第3話 クラッキーの娘(3)
エルドラが出場を促したグラン・ド・チャンピオンズロード。それは一番優れたハイブリッド・ウォーカーとハイライダー、そしてサポーターを決める大会である。
ちなみにハイブリッド・ウォーカーというのは高級貴族や騎士、傭兵などが所持している戦闘マシンの事である。形は二足歩行人間型、戦車型、四つ足型、ダチョウ型など様々なものがある。
サポーターは、味方のハイブリッド・ウォーカーを援護すべく、敵ウォーカーを攻撃し、撃破、ダメージを与え、味方に有利な状況をつくる役割を担う者の事である。そのためサポーターにはシューター(狙撃手)やアタッカー(接近戦を得意とした者)を選ぶ事が多い。中にはマジシャン(魔法使い)を選ぶ者もいた。
もちろんハイブリッド・ウォーカーの性能も大事だが、ある程度の性能差であればサポーターの力量で埋めてしまう。それほどこのサポーターというのは重要であった。
この大会で勝利するには、ハイブリッド・ウォーカー、ハイライダー、サポーターの三つが噛み合わさって、力を発揮する事が最も必要だと言われていた。
グラン・ド・チャンピオンズロードとはそういった大会なのであった。
エルドラはチェルシィにサポーターとして出場しろ、と告げたのだった。
チェルシィは思わず握りこぶしをつくった。
―― 出たい!
シューターとしての晴れ舞台である。
当然出たい。
ただ、エルドラの条件を全て聞くまでは、即答する訳にはいかなかった。
「グラン・ド・チャンピオンズロードで僕より良い成績を残す。僕にウィンするんだ! それが出来れば僕は君の事を諦めよう。ただし! 僕の方が良い成績を残した場合、君は僕の花嫁になる! どうだい? ヘイ、プリーズ? この賭け、乗るかい?」
ジェクターはチェルシィがこの話を断るだろうと思っていた。
そもそも出場すら危うい。
大会自体はまだ参加者受付中で、締め切りまであと二週間はある。
ただ、それまでにパートナーとなるハイライダーを探すのは至難の技であろう。
それだけではない。
仮にハイライダーが見つかったとして、まだデビュー前の、実績のない女の子をパートナーに選ぶ物好きがいるとは到底思えない。自殺行為である。
ジェクターとしては娘が賭けを受けても、受けなくても、どちらでも良かった。
賭けを受たところで、出場できなければ、勝負にすらならない。賭けを断っても親同士で婚姻を進めてしまえばいい。どちらにしろ千クランと貴族の階級がジェクターの手の中に転がり込むのは間違いないと思った。
エルドラとジェクターは薄ら笑いを浮かべながら、チェルシィの答えを待っている。
そのチェルシィが不敵に笑った。
「それじゃ賭けにならないわ。私が負けたら女性の操を捧げるのよ! あなたはどう? 負けた場合のリスクが低すぎない? 男でしょ? もっと条件をつけて」
ジェクターは驚いた。チェルシィはこの賭けに乗る気なのである。
「なるほど! プリティ! 確かに、君だけリスクが高すぎるね。リスキーだ! ウーン……、じゃあ一万クランを付けよう。君が僕にウィンすれば、僕は君を諦めた上で一万クランを支払おうではないか!」
「ダメ。安い」
「安いだって? 一万クランだぞ! ムムッ。仕方がない。十万クランでどうだ!」
「こっちは乙女の心と操を賭けてるのよ。五十万クラン以下では受けないわ!」
「オウノウ!!!! ご、五十万!? ハハ……これは……まいったな……」
明らかにエルドラは動揺していた。
五十万クランとなればさすがのホーク家でもはいどうぞと支払える額ではなかった。
「どう? 受ける? これぐらいピリピリしないと、賭けって言わないでしょ? ハイリスク、ハイリターンよ!」
今度はエルドラが追い詰められる番であった。
父であるジェクターは我が娘ながら、この落ち着き払った態度と度胸に、本当に十六歳かと舌を巻く思いだった。
「イッツオーライ! 五十万クランか……。よし、僕も貴族だ! 受けて立とう! そして軽やかにウィンしてみせよう!」
そう言ったエルドラとチェルシィは互いに握手を交わし、誓約書を書いた。
エルドラが勝てば、チェルシィは有無を言わさず花嫁になる。
チェルシィが勝てば、エルドラはチェルシィを諦めた上に、五十万クランを支払う。
二人は剣と銃に誓った。
エルドラは満足した様子で、ブルー家を辞した。
クラッキークラッカー @ramoramo
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