第2話 佐渡舞夜、高校デビューを目指す。

 改札口を通り抜け、携帯に着いた。との連絡を入れる。

 因みに携帯はこの前の入学金の残りのお金で購入した者だ。

 お金は入学してからも振り込まれる予定らしく、教科書代や修学旅行費などの心配は要らないらしい。

 …このお金を振り込んでくれた人は、私の父なのだろうか?皆は知っているのに、私は何だけ知らない。



 少し小腹が空いた。嘘凄いお腹減った。

 下宿先でご飯を用意して頂いたらしいので、お昼は食べなかったのがいけなかったのか、空腹でどうしても、目の前のシュークリームに目が行ってしまう。

 ベンチで待ってても、バターのいい匂いがこちらまで漂ってくる。

 買ってもいい気はするが、ここで食べて、向こうに行ってお昼ご飯も食べるのはどう考えても食べ過ぎだ。

 食べたい、駄目、でも食べたい。

 必死で匂いと格闘していると、携帯が振動している事に気付く。

 見ると、見知らぬ人?からの電話だった。

 出るのに戸惑ったが、私の電話番号なんか誰にも教えてないので、知ってる人だろうと電話に出る。


「もしもし。今どこ?」

「え?えーっと…

 あ、シュークリーム屋さんの近くです!」

「駅の外じゃないの?」

「あ、すみません!

 今から出ましょうか?!」

「別にいい。そこにいて。

 場所は分かったから。」

「は、はひ!」

「あ、今どんな格好してる?」

「え、ぼ、ボーダーのワンピースにクリーム色のカーディガン着てます!」

「分かった。じゃあ動かないで。」

 ブツっと電話は切れた。



「今の人誰なんだ…?」

 声的に男の人っぽかったけど…?

 おばあさんがいるならあの人はおじいさんかな?

 でも、結婚してるとか言ってたっけ?

 始めてみる通話履歴を眺めてると、

「君?佐渡舞夜って。」



 目の前にいた人はおじいさんという年ではなかった。30代程の男性だった。

「…?違う?」

「あ、私です!」

 驚いた。私の脳内で描いてた人と全く違った。おじいさんかと思ったら想定より若い人だった。

「じゃあきて。

 車持ってきたから。」

 ひょいっと私の荷物を持って歩いて行く。驚きながらも、私はその人を追いかけて行った。


「じゃ、今から君の下宿先に向かうから。」

 首を縦に振り続ける私を尻目に、男の人はトランクに荷物を一通り積み、私を乗せ車は発車した。車から見たこの街の景色はとても綺麗だった。ケーキ屋や飲食店、雑貨屋や服屋など、学校帰りの寄り道が楽しそうだった。

 私が思い描いてた通りの町並みだった。

 景色をがっつり見ていた私に、おじさんは

「この街、気に入ったの?」

 と聞いた。

「はい!とても!」

 今から始まる高校生活に胸を高鳴らせながら、私は答える。

 ガラスに反射する二人の顔は、笑顔だった。


「はい到着。

 ここが君の下宿先、喫茶店ラヴァーズ。」

 車から降り、荷物だすから先に入ってて、と言われるも、ここからでいいのか?と思いながら、休業日と書かれた看板を無視して扉を開けようとする。が、

 扉は開かない。

 意地になってガチャガチャと何度もドアノブを回していると、「悪いけど今は店の方の扉は開いてない。

 裏口に階段があるからそこから入って。」

 と言われ、裏に回る。先に言って欲しかった。

 裏手に回ると、言われた通り階段があり、登って扉を今度こそ開ける。

 今回はちゃんと開いた。



「失礼しまーす!

 今日からお世話になります、佐渡舞夜と申しまーす!」

 玄関には人の気配はせず、取り敢えず大声で叫んでみる。と、奥から、

「まぁもう来たのかい?

 取り敢えず上がっといでー」

 と、少し嗄れた声。

 声に従い、私はリビングに足を運んだ。


「始めまして、マヤちゃん。

 私は雲城サヤコ《うんじょう》。

 下の喫茶店のオーナーよ?」

「…私は雲城聲うんじょうせい

 喫茶店の従業員で、この婆さんの息子だ。」

「息子さんだったんですかー!

 どういう方なのかと…」

 私の荷物を聲さんが運び終わってから、私の歓迎会と称されたパーティは始まった。

「それにしてもこのお肉美味しいです!

 お昼ご飯食べて来なくて良かったです!」

 サヤコさんの作ったというご飯は、サンドウィッチやトマトスープなど、シンプルながら、とても美味しかった。空腹で擦り切れそうなお腹はどんどん満たされていった。

「良かったわー!マヤちゃんが気に入ったみたいで!

 お代わりもあるからね?」

「ありがとうございます!

 あ、飲み物入れて下さい!」

「お前、よく食べるな…」

「だって、シュークリーム屋さんのいいニオイでずっとお腹減ってたんですよー!

 食べたくて食べたくて!」

「そういうアンタも結構食べてるじゃないか?」

 和やかな雰囲気のまま、みるみる内に食べ物が無くなっていった。


「お昼美味しかったー!」

 3時のオヤツであるチョコタルトと紅茶も頂き、私の部屋へ案内される。タルトも当然美味しかった。

 部屋は思ったより広く、窓の外の景色も良かった。

 ベットも綺麗にセットされており、クローゼットにはシーツの変えなどの用意もあった。机や本棚等の家具もバッチリで、思ったよりしっかりした部屋でビックリした。

 施設から持って来た衣類や小物を仕舞い、制服や学校指定鞄、体操服にジャージの封を開け、クローゼットに閉まった。



 部屋の片付けを終え、時刻は午後6時。当然夕飯はまだまだ。…さて、暇だ。

 施設なら子供と遊んでたらあっという間に時間は過ぎるのだが、今は誰もいない。ただゴロゴロしてるだけでは退屈なので、せっかくだし、この街を回ってみようと考えた。

 思い立ったが吉日。早速リビングにいたおばさんに、出掛けてくると声をかけ、いざ街の外へ!



 私の中学生生活はさほど良くは無かった。

 通りすがりの人には施設の奴と指さされ、自分に使えるお金が無い為、学生なのに流行に合わせた服や趣味の物は買えない。よって、クラスではとても浮いていたと自負している。幸いなのはイジメられる事もなく、自殺を考える事も無かった事だ。

 そんな生活を送ってきた人間が、何処か遠い高校に入学して考える事、それは「今度こそ輝かしい学校生活を送ろう!」しか無いと思う。

 最悪頭の片隅に置いて頂くだけでも…!

 そんな激重な事を考えながら街を歩く。少なくともこの景観にそぐわない悩みだろう。



 ついでに家からルートを1度歩いてみようと思い、学校へ足を運ぶ。

「国立天ヶ原学園高等学校」

 数多くの星術士を排出したこの高校は、初代学園長から星術士をしている名門校だ。

 数多くの星術士を纏めるトップは、星四師せいししと呼ばれ、名の通り四人いるのだが、その内の一人が、この高校出身だとテレビで言っていた。因みにテレビに報道されたせいで入学者が激増したとか。やっぱりテレビの影響力というのは凄い物だ。

 歴史も古いものの、校舎はとても綺麗で、さいきは出来たと言われても信じるほど。何だか身震いしてきた。


 ふと、高校の七時の鐘がなる。

 そろそろ帰らなきゃ。

 また後にお世話になる学び舎に手を振り、帰路へついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星術士は挫けない? 青葉。 @Aoba-0823

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ