第8話「水の底」
何もかも忘れて思い切って飛び降りると、アッと言う間に水面がグングン近づいて来た。
ドボン、ブクブクブク――と境界を
穴だらけの
その他諸々の良く分からない物体たちも、新参者の私を優しく出迎えてくれているような気がする。
――いや、きっとそうなのだ。
絶対、そうに違いない。
この海は温かい。
この海は優しい。
(はて、ここは海だったかしら?)
彼ら海の先住者たちが、私を快く受け入れてくれている証拠に、みんなが私に手を振ってくれているではないか。
みんな陽気に笑っているではないか。
何てみんな朗らかで優しい笑顔なんだろう。
ゴツゴツした無骨な岩だって、
そして皆が
何て優しい先住者たちだろう。
何て優しい世界だろう。
今までの世界の人たちとは、大違いだ。
私を追い詰め、
この世界の住人の心は、正しく海のように深いのだ。
この水の世界では、全てが
あちら側が不寛容社会ならば、こちら側は寛容社会だ。
見た目は
おいでぇ、おいでぇ――と。
こっちへおいでぇと、虚ろな顔で誘ってくれるのだ。
ブヨブヨに
私のような駄目人間を欲してくれる。
(アァ、必要とされるこの喜び!)
目玉のない虚ろな顔で、半分崩れた不自由な身体で、懸命に私を海溝へと誘ってくれているのだ。
――あの真っ暗な海溝。
見ただけでゾッとするような深い深い
ほら、その証拠にみんなの腕が私をつかもうとする。
おいでぇ、おいでぇと言いながら、私の身体をつかみ、あちら側へ引き込もうとする。
(ゴボゴボ……苦しい……苦しい!)
幸せが私をつかむ。
幸せは直ぐそこにある。
あとちょっと、あとちょっと、もう少し頑張って、あの海溝を
そう思ったその瞬間――
ザブンと大きな音がして、頭上の水面から腕が現れた。
それは水の底の腕とは違って、太く
腕は私をつかむと、力強く水面の方へ引っ張り上げる。私の気持ちは既にあの海溝へ向かっていたのに、その腕は水の上へ、あの
私は再び
水の中の先住者たちを見ると、みんな悲しそうな顔をしていた。
あの海溝の上の物体たちも、ションボリと肩を落として、私の姿を見送っている。
私は悲しくて、申し訳なくて、ごめんなさいごめんなさいと何度も
直ぐ意識は途切れて、私は真っ暗な虚無の中にいた。しかしそれも
ゲホゲホと噎せ続けながら、呼吸を
次第に意識もハッキリして、ボンヤリ
――アナエオトコ。
思わず口を突いて出たそんな軽薄な言葉さえ、彼は
そうしてたぶん、私は救済されたのだろう。
小さく「えぇめん」とつぶやく。
太陽光線が
(お
短い話 こもり匣 @jet002
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