悲しい物書きの唄

菊月 一

第1話

 物を書くのが大好きです。

 本を読むのも大好きです。

 

 物語の中だけは、私に対して平等です。

 話の中の人たちは、私をいじめもしませんし、私を蔑むこともない。

 

 私は涼しいこの部屋で、話の中の人たちが、熱く悲しく勇ましく、作者の筆に踊らされ、生きたり死んだり転んだり。

 動いていくのが好きなのです。


 だから私も物を書く。

 自分が書きたい物を書く。


 けれども私は書けません。

 物を書くのは好きだけど、物書く気力がないのです。

 物書く気力を奪うのは、二番煎じの悪評を、心底恐れているのです。

 

 本に雑誌にネットに板に、私が思うお話は、みーんな書かれているのです。

 書いた話を見る内に、何かの話に似ていると、自分で見えてくるです。


 人と話がかぶること、物を書く身の私には、到底許せぬ仕業です。

 私はパクリが嫌いです。

 だから私は書けません、物を書いても気が沈み、誰かの影を見るのです。


 私は悲しい物書きです。


 物を書くのが大好きです。

 本を読むのも大好きです。


 だけど私は書けません。

 書いても誰かのお話が、ちらちらついて来るのです。


 私は物が書きたいです。

 誰も知らない物語、そんな話を書きたくて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悲しい物書きの唄 菊月 一 @xyz2671

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る