華麗なる? 美少女のトリック

 だが、そのまなざしは「その他大勢」を見るものでしかない。

 要は、僕は当て馬どころか、裏の畑で鳴くポチにすぎなかったのだ。

 真坂と出かける僕に気づいて、手がかりを探っていただけなのである。

 それにしても、なんと手間暇のかかることをやったのだろう。

 僕の趣味を調べ上げ、70年代ネタを教室で振りまく。

 行きそうなレンタル屋の見当をつけて、何店かでそれらしいDVDを借りておく。

 「バルビュス」に連れて行ったのは、「ごまかしても無駄」ということを真坂に示すデモンストレーションだったのだ。

 誘いを断ったのは、彼女にとって待ちに待ったチャンスだったというわけだ。

 「ケイ」に巻かれ、風俗街で男たちに絡まれたたきは、さすがにしまったと思ったことだろう。

 案外、次の日にお礼を言ったのは本音だったかもしれない。

 「ケイ」こそいい面の皮だったわけだ。

 唯一の誤算は、僕と真坂がいつも一緒にいると考えたことだ。

 あんな薄気味の悪い部屋で、僕なんかと二人きりでわけのわからない特撮を延々と見せられてはたまったものではなかっただろう。

 だが、今、凪原が僕を見るまなざしには、怒りも嫌悪もなかった。

 あるのは、一山いくらの人間に対する憐みだった。

 これに対して、真坂は本当に済まなそうに言った。

「あいつを傷つけるつもりはなかったんだ」

「いつまでも続けられるわけないでしょう」

 その物言いは、だらしない息子を叱る母親のものとも感じられた。

 これに対しては、真坂が力説する。 

 それは、利用してしまった僕のためでもあったろう。

「最初は手を貸してもくれたんだ。でも、一人がボコボコにされて」

「自業自得」

 ある意味では加害者であるにもかかわらず、凪原は僕からも目をそらしてそっぽを向いた。

 その様子に、しばしぽかんとしていた真坂は、話の脈絡がおかしいのに気づいたようだった。

「何で知ってるの?」

「どうでもいいでしょ」

 その言葉の響きは、真坂がフォローしている僕に嫉妬しているとも、また自分のせいで「ケイ」が殴られたことを恥じているとも取れた。

 それをごまかしたいのか、凪原は逆襲に転じた。

「どうしてやめなかったの」

「逃げられなかったんだよ」

 言い訳がましかったが、真坂の立場だったら、僕も同じことをしたかもしれない。

 だが、それは女には決して分からないことだ。

 凪原は、真坂に対して思いっきり後ろを向いたまま、ぷっと膨れて見せる。

「つきあいきれない」

 だが、そこは真坂、笑顔でフォローする。

「来てくれてありがとう」

 明らかに社交辞令なのだが、凪原は笑顔で向き直って、真坂のみぞおち辺りを軽く突いた。

 けほっとむせる真坂をたしなめる。

「心配したんだからね」

 行こう、と恋人の手を取って歩き出した凪原は、ちらと僕を見たが、無言で目をそらした。

 代わりに真坂が、空いた片手で僕を拝む。

 二人を見送りながら、僕は思った。

 ……選択の余地なし。

 どこからか、『焚き火』の歌が聞こえてくる。

 歌のとおりに、冷たい北風が僕の耳元を吹き抜けていく。

 心の中にも、北風が吹く。

 残ったのは、手元のレアな70年代SFだけだ。

『透明ロボットクックロビン』 

 僕はオープニングテーマを口ずさみながら、いつの間にかすっかり暗くなっていた公園を後にした。


  驚かないぞ バンババン 

  誰も知らない バンババン


  透明なんだぜ ギューン! 

  大巨人


  銀河ボウガン 無敵

  真のパワーも 無敵


  俺の行く先 この調子


  捕まえてみろ ババン

  捕まえてみろ ダダン


  だけど俺を探さないでくれ


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