2. ある異星人のあじわい

「うぉええええっ」

 間髪入れずに俺はランの作ったミートローフとやらを皿へと吐き戻した。

「うそ、あたしのミートローフ、喋るの?」

「ハンバーグの喋るヤツなんか、聞いたこともねーよ! いくらでっかくてもな!」

 即座に視線を落とした俺は、皿の上でそいつがグネグネ蠢くのを目にした。さっきまでは、全く微動だにしなかったのに。うげえ。

 うねるにつれて、ミートローフ的ななにかは外側からボロボロと崩れてゆき、だんだんと正体を露わそうとしているかのようだ。あんまり特には見たくない。

「で、で? どう、どう? 美味しかったでしょ、あたしの作ったミートローフっ!」

 バカに楽しそうに訊ねてくるランを斜に見て、俺は言ってやる。

「バカか」

「なんでよ! 違うもん! 味の感想きいてるだけじゃんかー!」

 そんな風に勢い任せに言われると、なんかこっちが間違っている気がしてくるからランはこわい。ともあれ、まずはランをあしらって、この変な生き物っぽいものに対処しなくてはならない。

「わかった。美味かった。外側は、な。中になんか入ってて、その感触がブニっとしてて、なんか酸っぱくて辛いような苦いような、おええ」

 言いながら俺はえづく。気持ち悪い食感を思い出してしまった。虫にしては大きいし、その大きさなら調理のときにランが気付かないはずがない。それに、わざとそういうことをするランではない。初めて試しに作ってみた料理の味見役にされることはあるものの、むしろそれらは真剣に作られている。こんなことは今までには無かった。

「大丈夫?」

 さすがに心配してくれるが、それは何かのついでといった口調で、ランの視線が皿の上に向かっていることで、俺は彼女が本当に気にしているものを知る。

「なんか変わったものとか、入れた?」

 黙って首を横に振るラン。言葉を発しなかったのは、ついに中で動いているヤツの姿が見え始めたからだ。そいつはミートローフみたいに焼いた挽き肉の茶色はしていたが、形は小さめの平らな楕円形だった。そう、俺のイメージの中にあるハンバーグって、だいたいこんな感じ。

「ハンバーグじゃん」

 同じ感想を持ったらしいランも言うので、

「そうだな、ハンバーグだな。勝手に動いてるけど」

 俺も応じてみると、意外なことにそのハンバーグ自身から返答があった。

「いえ、ハンバーグではありません。ミーの名前はリキコ・ハク。遠くの星から歩いてきました。疲れました」

「いや、ハンバーグでしょ」

「歩いてってなんだよ」

 ランと俺が同時にツッコむと、ハクとやらはキョトンとした顔を、

「うわ顔まである!」

 俺が思わず嫌悪の声を上げてしまったのに対して、ランは冷静というか違う方向に興奮気味だった。

「可愛いコレ! ここで飼おう!」

 ちなみにこの部屋はペット禁止のアパートである。

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