オタクの夢……醒めるや? 醒めざるや?

 それからしばらく、僕は真坂と顔を合わせることはなかった。

 別に避けていたわけではない。

 ただし放課後には、ムキになってレンタル屋通いをした。

 もちろん、凪原が再び来ることはない、あの店にも。

 彼女の姿を教室で見るのは辛かったが、それもせいぜい2ヶ月程度のことだった。

 僕の方を見もしない、見てもピントはこっちにはない。

 その度に感じる胸の疼きも次第に収まり、いつの間にか、春休みになってしまった。

 真坂には、「バルビュス」に行ってみたところで会った。

 僕はもうまったく気にしていなかったが、久々に会った親友はバツが悪そうだった。

 よっぽど、顔を合わせづらかったらしい。

 バイトが終わってからコンビニのテーブルで食事をしたが、そこで「倶楽部七拾年」のメンバーがどうなったかを無理やり聞かされた。

 真坂としては、そうしないと気が収まらなかったらしい。

 あの後、真坂には法的処分はなかったものの、長い自宅謹慎が待っていた。

 授業に出られない上に要出席日数が削られたため、進級も危なかったらしい。

 洋一は退学して通信制の学校に行ったということだった。

 敬は心を入れ替えて、進学塾に通っていると聞かされた。

 沙希は……退学したあと、どうなったかは分からないようだった。

 親の金脈人脈でどうにかしたようだったが、僕にはどうでもいいことだった。


 そんなわけでやがて2年間が過ぎ、僕たちはそれぞれの道へと進んだ。

 真坂は県外の大学に進学した。

 凪原はさすがに才媛らしく、海外に留学した。

 僕はそのままオタクを続けるために、ぎりぎり親の目の届かない辺りにある県内の大学を選んだわけだが、さて。

 2年ぶりに着いた、久志野沙希からのメール。

 掌に蘇る、あの大きくはないが「ある」とはっきりわかるあの感触。

 制服姿の小柄な少女の姿が目に浮かぶ。

 その影は、ずっと忘れていた凪原あきらの笑顔を思い出させた。

 そこで僕は、冬の朝に布団の中でぬくぬくとすくみ込んだまま考えこむ。

 ……さて、このメール。返すや、返さざるや。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ディープなオタクの昭和ドリーム・エクスプロージョン 兵藤晴佳 @hyoudo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ