第1話 てっとりばやく痩せる方法

「ねえ、えんちゃん。

どうしても1か月で何キロ痩せたいとかあるじゃん?

そういうときさ、どうすればいいと思う?」

「………ライ○ップいけよ」

「!?」


※ライ○ップ

食生活と運動でクライアントの生活を完全密着して目標に近づけるという画期的なシステムを導入し印象的なCMでフィットネス界に新たな風を起こした一大企業である。ただし値段が高め。


 午前の講義が終わったこの場所で、俺はフミとコーヒー片手に駄弁る。

講義が終わったばかりということもあり、生徒はわずかに残っている。

こういうくだらない話題からフミと長話になって残る場面が最近増えた気がする。


「実際、ああいう様に食生活と運動習慣に密着して指導されると嫌でも痩せるぞ」

「うーん…」

「まあそれなりに値段すっけどなー。それで精神的に追い込んでダイエットに向かわすっていう意味でもプレミア感を出せる部分も売りだよ」


 両手を挙げておてあげのポーズとって俺はフミに言葉を投げかける。

何回この話題を話したことかわからないが、たまにはまじめに答えてやろう。


「まあ、方法は無くはない」

「手っ取り早く痩せるのが?」

「おう。結論食べなきゃいい。痩せるぞ」

「馬鹿にしてる?」


 露骨に馬鹿にしてるだろって顔をされても困る。

俺は真剣な顔を作って両手で大げさな動きをしながらフミに告げる。


「食べなきゃいいと言っても、完全に食べないってのじゃない」

「というと?」

「自分の食べてる量と消費する量、これをマイナスに傾かせれば誰だって痩せる」

「えんちゃんだいぶ難しいこと言ってるよね…?」


 どうやらフミにはレベルが高すぎるらしい…。

ダイエット法を理解させるのは重要だ。

自分がどうやったら痩せられるのか、それを理解しなければ実行はできないもんだ。

俺は顎に指をかけてしばし思考する。


「たとえば、食べるものを一日100キロカロリーを減らすとするだろ。

そうしたら、2か月で1キロ体重が落ちる」

「え?100カロリー減らしてそんだけ…?」

「フミ、体脂肪1キロどんだけカロリーあるか知ってんの?」


 わからない顔をされる。

ちょっと呆れるが気にせず荷物をバックパックにしまいながら答える。


「7000カロリーくらいあるからな」

「7000もあるの!?」

「そだよ…じゃあ手っ取り早く痩せる方法教えてやる」

「お!まってました!」

「…フミがおやつに食べてるシュークリーム一つ減らして250カロリーくらいとして、電車一駅分歩けば150カロリーだとしよう。2か月続けて4キロほど落ちる計算になる」


 少しの間、静寂が包む。


「…無理そう」



それはどっちが無理なんだろうか…と思ったが聞くのはやめようと思った。

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