第13話 高校デビュー!!⑬

 俺は柿崎と会計をしに行った。

「あの~、斎藤様……お話しよろしいでしょうか?」

 会計をしようとしていたとき、柿崎が弱々しい声音でたずねてきた。

 『様』って、何だコイツの丁寧な言葉遣いは。……嫌な予感しかしないんだが。

「話って、何?」

 俺が訊くと、柿崎はバツの悪そうな顔をして言った。

「財布を持ってくるのを忘れちゃいました。」

 ―――ああ!? コイツさっきまで、人が惚れたのを、本人の前で、おもしろおかしく言ってたのにさ、あんだけ料理食べといて、「財布がない」だってぇぇぇぇ!!!

 俺が怒りに震えていると柿崎がそれに気付いたようで。

「わわ、わざとじゃないんだ。持ってきたはずなんだけどな……すまないが、立て替えてほしい。もちろんタダとは言わない。利子は代金の2倍にするからさ。ねーお願い!!」

 と、手を合わせ、頼んでくるが、俺の怒りはおさまらず、ゆっくりと言葉を発しながら、思いの丈をぶつけた。

「2倍? ふざけているのか? お前は人に頭突きをくらわし、俺が惚れた人の前で、俺の思いをバラしたよな?」

「は、はい! やっぱり惚れていたんですね。」

「うるせえ!! そんなことより、損害賠償込みで考えてみろ……2倍ごときで足りると思うかぁ?」

「さ、3倍にするから、落ち着いてくれませんか?」

「さ、ささ、3倍ぃぃ!? 君は頭のネジが何個か足りないんじゃないかな……俺の心と体がズタズタに傷つき、散々、迷惑を掛けておいて、3倍ってのは、ひどいんじゃね~の?」

「わかった。悪かったよ。5倍にするから、許してくれよ。」

「『許してよ』だって? 何でタメ口なのかな~ 

 皆さん、聞いてください!!! この人は人に酷い事をしておいて、タメ口で偉そうに言うんですよ!!! 皆さんは、どう思いますか?」

 周囲の人に聞こえるような大きな声で言ったため、全員がこちらの方を向いた。その空気に耐えかねたのか、柿崎が口を開く。

「5倍にさせてください。斎藤様、あなたのような人格者にお金を払えることを、至極、光栄に存じます。」

 屈辱にまみれた表情しながらも、立場をわきまえているようだ。

 めちゃくちゃ気分が良い。さっきまで、人のことをコケにしてくれたからな。たっぷり可愛がってあげよう。

「5倍かぁ~ 『5』って、少し、キリが悪い数字だよね。どうせなら四捨五入しても―――」

 と俺が喋っているのをさえぎり、柿崎が言う。

「ぜひ、10倍にさせてください。そちらの方が私も喜ばしいです」

 柿崎の目は死んでいた。もう諦めている顔だった。

 でも、慰謝料はキッチリ、いただきますよ。ふははははーーっ!!!

「あ~、悪いね。まあ、俺も鬼じゃないから、これで全て水に流そう。明日、10倍分持ってきてね。男と男の約束だよ?」

「はい。わかりました……。」

 俺はその後、柿崎の分もお金を払ってあげた。

 柿崎には、あのことを言わなくちゃね。

「あ! 仲直りついでに良いことを教えてあげよう。さっき僕らが座っていた席に誰かの財布が落ちてた気がするんだけど……見間違えかな?」

「―――っ!!」

 柿崎は急に走り出して行った。

 悪いね、柿崎。君の財布が何処どこにあるかは初めから知っていた。でも、僕の怒りはそれほどだったんだ。しかし、お金は払ってもらうよ。それとこれとは別だからね。

 主人公の枠から外れた外道になったけど……まあ、いっか。


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変人学校の斎藤くん さいとうカフェイン @rsbb

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