君が痩せる100の方法
マダム
第0話 約束
「ラッシャーセー!」
新たな客がラーメン屋ののれんを潜ると元気のよい声で店員の1人が声をあげている。
にぎやかな店内で4人掛けのテーブルに対面で座っているのが俺たち2人。
「痩せたいなー」
「それトッピング全乗せ食いながら言うセリフじゃないよな…」
机を挟んで向こう側、長い黒髪を後ろにまとめた顔立ちは良いが全体的に線が太い、いわゆるぽっちゃり系とか言えばいいんだろうか…そんな女の前には暴力的に盛られた野菜や肉が麺を覆い小さな山をそこに形作っている。対極を示すように俺の前に一般的などんぶりに多めに野菜が入ったラーメンが置かれている。
どう考えても男女の食べてるものが逆である。
「それ、ざっと見積もっても2500カロリーはあんぞ」
「やめてえんちゃん!聞きたくない!!」
こいつは俺のことを“えんちゃん”と呼ぶ。
俺の名前の“
本人曰くもゆる=燃える=炎=えんちゃんらしい。
「それよりフミ。はよ食べ終わらんと帰りに寄る映画始まるぞ」
「いつもはもっとよく噛んでたべろ!って言うくせにー」
「それはそれ、これはこれ」
「んぎぃ…」
フミ——
俺が一足早く食べ終わり、箸をテーブルに置いて氷水の入ったグラスを口に運ぶ。
「えんちゃん。よくそれでおなか一杯になるよね」
「お前が異常なんだよ…」
フミの何処にその“ブタ野菜マシ大ラーメン”という小さい山が収納されて行っているのかと考えるだけで満腹感がこみ上げてくるのを感じてくる。
10分遅れてフミもその山を片付ける。
「……ぎりぎり間に合うか。よし、行くとするか」
「ううっぷ…。ちょっとまってよー、いま動いたら吐きそう…」
「…映画誘ったのお前じゃねえかよ…」
「まだ上映はしてるからまたいけるよー」
「はぁ、しかたねえな」
一度上げた腰を戻し、さっき飲み干したグラスによく冷えた水を灌ぐ。
水が欲しそうな顔をしたフミのグラスにも入れてやる。
なんだかんだ一緒にいるが、この関係も2年。
大学で俺は1年をかけてデブの状態から独学でダイエットを成功させて165㎝64㎏になり大学でちょっとした話題になったことがあった。
今ではスポーツジムに通い、それなりにいい体つきだと自負している。
何処から聞きつけたんだか、フミは大学の敷地内で俺を見つけるないなや。
「私を痩せさせてください!」
と、つっかかってきた。
それから事あるごとに付きまとわれるようになり、今に至る。
「どーしたの?ぼーっとして」
「ん?ああ、ちょっとな」
お互いグラスに口をつけつつ食後の腹を落ち着かせている。
そう。別に付き合ってるとかじゃない。
付き合ってるわけじゃないのだ。
ふと思い出す。
痩せるというワードを聞くと、つい。
約束のことを。
「教えてはやるけどタダって訳にもいかねえな。ひとつ、条件を設ける」
「な、なに…?」
「一つ、何でも言うこと聞く。でどうだ」
「…………のった!」
俺は冷えた水をひとしきり飲んだ後、ため息を一つ吐く。
「えんちゃん、なんか楽して痩せる方法とかないかなー」
「…ねえよボケ」
…俺に彼女ができるのはだいぶ遠い気がする。
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