコハクを見て

またやってしまったと後悔するのだ


「しかし主殿、これで本当にあの犬が見つかるのか?」


「ん~~~、どうだろうな?これで見つかれば楽なんだが、もしかしたら

 誰かがすでに保護してるかもしれないし、そうでなくても目立つから

 目撃情報が得られるかもしれないしな」


そんな頼りない答えに、コハクは訝しむが情報は大事だ、だいいち誰かが

既に保護していたら、こうでもしないと絶対見つからないだろう


「地味じゃな」


ぽそりとつぶやかれた言葉を無視して俺は黙々と作業する・・・

探偵なんて、実際こんなもんなんだよ!ドラマや漫画のあれはもはや探偵ではない

探偵は戦わないし拘束権限も無い、ひたすら調査のじみぃ~~~~な仕事なんだよ

っと、そんなことを考えながら

電柱に糊を塗ってはコハクに持たせていたポスターを受け取るとペタペタとそれを

張っていく、午前中から動き出して、現在正午あたり、50枚用意したポスターは 

ほぼ貼り終えた、これだけ貼ればいいだろう


「よし、こんなもんだろ、そろそろ飯にするか?」


「うむ・・・しかし主殿、お主に言われて今日はお弁当をつくってきておらんぞ?」


「ああ、昼はどこかで一緒に食べに行こうと思ってな」


小さな街とはいえ、メイン通りともなれば幾らでも食事処は有る

たまには二人で外食も良いだろう、彼女には悪いが久しぶりの米オンリー以外の食事で

テンションが上がっている自分がいるようだ、悟られないようになければ、面倒ごとは御免だ

適当にファミレスに入ると、早速コハクがそわついている・・・ハァ、大丈夫かな?

あまり奇行を晒されては敵わないと思うのだが、此ればかりは仕方がない

店内を珍しそうに見渡す彼女を席に就けると、すかさづウェイトレスが注文を取りに来た


「ご注文をお伺いしますゥ~」


「じゃあ、俺は、から揚げ定職にするかな・・・コハクはどうする?

 何でもあるぞ?」


「何でもじゃと!?う~~~ん、う~~~ん」


「お兄さんは、から揚げ定食ですねェ~、そちらの狐様は何にしますかァ~?」


ニコニコと笑顔のウェイトレスがとんでもない事を口走ってきたのを俺は聞き逃さなかった


「えっ!?」


何だと!?どういう事だ?狐だと、何故このウェイトレスはコハクのことが分かったんだ?

当のコハクは、メニューを見ながら”う~~~ん”っと唸っている、気が付いてないのか?

それに、正体に気が付いたとして、何故平然としている?


「ねず天は無いのじゃな~」


「ねずみさんは、流石に置いて無いですねェ~」


「ぶほっ!」


ねず天!?ねず天ってあれか、ネズミの天ぷらか

そんな物有る訳無いだろ、怒涛の如く訪れる疑問で完全にテンパってるせいで無意識のうちに

ウェイトレスとコハクを交互に見ていたらしい、その視線に気が付いた

件のウェイトレスは声を潜めて言ってきた


「ん?あ、大丈夫ですよぉ~、ほかの人間さんには内緒にしますよぉ~」


「此れにするのじゃ!・・・ん?どうしたのじゃ?主殿」


「どうしたって、お前正体ばれてるの気が付いてないのか」


「ん?おおっ、主殿は知らんのじゃな、人化の出来るあやかしは人に紛れて生きて

 おるんじゃこの街にも沢山おるぞ?そこの娘の様にの、儂だってそうじゃろ」


コハクが言うには、このウェイトレスの女性は猫又と言うあやかしらしい

実は、午前中のポスター貼の時も何度もあやかしとすれ違っていたそうだ

しかし、人に紛れると言ってもまさか働いてるとは思わなかった、なんかこうイメージ的には

幽霊のように何処か暗闇に潜んでいるようなものだと思ったんだが、彼女ら曰く

お腹も空けば住むところも要るのでお金は非常に大事なのだそうだ、そらそうだ、うん

そんなこんなのやり取りをしつつ、結局コハクも俺と同じものを頼む事になった

食事中も、から揚げをほうばっては目を輝かせ、旨すぎるのじゃ!っと大騒ぎする

などと言う事もあったが、此れで人間の食事事情に気が付いてくれれば

あの白米地獄から解放されるかもしれないなどと淡い期待を抱いたりしみたりする

のだが、あまり期待しないでおこう







「それじゃあコハク、お前は事務所に先に帰っていていいぞ」


一通り食事を済ませ、まったりと食後のコーヒーを飲みながらコハクにそう告げると

この世の終わりの様な顔をして抗議の声を上げた


「なっ!?何故じゃ?このまま主殿と”でーと”をするのではないのかっ!?」


「誰がそんな事言ったよ・・・」


だからその知識はどこで得た!?、コハクは、ぷくぅっとほほを膨らまして全身で

不満を表現してくるのだが、午後からはどうしても別行動を取らなければならない


「悪いが、これから行く所はどうしてもお前を行かせたくないんだ」


「それは・・・・・どういう事じゃ?」


保健所・・・・此処だけは絶対に連れていきたくない、そこは人の業の成れの果て

今時、街で野良犬なんてまず見かけない、実は迷い犬は大体すぐに誰かに保護されるか

保健所に捕獲されているかのどちらかだ、だから必ず行かなければならない

しかも、あまりグズグズしていると取返しの付かない事にもなりかねない、のだが

今まで、煩わしいほどに俺のことを慕ってくれたコハクだが、保健所の存在を知ったら

どう思うだろうか?人間のこと、人間である俺の事を許さないだろうか?


「・・・・・・」


「心配せんでもいい」


「ッ!?」


「主殿の行く所なら、どんな所でも付いて行くぞ、あの時儂はそう決めたのじゃ

 例え何があったとしても、主殿と一緒なら儂は大丈夫じゃし、何があっても

 儂は主殿と一緒じゃ」


何を悟ったのか、俺の手を徐につないでくる彼女の手は、小さく、力強かった


お前は解っているのか?お前にとってあの場所は、まさに地獄だと言う事を

俺はお前にあの場所をなって説明すればいいんだ、なぁコハク・・・・・







「・・・分かった、行こう、一緒に」






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神沢探偵事務所のオイナリさん 蕎麦 飯 @sobamesi

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