9. ある日のおっさん

 つまり、こういうことらしい。

 ハクが最初に接触した地球人は、全く別の人物で、その人から言葉と被虐快感を学んだそうだ。それから逃げ出してフランに会った。フランから俺を紹介されて、ウチに来たところで、疲れてランの作りかけミートローフの中で眠っていたという。

 つまり、ハクをここに来させて、俺にハックブラーテンとかいう謎の小道具を契約させたのは、結局のところこのおっさんのせい、ということだ。

 ハクの来し方とか、いろいろ気になるところもあるが、そんなこんなで、おっさんが我が家に合流した。いらない。

「で?」

 早く帰れという思いを込めて発言した俺だったが、フランには全く通じなかった。

「まずは夕食だな。ああ、そっちには朝食になるのかな、ニック」

「そうじゃなくてだな」

「フラン総司令殿は、どのような食事をお望みです?」

 俺のことなど全く無視してハクはフランに話し掛ける。ここ、俺んちなんだけどな。

「ハクくん。なにも特別な食事は必要ないんだよ。大事なのは共に食べるということなんだ。そうだろニック?」

「知るか。ここは俺んちだ。秘密基地的な何かにするならヨソでやれよ。メシも食いたきゃ、どこでも行けばいいだろ。ここでやるなよ」

「そうはいかん。なにしろここは司令部であるし、ハンバ・アーグ族のハクくんも居て、しかもハックブラーテン契約者のきみもいるのだからな」

「それのことなら」

 俺は転がしたままの小さな直方体を指差して、言う。

「契約なんか取り消しでいいよ。使い道もないし。好きに持って帰って、誰か他のヤツにでもやれよ」

 すると、ハクもフランも、やけに渋い顔になった。その顔を互いに見合わせて、それからまた、こちらに向けてくる。ハクが言った。

「契約は絶対なのです」

 フランも続ける。

「きみには必要なものだと思うんだがね。違うか?」

「いやいや、そんな深刻そうにして、押し付けようったって、そうはいかないぞ」

 抵抗する俺に、フランは不思議そうな顔をしながら、のんびりと告げた。

「そうか。ランとかいう娘が連れ去られたそうだが、まあいいのか。クーフ・クーグーにいっぱい食べさせられて、肥満になって、高血圧とか糖尿病とか。まあ、それでも良いなら良し。夕食にしよう」

「良くねぇだろ!」

 さすがに聞き捨てならず、俺は叫んだのだった。

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