四 キングメーカー

「劉恩平氏って百二歳ですって」

 ニュース番組を観ていた妻が話しかけてきた。

 甲国で重篤な状態にあったキングメーカー、劉恩平が無事退院したのだ。

 保養地で静養するという。

 私のテクニシャンが彼の面倒を見ている。

 そして、テクニシャンは今の指導者の庇護を受けている。

 今の指導者の在任中は万が一のトラブルもないだろう。

 これからも指導者を指名するのだろうか。


 麦国は極秘裏に憑依兵士を実戦に投入している。

 二月前に麦国で起きた重大事件の、その後の報道があった。

「地方遊説中に同時多発テロに遭遇し、同じくテロで亡くなった大統領、副大統領、両院議長に次ぐ大統領権限継承者として病室で執務してきた国務長官が退院しました。

 残念ながら、頸椎を損傷し生涯の車椅子生活だそうです」

 死亡説も流れていた彼は頭よりも高い背もたれの車椅子に座っていて、首から上は動かせないとのことだ。

 過去、様々な国難を切り抜け、次期大統領との評判の国務長官だが、本人だろうか?

 もし人造脳だったら?

 偉大な政治家の脳を伝承したとはいえ、作り物が指導者になっていいのか?


 経済番組では、合議制経営の奇跡と題した特集で幾つかの世界的な財閥をとりあげ、証券アナリストが分析結果を披露した。

「財閥の当主の死後、後継者が指名されなかったため、幹部による臨時の合議制経営となっても、生前の当主を踏襲するような経営意思決定がなされています」

 人造脳は稀代の当主を伝承しているから当然だ。

 財閥の当主の意志を伝承した脳に憑依の必要はない。

 死んだからには表に出られないし、こういうタイプは肉体の享楽よりも事業の成功を重ねることに楽しみを感じるからだ。


 妻が永住権を得たのを機に、私は最高のアンドロイドの体を持つことにした。

 人造脳を格納する頭部はやたらと大きいので五頭身だ。

 五千メートルの登山に成功した。

 子供の頃からの憧れだったチョモランマ登頂にも成功した。

 私はエネルギッシュな日々を送っている。


 新しい研究を始めた。

 人造脳の自己修復技術と小型化だ。

 これで私の脳は老化しないし、アンドロイドを小顔化できる。

 将来、妻も人造脳になれば、私達は結婚式で誓った永遠の愛を極める幸運に浴せる。

 妻はどう思っているだろうか? (完)

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伝承脳 海道久麻 @kaido

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