第2話 「この場所だけ痩せたい」って話

「フミ、ガムシロップ何個いれんの?」

「3つで!」

「2つにしとけ」


 俺たちは、駅前のコーヒーショップで注文を済ませ、アイスコーヒーが出来上がるのを待ちながら手持ちのトレイにガムシロップとミルクを取っておく。

世間はゆであがるような暑さを記録し、例年の記録をすでに更新するという運びとなっている。


「んで、フミさんや。何が聞きたいんで?」

「よくぞ聞いてくれましたえんちゃん先生!」


 自分でもやりすぎたかと思う大根役者な演技でフミに問うと、わざとらしいハイテンションでフミが返事してくる。他に利用している客も居るために、やっときながら少し恥ずかしい。


「この二の腕をね落としたいんですよ」

「ほーぅ?」


フミは自分の右手で左手の二の腕をつかみふにふにと触って見せる。

俺は一度大きくため息をついてから目の座ったままの表情でフミに言い放つ。


「言っとくけどな。部分痩せって概念はほとんど嘘っぱちだぞ?」

「―――!?」


 フミの後ろに電流が走るようにびくりとしながら声にならない悲鳴を出した。

俺はというと、その様子を横目に出来上がってきたアイスコーヒーにガムシロップとミルクを一個ずつ入れてストローでかき回す。


「だってテレビだとよく言ってるよ!」

「そもそも体につく脂肪はな、均等に増えて均等に減るんだよ。

場所によって増えるときに多く増える場所と少ない場所があるだけ」

「えぇぇ……」


 ストローでコーヒーを口の中に運んで落胆するフミに追い打ちをかけるように俺は言葉を続ける。


「たとえば腹が出てきて目立ってきたから『そろそろ痩せなきゃなあ』って概念がおかしいんだってんだよ。腹が目立ってるっつうことは腹以外の気づかない所もそこと同じレベルで太ってんだよ。目立ってねえだけでな!」

「ギクゥゥ!!」


 俺は右手人差し指でフミを指しながらそう告げる。

フミの大きい身体が多少小さく見える。こんなんで落ち込むのやめろや…。

ズゾゾゾゾ…と俺の飲んでいたグラスからアイスコーヒーが無くなった音がする。

少しくらいは助け船をだすか。と我ながら甘い。


「まあ、でも低強度の運動で筋肉を鍛えてやるとその部分が引き締まる。ってのはあるな。それを『部分痩せ』とうたう場合もある」

「ふ、ふーん…なるほど…」


 なんだ、やっぱり鍛えるとかいう単語がはいると歯切れが悪いな…。

というのはいつものことだが、なんか妙にそわそわしている。

そんなことを思っていると奥から女性定員がトレイを持ってやってくる。


「濃厚チーズケーキお待たせしましたー!」

「…わ…私です」


 フミが俺に目を合わせないようにそっぽを向いたまま小さく手を挙げている。

流石の俺でも呆れた顔を隠せない。むしろ信じられないという目でフミを見ている。


「なあフミよ。たまにはブラックコーヒーもいいんじゃないかと俺は思うんだ」

「そ、そうだね…ソウダヨネ…ハハハハ…」


コイツは本当に痩せる気がるのか……。

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君が痩せる100の方法 マダム @fujisaki_madam

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