友人に報告だ! 3 (紹介)

「つまり、俺の嫁は魔界に住む魔族のラティスさんだったとです!」


「「ないわーーーーー」」


 長い話を終えたタカラに対して、二楷堂と奏谷の感想がぴったり重なった。


「聞いて損した」

 奏谷は立ち上がる気力も失ったのかテーブルに突っ伏す。

「ねぇこれ俺が悪いの?

 タカラに二次元教えた俺が悪いの?

 頭の中二次と三次が溶け合っちゃったの?」

 そんな奏谷の肩を二楷堂が否定を求めて激しく揺さぶる。

「いや、ちゃんと区別はついてるから。

 二楷堂に悪いところはない」

「タカラに言われても説得力ねぇ!」

「ひどい」

 画用紙に走らせる手を止めぬままタカラが嘆くと、奏谷がむくりと起き上がった。

「魔界とか魔族とか以前に、何が悲しくて野郎の脳内妄想を延々聞いてたんだ、俺は」

「いや脳内妄想じゃなくて、つい三日前に起きた現実だから」

「タカラーーっ、帰ってこいーーっ」

「だからちゃんと現実を見据えてるって!」

 奏谷から離れた二楷堂に肩を掴まれそうになったタカラは、左手で防御しながら右手を動かし続ける。その攻防でタカラの首にかけられたペンダントがシャツの中で揺れる。

 そこで漸くタカラが話しながらずっと鉛筆を画用紙に走らせていたことに気付き、奏谷はタカラの手元をのぞきこんだ。

「つか、宝城さっきから何描いてるんだ?」

「俺が前にリクエストした『木刀の剣』のケンジロウか?」

 二楷堂も手ではなく首を伸ばしてタカラの前にある画用紙を肩の上から見下ろす。

 そんな二人の視界に映ったのは、幸せそうに微笑む写実的に描かれた美少女だった。

 一気にタカラから距離をとる二楷堂と奏谷。

 物理的に『ドン引き』を表現されたのに、タカラは頓着せずに仕上げの終わった完成品を持ち上げて二人に見えるように右手で掲げた。

「タカラ、その子って確か……」

「そう! 今までは名前も分からなかったけどついに分かったラティスさんだ!」

「イタタタタタ……」

 恐る恐る問いかけた二楷堂に満面の笑みで答えると、奏谷が見ていられないと言いたげに手製のぬいぐるみ型ストラップを揉みまくる。

「直に会えたから前より上手く描けるようになったとです!」

「そうかそうか。よかったな」

 どこか遠くを見るような目で二楷堂が同意する。それに礼を述べながら、タカラは完成した絵を足元に置いた。

「何やってるんだ。せっかく描いた絵だろ?」

「いや、机の上だと危ないから」

「は?」

 二楷堂の問いかけに対するタカラの答えに、奏谷は意味が分からずストラップから顔を上げる。

 すると、タカラは床に置いた画用紙から後ずさりして距離をとっていた。

「おい、これ以上電波なことするならマジで縁切るからな」

「いや、これから俺の話が夢でも妄想でもないことを証明しようかと」

「へっ?」

 きょとんと目を瞬かせる二楷堂とうさんくさそうな表情をする奏谷。

 そんな二人に、タカラは淡々と説明をはじめた。

「さっきちょろっと言ったけど、ラティスさんはこっちに長時間いられないらしい。現に三日前も夜になる前に魔界に戻っていったし」

「お、おう」

 真剣な表情のタカラに、二楷堂の戸惑いに満ちた相槌が返ってくる。そんな反応でも気にせず、タカラは床の絵に意識を集中させながら説明を続ける。

「で、ラティスさんがこの世界に来れたのって、俺の絵と俺の叫びが触媒になってラティスさんを引っ張ったからで――」

 そこで言葉を切り、タカラは友人二人を交互に見ると心底嬉しそうに口角を上げた。

「一度出来た通り道はすぐに消えないし、繋がりやすくもなるんだってさ」

 その言葉の意味を二楷堂と奏谷が問いただす間もなく、


「ヨメが欲しいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


 タカラの魂の叫びが放たれた。


「ばっ、ここ防音じゃねぇ、え? ええええええ!?」

「アホここに極まれり――っ!?」

 近所迷惑を案じる二楷堂と本格的に縁切りを検討し始めた奏谷の声が途中で裏返る。

 床から――タカラの描いた絵から閃光が迸り、ぽんっという栓の抜けるような音と共に人ひとり覆えるほどの白煙が生まれたかと思うと、すぐに消える。

 代わりに紺色のラインが入った白のワンピースを身に纏う銀と濃紺の髪の少女が――ついさっきタカラが描いた絵そのままの美少女が、そこに立っていた。

 少女はきょろきょろと辺りを見回し、藍紫の瞳がタカラを捉えるとぱぁっと顔が輝く。

「タカラ!

 成功したね」

「うん。上手くいったとですよ」

 タカラも三日ぶりに会えたヨメに笑いかけると、視線をずらして友人たちを見やった。

「二楷堂。奏谷」

 何だかんだ言いながら大学内で最も親しい友人二人に、タカラは自分の嫁を紹介した。

「紹介するよ。

 彼女が、俺のお嫁さんになってくれるラティスさんです」

「はじめまして二楷堂さん、奏谷さん。

 ラティスティリアと申します。

 ふつつかものですが、精一杯タカラを支えていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」

 タカラの紹介に続いてラティスも挨拶を述べて、深々と頭を下げる。

 その挨拶に対して二楷堂と奏谷は、

「…………」

「…………」

 数秒、無反応だった。


 それから更に数秒たって、


「「…………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」


 二楷堂と奏谷の声が揃って文サ棟内に響き渡った。


 

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ヨメヨメ エッサイム! 蛍光塔 @keikoutou

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