11. ある異星人のじゅもん

 世界は、俺が引きこもっている間に、知らないうちに滅亡していた。などということが、本当にあるだろうか。なぜウチだけが無事なのか、なぜ世界の情報を俺は知らずに居られたのか、ランやフランはどこから来たのか、ネットゲームでやりとりしていた相手たちはどこに居るのか。

 一度に大量の疑問が襲ってきて、俺は全く何もできなくなって、ただただ固まっていた。その肩を、背後の部屋の中から近づいてきたフランが軽く叩く。

「驚く必要はない。ここは仮想世界なのだ」

 そのまま両肩を掴んでフランは俺の体を移動させて、玄関を閉じた。

「あまり外気に触れては、体に良くない」

 そう諭すように声をかけながら、部屋の中に俺を座らせ、手にハックブラーテンを握らせた。

「いろいろと説明が必要だろうな。だが、今はまず、ランという娘を助け出すことから始めよう」

 考えることもできないでいる俺を置いたまま、フランは話を先に進めていく。

「ハク」

 呼ばれたハクは、俺を気にしてか遠慮がちに返事をして、ハックブラーテンの起動を始める。

「はい。ではまず、下拵えから始めましょう。材料を刻み、混ぜ合わせます」

 料理のレシピのようなことを言い始めたかと思いきや、それはやがてただの呪文のように聞こえ始める。

「ヨクコネヨクコネ、クウキヲヌクヨウニシナガラカタニイレテオーブンデカネツ。ジックリヨクヒヲトオシテカンセイスルノデス」

 ハクの詠唱が終わると、手の中の小さな直方体は熱を持ち始め、表面から脂とも肉汁ともつかないギトつく液体を染み出してきた。

「さあ、呼ぶんだニック。ハックブラーテンを」

 フランに促されて、俺はぼんやりした思考のまま、その装置の名を呼んでしまった。

「出でよ、ハックブラーテン!」

 と。

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