4. ある波のばらまき

「いま、おなか、空いてます?」

 ハクに問われて、俺はそれに気がついた。確かに、ランのミートローフを食べ損ねているし、ハクの面倒くささで余計にカロリーを消費した気もする。

「ああ、まあ」

 ハックブラーテンとやらだとか、クーフ・クーグーとやらだとかの説明を求めて、ハクに問い返された手前、肯定は曖昧になった。なんか話を逸らそうとしてんじゃないかという疑惑が心の底でくすぶりだす。

「本当ですか?」

 しつこく確認してくるハクに、質問を追加してみる。なにか一つでも答えが得られれば、そこから突破口を開いて、この変なヤツを片付けられるんじゃあないかと、僅かな希望にすがるのだ。

「おまえは、なんでミートローフの中に居たんだ?」

「長旅の末、同胞に似たものがあったのでつい、懐かしさで」

 言いながらハクは、自分の足元に散らばるミートローフの破片たちの中から、何かを掘り出そうとしている。ランが箸でその作業を手伝い、

「じゃあじゃあ、他にもハクちゃんみたいな子がいるの?」

 楽しげに問いかけるが、ハクはそれには答えなかった。ただ黙々と、ミートローフの破片を剥がして、中から、やっぱりミートローフの破片にしか見えないものを取り出している。ランにも見分けはつかないだろうけれど、どうやら硬度が違うらしく、器用な箸さばきで掘り起こしていった。ハクが質問に答えないことくらい、気にもとめないといった様子だ。

「で、なんなんだ? いろいろと」

 まとめて大雑把に俺が訊ねたところで、発掘作業は終わったらしい。小さい欠片が十数点ある。ハクはそれらを組み立てながら、ようやく話し始めた。

「夜は悪い波が、よく行き渡るのでやんす」

 今度は、やんす、ときたもんだ。

「昼は太陽からの放射が強くて、なかなか広がらないものも、夜なら届きやすいでげすよ。だからクーフ・クーグーは夜中に襲ってくるのだよね」

 そうだろ? みたいな顔して、こっちに一瞬視線を送られても、そんなん知らんわい。

「ミーたちの開発したハックブラーテンは、クーフ・クーグーに対抗するための装置なのでござるよ」

 言って、組み上げた小さな直方体をこちらに差し出してくる。まさにミートローフのミニチュアといった様子のそれを、自然と受け取った俺は、続くハクの言葉に唖然とさせられた。

「さっき噛まれたときの唾液を採取して、DNA登録を済ませてありんす。こうして受け取って承認するをいただいたですので、あなたは今から、ハックブラーテンの操縦者ですたい」

「あ?」

 思わず間の抜けた声が漏れる。

「えー、いーな。ずるいよ、あたしには? ねえねえ」

 すぐにランがねだるので、ハクはどうしようかと戸惑う表情になる。いや俺の方が戸惑ってるけどね。

「詐欺だろ、こんなの」

「大丈夫。ちょっとした罰金で済みます」

「やっぱり犯罪なんじゃねえか」

 言うと、ハクは開き直って腰に手を当ててふんぞり返るような姿勢をとった。

「訴えるなら星際宇宙初等略式裁判所にでもどうぞ。 レレルロポ語と★凸語などの多言語に対応しているますからね。ここの言葉は非対応ですが」

「てめえ」

 凄んでみるが、それでどうにかなるわけでもないことは分かり切っていた。とはいえ、別にそのハックブラーテンとやらを使おうとしなければ、なにか困るわけでもなさそうだ。ただ無視しておけばいいだろう。そう思った矢先のことだ。

「ミーが質問でしたのこと、覚えておいでですかも?」

「腹減ったかってやつか? そりゃ目の前で食べ損ねてるしな」

「あたしもー」

 しゅたっと片手を上げて、ランも同意してくる。ふたりの顔を順に見てハクは、さもありなんと言うように深々と何度も頷いた。

「それは、クーフ・クーグーのばらまいている悪い波動のゆえかもなのであるですよ」

 そんなわけあるかよ。俺はバカバカしくなって、渡された直方体をテーブルの上に放り出した。

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