10. ある闇のついせき

「どういうことだよ、フラン! ランがなんで誘拐されなきゃならないんだ!?」

 詰め寄った俺に、フランは出っ張った自分の腹を撫でながら、

「おなかすいたなー」

 などと、のんびり言うので、ハクを指差して、

「食っていいぞ」

 と低い声で告げてやった。

「あ、あのあのあの、クーフ・クーグーの低級種たちだと思うのですよ、連れて行ったのは」

 慌てたように説明するハクを横目で見て、食欲はそそられなかったか、フランはついでのようにもう一言付け加えた。

「ひみつきち、ほしいなー」

 その腹に問答無用で俺が拳を叩き込んだのは、当然至極の事態といえるだろう。

 痛がってしゃがみ込んだフランを無視して、俺はハクに命令する。

「どこだ。行き先に案内しろ」

「え、あ、はい」

 ハクが戸惑いながらも返事をしつつ、転がっていたハックブラーテンだという小さな直方体によたよたと駆け寄ると、それを抱えて持ってきた。その間に、俺は玄関まで移動している。

「あの」

 遠慮がちにハクの声が俺の背後からかけられた。

「なんだよ」

 言いながら俺は玄関で自分の靴を探す。一目で見渡せるような小さな玄関だ。そんなに探すようなことも無いはずなのに。

「あの、本当に出て行ってしまうのです?」

 おずおずとしたハクの問いかけもまた、俺を苛立たせた。

「なんなんだよ!」

 ついに怒鳴った俺に、ハクはハックブラーテンを差し出して、言う。

「ここに居て良いのです。ハックブラーテンを使って良いのです。外は」

 そこでハクは言い淀んだ。

「外は、その。良いのです。外に出なくても。ニック氏はヒッキーしていていただきたいのです」

「わかった」

 という言葉とは裏腹に、俺は素早く玄関扉に手をかけると、それを押し開いた。

 そこには、荒涼とした世界が広がっていた。

「な、なんだ、これは」

 困惑する俺に、部屋の中からフランのものらしい深いため息が聞こえてきた。

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