第2話 検索

会社を辞めてきた。

あと一年で死ぬのに、働く事に何の意味があろうか。

まあ、友達もいなく無趣味な事も幸いして、一年くらいなら働かずにいても十分暮らせる程度の貯金はある。

贅沢しなければ二、三年は大丈夫だろう。

昨日の今日で、いきなり退職したいと言ったら引き止められるかもと思ったが、すんなり認められた。

状況が状況という事もあるが、これだけあっさり認められると、自分の存在はなんだったんだろうかと少し落ち込む。

代わりはいくらでもいるという事だろう。

ただ、これも自業自得。

何故なら僕が就職先を選ぶ際に最も重要視したのが、最低限のコミュニケーションでも務まる仕事だったからだ。

やりがいとか給料なんて二の次。

とにかく一人でコツコツ進められる仕事。

そこだけを重視して選んだのが今の会社。

それはある意味正解だったと思う。

だって、こんな僕が今まで辞めずに続けられたのだから。

一般的な会社に就職していたら、僕はとうの昔に辞めて、ニートにでもなっていただろう。

だからそこは間違っていない。

そして、そんな職場の同僚も皆、僕と同じような人種が集まっていた。

コミュニケーションを取るのが苦手な人が。

そんな人種の集まりだから、皆仕事が終わればすぐに帰るし、休日に一緒に遊びに行ったりする事はもちろん無い。

お互いの名前すらあやふやな人が多いはずだ。

仕事中はただキーボードを叩く音が響き渡り、終業時間になると最低限の挨拶をしてそそくさと帰る。

そんな職場だ。

周りから見たら異様な光景かもしれないが、僕にとっては居心地の良い職場だった。

まさに天職。

だが、そんな職場だからこそ誰が辞めようが関係ないのだ。

きっとすぐに新しい人が入り僕の事など忘れられてしまうだろう。

僕が逆の立場でもそうだろうから間違いない。

やはりどう考えても自業自得だ。


会社を辞め、家でただひたすらゴロゴロ。

働いていた頃だったら夢の様な時間。

朝を憂鬱な気分で迎える事もない。

周りから見たら羨ましい限りだろう。

ただ、ニートと化した僕にとっては、ただただ苦痛な時間。

余計な事を考える時間が増えるだけだからだ。

いくら死を受け入れたといっても、やはりボーッとしてると色々考えてモヤモヤする。

それがどんな感情なのかもよく分からない。

それが結構辛い。

何かしなくては...

でも思いつかない...

そんなことを考えてるといつの間にか夜を迎えている。

そして、明日の朝になったら、目が覚めないでそのまま天に召されてないかなと思いながら眠りにつき、また普通に目が覚める。

こんな日々の繰り返しだった。

だが、そんなモヤモヤな日々が続いていたある日、ふとある考えが頭をよぎった。

「他の人は何をして過ごすのだろう?」

そうなのだ。

この世には、僕と同じ様に余命を宣告された人がいるはずである。

そういう人達は、残りの人生を何をして過ごしているんだろう?

いや、宣告されてなくても残り少ない人生になった時に皆なにをしようと思うんだろうか?

きっと、皆一度は考えた事があるはずだ。

それを参考に残りの人生を生きる事にしよう!

思い立ったが吉日、早速調べてみる事にした。

パソコンを立ち上げる。

今は、インターネットという文明の利器でなんでも調べられるから便利だ。

余命わずか、やりたい事で検索。

すると思った通り、余命わずかになった時にやりたい事が山ほど出てきた。

みんな人生に不安を感じてるんだな......

ただ、これはかなり使えそうだ。

僕の残りの人生の暇つぶしの参考にさせてもらおう。

とりあえず上から見ていく。


『身辺整理をする』

うーん......見られて恥ずかしいものがないわけでもないけど死んじゃえば恥も外聞もないしな。

親族がいないから死んだ後の事なんて知ったこっちゃないし。

そもそも整理しなきゃいけないほど立派な人生を送ってないからな......却下。


『遺言書を書く』

書く相手がいねえんだよ、却下!


『感謝の言葉を伝える』

伝える相手がいたらもっと楽しい人生だっただろうな、却下!


『家族、友達と旅行に行く』

だからどっちもいねえんだよ!却下!


『いつも通り過ごす』

それが無理だから調べてんだろ!

そもそもいつも通りが分からねえよ!却下!


ダメだ......これまでの送ってきた人生が違い過ぎるから参考にならない......

そうか、余命わずかになってもまだこんな差別を受けるのか......

僕みたいなコミュ障ぼっちは、残りの人生をエンジョイする事も許されないんだ......

ええい!コミュ障ぼっちでも出来る事はないのか!


『風俗に行く』

あるじゃないか。

死の間際に欲望丸出し。

普通なら軽蔑されるかもしれない。

だが、嫌いじゃない。

いいじゃないか風俗。

どうせ死ぬなら欲望に従って生きてもいいじゃないか!

これならコミュ障ぼっちでもいける!


しかし風俗か...

昔、行こうと思った事はあるけど、入る勇気がなくて入口の前でウロウロしただけで帰ったな。

やっぱりコミュ障ぼっちには少々ハードルが高いか?

いや、でも恥も外聞もなくなった今ならチャレンジ出来るんじゃないだろうか。

......よし!早速明日行ってみるか。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一年ちょっとのなりゆき相談所 瀬縫 純 @s_p_ai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る