第17話 幸せポイント発表!

 ―とあるキルド。


「マルクス、大変だ!お嬢様が攫われた。相手は元奴隷商人のリッジベルト伯爵だ!」

「ブハッ!なんだと!」

「きたなっ!なにしやがんだてめえ!」

「うるせえ!」


 ―――ドカッ!


「おれがなにしたってよ…」

「おい、それは本当か!くそっ、今日に限って護衛が入ってなかったのか!おいっ全員召集するぞ!」

「ああ!」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 ―とある街中。


「聖母様が…聖母様が攫われた…」

「おい、お前その時なにしてたんだよ!」

「いやだって、伯爵家の家紋だぞ、何かできるはずがねえ」

「くそっ、貴族どもはいつも俺らの大切なものを奪っていく…」


 ―――ガンッ!


「な、なんだ、あんたうちの壁壊すなよぉ」

「俺は行く、あの人はここにとって居なくてはならない人だ」

「…そうだ…そうだよな!」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 ―とある館。


「メイベール、いくらお前が止めたとしても私は行くぞ」

「お止め致しません。どうせエルベラース家はお嬢様と一蓮托生なのですから」

「旦那様、我が手の者100名、集まってございます」

「うむ、多くは無いが多少は脅しになるだろう」

「あちらはこっちの3倍は超えますがね」


「なあに、一人につき3人やれば勝てるさ」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「おい神父!早く治さぬか!」

「いやー結構な重症ですよコレは。うん、もう少し準備にかかりますしね」

「口が軽いぞ神父」

「ハハッ、なんのことやら」


 少女の治療に来た神父、なんと!あの全盲女性の旦那さんであった。

 その神父が言うことには、今暗殺者ギルドや子供達、はては町の皆が一斉にこっちに向かっているらしい。

 少女を助けるために一致団結で、初めて貴族に立ち向かうと決めたようだ。


 これはいいことなのか悪いことなのか…下手すれば貴族が平民を弾圧、さらに下手すれば一気に革命。

 どんだけ死者が出るか分からない。


(ねえ、なんかどえらいことになってきたんじゃない?)

「なあフェイリース、お前ならどうする?」

(えっ、私…)


 フェイリースはフワフワ浮きながら考え込む。


(私ね、今の貴族本意は間違っていると思うの)


 フェイリースはなにかを思い出すように宙に視線を彷徨わせる。


(だからと言ってね、平民が政治をできるとは思えないの)


 フェイリースはオレをじっと見つめてきた。


(あなたのような…分かる人、出きる人がちゃんと民衆を導いていかなければならないと思うの)


 フェイリースはオレに重なってきた。


(あなたが…王様、ううん女王様になるのが一番だと思う)


「それは違うな、オレは王様にも女王様にもなれない。なんたってオレは…死人だからな)

「えっ、あれっ!なんでっ!」


「なっ、なんだこの光は!うわっ、来るな!こっち来るな!うゎあわわわぁぁああ!」

(フェイリース、今のお前なら、オレ以上に人々を幸せにできる、オレはそれを暢気に上から見させてもらうとするさ)


◆◇◆◇


◇◆◇◆◇◆◇◆


 巨大な暁が世界を照らした日、一つの王国が滅び、一つの王国が生まれた。


 この世界で初めて平民が貴族に打ち勝った日であった。

 そして、その平民を率いたのはまだ少女といえる年齢の女性であった。

 その少女は輝く光に導かれ数々の貴族を打ち倒したとされる。


 貴族の3分の1を失ったこの戦い、だが、平民にはほぼ犠牲がなかったと言う。


 一説には光の影から生み出された亡者が、恨みのある貴族を食い殺したとか。


 亡者に恨まれていない貴族だけが生き残り、生き残った貴族は皆、少女を信望したという。


 そして少女は女王となり国を導いていくこととなる。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「えっ、光の珠!?どこっ!どこで見たのよ!」

「まだ諦めていないのですかな」

「ちょっ!あんた出てこないでよ!もう、居るだけで悪霊が集まるんだから!」


◇◆◇◆◇◆◇◆


◆◇◆◇


 ・


 ・・・


 ・・・・・・


 …ここは?


「いやあ、また会えたね」


 お前は…地獄の案内人…か?と言うことは、戻って来たのか。

 男はガバッと起き上がる。


「フェイリースは!レイズは!」

「大丈夫だよ、彼女らは君が庇ったおかげで無傷で最後の砦を落としたよ」


 貴族との最終決戦、最後の悪あがきとばかりに、とんでもないトラップを用意していた。

 財力に物を言わせ魔道具をかき集め、下級貴族の命を吸い上げ、核兵器並みの威力の魔法を放ってきたのだ。

 オレはその魔法を受け…


「無茶するね、おかげで君はあの世界に現存する事が出来なくなってしまった」

「そうか…まあ、後はあいつらがなんとかするか…………よし!随分幸せポイントも稼いだはずだ!未練はない!」

「いやあ、つよがっちゃってまあ。たださあ、なんか勘違いしているようだけど、君、幸せポイントたったの2だよ」

「えっ!?」


 そんなバカな!孤児達や奴隷市場の住人達、下町の平民達、みんな幸せそうにしてたはず?

 戦争だってほぼレイズのアンデットが占めたし。いやあ、あの世界の貴族、悪霊に大層恨まれてる奴らばっかだったから。


「うんうん、あの世界の住人達、随分幸せポイントが増えたよ、喜ばしい限りだ。でもね、そのポイント、ほとんど彼女のものだから」

「ええっ!?」


 彼女?彼女って…フェイリースのことか!


「そのとおり!」

「いやいや、なんで?オレ頑張ったよね?」

「だって、君だと認識してくれた人って居た?」


 …マジか。


「しかも途中から彼女にブン投げだしねえ」

「あれは、あれ以上…いずれ居なくなるオレが関わるのは良くないと思ってな。それに、なんかフェイリースが消えてしまう気がしたんだ」

「まあ、その判断は…間違ってないかもね」


 そう言うとそいつはズイッと顔を近づけて来る。


「さて、幸せポイントはたったの2だ。だけど、その二つが随分大きな想いでね、こうして『オレ』が再び形作れた訳だが…」


 そしてニヤッと嗤う。


「もう一回、行っとくかね?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地獄行きを回避する為に、異世界人に取り憑く事になった ぬこぬっくぬこ @nukonukkunuko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ