「文芸」の読者は要求が高い

 文章への要求が高いんです。なんというか、市販されている中の超一流の売れっ子作家陣と同程度のレベルを求めてきます。妥協なんかありません。

 これが、読書家となればなるほど、文章には一定のボーダーラインを設けていて、これを超えている事が当然と求められる、という事です。


 いつでもどこでも誰もが名を知る著名な作家と比較して、読むかどうかを決めてきます。タイトルで興味を惹かれたら、あらすじとか帯の文言でチェック、人によってはさらに後書きとか解説とかでもチェックして、最初の冒頭を読み始めます。


 冒頭を読む頃にはあらすじとかで大体の筋は掴んでいるわけなので、ここではまず別の項目をチェックするわけですよ。すなわち、文章力、です。


 この文章力のラインが、Webを読み漁っている方々と、一般の読者とでは違うのです。一般の、文学文芸読者はなみいる有名作家たちの文章を基準だと思っているんです。ここが大きいのだ、とカクヨムに来てからずーーーーーーーーーーっと、言ってますよね?


 では、何が違うのか。ここが肝心なのに、今まで書いてませんでした。



 残念ながら私自身の読書スキルが低すぎて、よく解からんかったのですよ。けど、なんか今日、突然に閃きましたんで、ようやく書けそうです。


 えー、並み程度の描写力ってのは、物事を「順序だてて、何が起きているかを書ける」くらいはやれていると思います。これが上手となると、「過不足なく、必要最低限だけの文章で綴れる」になります。余分がなくなりますね。一人二人挙げると、池波正太郎先生とか江戸川乱歩先生の文章なんてのは惚れ惚れするほどシンプルイズベスト。で、文豪とか超有名どころになると、このシンプルな文章が、シンプルなだけでなく、これでしか嵌まらない、というレベルで換えの効かない嵌まり具合になります。こんなもんは才能ですんで誰でも習得できるわけじゃないから横へ置いといて。


 順序だてて、起きている事柄を過不足なく描写する、と簡単に書きましたがこれが難しいわけです。比喩とかも使うだろうけれど、この比喩は「その場面にそぐわないものを使ってはならない」わけです。

 喩えるのに何でも使っていいわけじゃないんです。


 感覚的にはすんごく解かってきたのに、それを文章に落とし込むことのなんと難しいことか!


 戦闘シーンを書いたとします。比喩は小さなところにも出てきます。この喩え方でセンスが問われる。読者はイマジネーションを作者のレベルに同調させられているわけですよね、比喩そのもののセンスも読者は作者から借りることになる。


 ラノベ系の、特に脳内補完が大きいタイプの、端折る文体ならば問題がなかった部分の同調が読書体験を大きく左右するわけです。描写を多用した、一般文芸に近しいタイプの文体ほど、読者が作者のセンスに同調する部分が大きくなります。


 比喩の使い方、

 何を喩えに出すか、

 動作などのどこを端折りどこを描くか、


 描写というのは、読者へのイマジネーションの指定書です。描写の密度が高くなれば、それだけ読者は自由に想像することを制限されるわけです。

 著名な作家陣の書く文章は、なのでこちらの先手を取った書き方をしてきます。先回りで誘導されているので、読者である私は、次の文章で触れる事柄をすんなりと受け止めていました。ここが、Webの素人作者との違いです。誘導がない。


 Webの作品では、よほど巧い人でないと、緻密な描写をしていてすんなりと読み込めるという事はありません。読めるのは読めますが、のめり込めません。描写が多くなり指定が大きくなるほど、その傾向は強まります。使調


 文芸系の作品では、あの手この手で最初から、この「読者の感覚」を作者に依存するよう仕向けてあります。ラノベで言うところの「お約束」は文学や文芸にもある、というのはそういう事も含みます。そのセオリーを押さえているのが、市販小説における「当然」であるので、読者も当然に求めてくる、というわけです。


 市販の、人気作のラノベだとさすがにこの問題はクリアされていると思いますが、Web作品の方は玉石混交です。また、この問題は感覚、センスの問題でもあるので、書き手が自分だけでどうこうというのが難しいのではないかという気もしますね。自分と他人の感覚が違うなんてのは当たり前ですんで。

 批評を貰ってみる、という事も有効ですが、この場合は読み手のスキルにも左右されるので、どっちに転んでも難しい問題だなぁと思います。

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