第12話 高校デビュー!!⑫

 

 しばらくして、テーブルに注文した料理が並べられていた。

 俺はカツ丼の豚汁セットを食べていく。これがめちゃめちゃ美味い。学校の食堂でここまでクオリティが高いとは……やるじゃないか! 私立陽々学園しりつようようがくえん

 柿崎も「美味い!」と唸りながら食べていた。

 しかし……柿崎の食べる量は異常だな。さっき注文した大量の品が10分ほどで半分になっているんだからさ。


「きゃ~!! 柿崎くんコッチ向いてぇーー!!」

 突然の声が聞こえ、声のする方を見ると、女子生徒だった。そこから「え? 柿崎くん居るの?」「どこどこ?」と食堂に居る女子たちが騒ぎ始め、俺たちのテーブルは女子たちに囲まれてしまった。

 どうやら、柿崎はイケメンのため、女子にチヤホヤされていた。異様にムカつく。何で性格悪いヤツが女子に人気が出るんだよっ!! てめーら女子は見る目ねーんだよ。

 しかし、女子に囲まれている所為か、無意識に俺のコミュ障スイッチがON状態になってしまう。だって仕方ないよ。男子に話し掛けるのすら出来なかった俺が男子と喋れているだけでも、血のにじむような特訓のお陰なんだ。中学時代は俺の半径1メートル以内に女子が来たことすらないからな。

これを機会に女子に喋ろうとも思ったが緊張して声が出ない。まだ、俺の圧倒的コミュ障は治っていないようだ。てか、さっきから、いい匂いがする。匂いの元を辿たどると、女子たちだった。

 そうか……女子はいい匂いがするんだね。何か、感慨かんがい深かった。

 ん? 俺……なんか変態みたいなこと言ってる気がするが、まあ、そんなのはどうでもいい。

 料理を食べ終えた柿崎は急にキリっとした顔をし、女子たちに言った。

「ごめん、これから用事があるから、ちょっとおいとまさせてもらうよ」

「え~ちょっと待ってよ」「寂しい」「行かないで」などと女子たちの落胆の声が聞こえた。

 一人の女子が俺の肩に手をポンと置き、こう話してきた。

「君もまだカツ丼食べ終わってないから、もうちょっとここに居てたいよね?」

 確かにカツ丼は食べ終わっていない。それより―――近い。女子との距離が近い。ヤバい、ドキドキしてしまう。好きになっちゃう!! 女子耐性の無い俺にはこの距離感を取られてしまうと、いろいろとヤバい。

 俺は「は、はい。もうちょっと居てようよ柿崎くん」と言うと、柿崎は「分かった」と渋々、ここに居ることを決断した。

 女子は「ありがとう」と言い。なな、なんと、俺に抱き着いたのだ。そのとき、俺は石のように固まり、脳内にはお花畑が広がっていた。抱き着いたのは少しの間だったが、幸せだった。これをリア充どもは毎日のように感じているのか……クソ腹立つし、羨ましいぜ。でも、柿崎のお陰でもあるな。女子に抱き着かれるなんて、そうそう起こらないイベントだ。神様、仏様、柿崎様だよ。

 不意に柿崎の方を見ると、ニヤニヤと笑っていたのだ。

 俺は問う。

「何で、笑ってるんだい? 柿崎くん」

「えー、だってさ、君があまりに初心うぶだから、つい笑ってしまって。

 君、惚れたね。さっきの女の子に……」

 何でここで言うんだよっ!! 女子たちがテーブルの周りにまだ居るのによ。そう、惚れてしまったよ。悪いかよ。だって、ただでさえ可愛いうえに、抱き着かれたんだ。これで惚れなかったら、俺はよっぽどの人間だよ。さっきの女子は「えっ……」とビックリしていた。

 もちろん、本心をさらけ出すわけにはいかず―――

 「そんなわけないだろ。ほら、もう行くぞ」

 と俺は柿崎の手を引っ張り、その場から離れる。女子たちの落胆の声が聞こえたが、今はそんなこと気にしない。




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