頭に浮かんだ絵を文章化する時のリスク

 私もそうだけど、まず映像が頭の中にあって、それを他人に伝達出来るように文章化するという流れになっている人は、ちょっと注意が必要です。

 そのまま映像通りに文章化しても、読者は元の映像を見るようには楽しめないからです。作者にとってはリピート再生に過ぎないから気付かないけど。


 くすくす。この方式はね、実は私のよーに、な方式なので、絵心に自信がない人には特に危険なのですよ。訓練が出来てないから。


 絵描きは、頭の中のイメージをとても精密に正確に、頭の中で顕在化させる技術を持っています。絵を描くことが訓練になってんですね。絵が巧い人ほどその能力が高いんです。なので、それをさらに文章にするという方式では一歩どころか二歩も三歩も抜きん出ます。


 描けない人は、頭の中のイメージそのものが曖昧で、頭の中ででさえ正確に描き出すことが出来ていないので、さらにそれを文章化するという工程に移った時に破綻するわけです。

 あなたは自分の作品の主人公のイラストを描けますか?(笑


 映像作品は、一瞬にしてとても多くの情報を視覚で伝達してしまいます。風景、物の位置関係、天気、時間帯、周囲の人数にその位置関係、などなど。その場面の主要人物が何人で、どういう風貌で、どういう服装か、まで。キャラの見た目で社会的地位とか悪役か一般人か味方かのおおよその判別まで出来ます。

 これが、映像だったらワンカットで出来てしまうわけです。絵を受け取る側の脳みそには、その絵に含まれる情報の優先順位を考えるだけの負担しか掛かりません。その方式をそのまま真似て文章にしたってダメなのは解かりきったことだ、というわけです。頭の中の設計図の書き込み具合が違うので。


 昨今のラノベとかWeb小説では、冒頭部で色々と事前説明をまぁグダグダと書き連ねてあるタイプがよく見られるわけですが、私はアレが嫌いです。図工の時間で作らされるトランジスタ・ラジオの組み立て説明並みに読みたくないんです。

 大嫌いなトリセツが冒頭部から展開される小説なんぞ、五行読んでUターンです。


 しかし、Web小説ではそれが仕様となっているきらいがあるので、そういうものとして通る部分もあるようですが、普通の読者はそんなお約束知りませんからね。市場に流通している大部分の文学文芸は冒頭がトリセツなんて仕様じゃないですから。


 読みやすい文章とは、すらすらと読み下せる文章のことです。その内容に興味を抱けて、なおかつ、読み返しが必要ではない文章。

 一度目の読み込みだけで意味が通じ、なおかつ最初の一文からこちらの興味を引き、ぐいぐいとその先を読みたくなる文章ですよ。

 んですよ。


 冒頭の一行をいかに書けば、読者は二行目にも興味を持ってくれるだろうか、という思考で書かれていけば、おのずとトリセツなど書きませんよ。冒頭にトリセツを置いてしまうというのは、妥協なのです。妥協は、許してくれる読者にしか受け入れてもらえません。妥協のある作品は、ウケません。(私のケースも一つの妥協で、場違いと解かってるのに、書くべき場所を探すのが面倒で妥協してるのです)


 どうしてもトリセツを最初に置かざるをえない場合だけ、どうすればトリセツをストレスなく読んで貰えるかと思案するわけですが、プロならまずどうすりゃトリセツなんぞを冒頭に置かずに済むかを考えるでしょう。


 その一つの回答が、文章自体で酔わせるという方式です。トリセツの文章が恐ろしく気持ちのいい美文だったら、中身がただの説明であってもストレスは感じない。

 あるいは、設定で工夫をして冒頭トリセツに至らないように工夫するという手もあります。異世界舞台だと場所の解説が必須となりトリセツ率が高まるので、そもそもの舞台を変えてしまったり、と。


 考えると、ラノベ的異世界舞台というのは下調べの苦労は少ない代わりに、文章の苦労が多いと思いますね。冒頭の仕掛け一つ取っても、色々と制限が付いて回って逆に工夫が大変と感じてしまうのです。


 小説は、究極には主人公のビフォーアフターを描くものです。

 同じ変化は現実の世界でも描けるでしょう。ただ、下調べの大変さを取るか工夫の大変さを取るかの二者択一という気がします。

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