第19話 突終



第十九章 『突終』



終わる今日・・・

生まれてこない明日・・・

すべては絶望に身を浸しながら

すべてを無に回帰するのだった。


ひとりの男の突欲が、ひとりの男の突欲を芽生えさせた。

そして、ひとりの男によって仕組まれた過去が、ひとりの男の人生を狂わせた。

それが、もし虚像の人生だとしたら、本当の人生はどこにあるのだろうか?

河合修二は、今、人生の終着駅に辿り着こうとしていた・・・


「これでやっとわかったよ。アップルちゃん・・・」

「なにがだ?シュウちゃん・・・」

「何故、妻を殺して放置しても、それが公にならないのか・・・たぶん、私の妻・・あの女もアップルちゃんに人生を売った人間なんだな!?」

「くっくっく・・・」

「なにがおかしい!?」

「まぁな。あいつは、昔ワシの愛人だった女のひとりだ」

「し、信じられないな・・・いや、信じるべきか・・・でも、何故そんなことを・・」

「まだわからんのかい?それが、突欲だからよ」

「また突欲か・・・」


突欲・・・確かにそれが全ての原因、全ての事の発端なのはわかる。

全てが、アップルちゃんの仕組んだシナリオ通りだったというのか。

しかし、そのために私は騙され続け、みんなは死んでいったのだ。

そんな突欲という言葉ひとつで済まされるものじゃない。

私の怒りと悔しさの矛先は、どこに向ければいいのだろうか?


「くっくっく、楽しかったなぁ!ワシの思い通りにシュウちゃんの人生は変わっていったんだ、これが笑わずにいられるかいってんだ!わははははっ!」

「う・・・うわあーっ!」

ガッシャーン!

私は、アップルちゃんに突進していき、窓ガラスを突き破った。

その勢いで私とアップルちゃんは庭に転げ落ちた。

私は、アップルちゃんの上に馬乗りになり顔を殴った。

バシッ!バシンッ!

何度も顔を殴るたびに、あることを思い出す。

それは小学校の時、いじめた友人を目茶苦茶に殴ったことだった。

人を殴ったのはそれ以来か・・・

私の拳には、熱いものが込み上げてくるようだった。

「こいつめッ!こいつめーッ!」

「やめて!」

そこに、志保が私の手を掴んで止めようとしてきた。

「うるさい!放せ!」

私は、志保の手を振り解き、そして志保の体を突き飛ばした。

志保は、雪に滑って横転し、灯篭に頭をぶつけた。ゴギンという鈍い音を立てながら。

しまった・・・

私は心の中でそう思ったが、私の体はそう思っていなかったようだ。

「どうせおまえも、私を騙すために、こいつに人生を買われたんだろう?!」

「う、うぅ・・・」

志保は、頭から血を流し、よろよろと起き上がった。

「ち、ちがう・・・私は、ちがう・・・」

「ちがうもんか!おまえは私の興味を惹くために、私の前にわざと姿を現したんだ!」

「ちがうわ・・・」

「まだ言うのか!こいつめ!」

私は、志保に殴りかかろうとした。すると!


パーン!


「うっ・・・?!」

なんと、殴ろうとした私より先に、志保の張り手が私の頬を打った。

私は志保の顔を見て驚いた。志保の頬には涙がつたっていた。

「ちがうわ・・私は毎日、お父さんとお母さんの墓参りに行っていただけよ・・・」

「そ、そうなのか・・・」

私は、雪の地面に倒れているアップルちゃんの顔を見た。

「ふふ、さぁなぁ・・・」

「おじさんはそんなことしないわ!私に優しかった・・・」

私は志保の方を振り返った。

「・・私の両親は、ある男に騙されて多額の借金を背負わされたの・・・それで証拠隠滅のために自殺にみせかけて殺されたのよ・・・」

「志保、よせよ・・」

「警察に言っても信じてくれなかったわ・・それどころか、男の所属していた暴力団の仕返しを恐れ、何もしてくれなかったわ・・・でも、それを裁いてくれたのは、おじさんだったの!」

「・・・そうだったのか」

私は、その話が作られた嘘ではなく、真実だと思った。

以前、会社の課長に襲われた時、助けに来てくれたのはアップルちゃんだったのだから。

きっとあの時のように、マシンガン片手に白いスーツで葉巻をくわえ、さっそうと登場するアップルちゃんの勇姿が頭に思い浮かんだ。

「だから、おじさんを許してあげて!」

「でも・・さっきのように、君を裸にしたり・・・いや、私もとんでもない事をしてしまったが・・・そ、それに、海で溺れた時も迎えに来なかったじゃないか!?」

「おじさんは、命を狙われやすいのよ。だから、あまり公共の場に行かない事もわかっていたわ」

「し、しかし!・・・」

「私は両親も身内もいない・・・ひとりでは生きてこられなかった・・・おじさんがいなければ」

「・・・・・・」

私は下をうつむいて考えた。

「おじさんは、確かにおかしくなっていたわ。でもそれは、非日常に危険を晒すあまり、常人には理解できないストレスが溜まっていったからなのよ!・・・だから!」

「もうええよ、志保・・・ワシにも正義を貫き通す時代があった・・でも、それも長くはもたんかった・・・裏の世界に生きれば生きるほど、ワシの神経はおかしくなってしまった・・・だから、シュウちゃんのような普通の人生を、自分で操作したくなってしまったのかもしれんのぉ・・」


アップルちゃんの言うこともわかる。

私も以前、後藤くんを借金地獄の道に誘った時も、得も言わぬ快感に酔い痴れたものだ。

人は、そういった欲や快楽に流されやすい。こればかりは、人間の性なのかもしれない。

私は急に、アップルちゃんに申し訳なく思った。

たとえ、アップルちゃんが私の人生の操作をしたとしても、それに従ったのは私の意思の訳で、それに従わない意思さえあれば、今のようにはならなかったかもしれない。

それに、ずっとうだつの上がらないサラリーマンを続けていっても、そこに幸せがあっただろうか?

たとえ、絹が生きていたとしても、子育ての喜びが死ぬまで続くとも限らない。

世の中にはもっと不幸な人間がいる。私なんて、まだ幸せなほうかもしれない。

そう考えると、私を含んだ人という存在は、自分の過去を他人のせいにする弱い生き物なのだ。

弱い生き物は、弱い生き物同士、傷を舐めあって生きていかねばならないのだ。

ならば、私がアップルちゃんを許さないという権利はどこにもないのかもしれない。


「アップルちゃん・・・すまない、間違っていたのは・・」

「よせ!」

「?・・・」

「もし間違っていたとしても、男が自分の人生を簡単に否定するもんじゃない・・」

「う、うん、わかったよ、アップルちゃん」

私はアップルちゃんに手をさしのべた。

アップルちゃんは私の手をとって起き上がろうとした。しかし・・・

そこには、大量の血が白い雪を朱に染めていた。

「うぐ・・!」

アップルちゃんの腹部には、割れたガラスが突き刺さっていた。

さっき、私が窓ガラスを突き破った時に、勢い余って突き刺さったのだろう。

大変だ!こうしてはいられない!私は志保に助けを求めようとした。しかし・・・

ドサリ・・・

なんと、今度は志保が倒れてしまった。

さっき、私が志保を突き飛ばし、灯篭に頭をぶつけたせいだろう。

私の顔が青ざめていくのがわかる。さぁーっと言う音が聞こえてきそうだった。

「と、とにかく、救急車を呼ばないと!」

「ま、待て、シュウちゃん・・・」

「大丈夫かい、アップルちゃん!ごめんよ!」

「いいんだ・・これも身から出た錆だ・・それよりも聞いて欲しい・・」

「そんなことより、今は救急車を呼ぶのが先だよ!」

「いいから聞けッ!」

アップルちゃんは、真剣な眼差しで私を見詰めてきたので、私はその剣幕に押されてしまった。

「ワシの命はもう長くない・・慢性のガンで余命残りわずかだ・・・」

「そ、そんな!・・・」

「ふぁ、ふぁ。今まで好き勝手に生きてきた罰だな・・・まったくまいったぜ」

「そ、そんなことない、そんなことないよ!」

私の目が涙で霞んだ。

「このまま治療しても、どうせ少しだけ寿命が延びるだけだ・・だから聞いてほしい・・・」

「わ、わかったよ」

「ワシはこれから死ぬ・・だから、ワシの財産を全て継いでほしいんだ・・・」

「そ、そんなの受け取れない!それは家族に託すべきだよ!」

「ワシには家族もないし、信頼できる身内もいない・・・ひとりぼっちだ」

「そ、それなら、志保にあげればいいんじゃないか!?」

「ワシの財産は金だけじゃない・・・志保が受け継ぐには大き過ぎるんだ・・・」

私は、アップルちゃんの言葉の意味を理解した。

アップルちゃんほどの人間には、莫大な財産と、公にはできない組織の力がある。

それを、年端もいかない少女に託すのは身が重過ぎる。

「受け取ってくれるかや?いや、受け取って欲しいんだ・・・」

私は無言で頷くと、アップルちゃんの手をとった。

「楽しかったのぉ・・・シュウちゃんと飲んだ酒は・・・本当に楽しかった・・・」

「わ、私も楽しかったよ!・・・アップルちゃんと飲んだ酒は、本当に楽しかったよ!だから・・」

「また・・飲もう・・かや?」

「う、うん、また飲もう。また飲もうよ!」

「飲みたいのぉ・・・また・・・飲みたい・・のぉ・・・シュウちゃん・・・・・・」

「あ、アップルちゃん?!・・アップルちゃーん!」

「・・・・・・」

アップルちゃんは静かに目を閉じた。

アップルちゃんの体の下の雪は、白い部分がないくらい赤い色をしていた。

私は、いそいで治療しようと思い、アップルちゃんを抱きかかえた。

グラリ・・・

すると、私の頭が揺れ、膝から下の感覚がなくなった。

目の前は霞んでぼやけ、そして、いつしか意識も消えていった。

どうやら、さっき刺さったナイフの傷が開いて出血していたようだ。

うすれゆく意識の中で、私は自分の命の灯火が消えるのを実感していった。


その頃、ここは、朱雀江さゆりのマンション。

「みその・・・私達、生まれ変わってもずっと一緒よ・・・」

「はい・・・お姉様・・・」

テーブルの上には何かのビンが置いてあり、ふたりは横たわり、そして長い眠りに入った。



そして、三ヵ月後。

ここは、とある南国の島。

そこに、ひとりの少年がいた。

少年は、朝早起きし、森の中で虫取りをしていた。

さんさんと降り注ぐ太陽と、褐色に焼けた肌。


その少年は、つかまえた虫を手にしながら、少女の前にやってきた。

そして、少女に虫をわたすと、照れくさそうに走っていった。

少女はその虫を、ちょっぴりおそれながら、まじまじと見詰めていた。

「いいものをもらったじゃないか・・・」

「うーん、でもちょっとニガテなの、虫は」

「そうか、キミにもニガテなものがあったんだね?」

「あ、ひどーい。もう、知らない!」

「じゃあ、むこうでジュースでも飲もうか?おじょうさん?」

「もう、また子供あつかいして!」

「はは、ごめん、ごめん・・・」

私は、走り去っていった少年の後ろ姿をずっと見詰めていた。

「どうしたの?」

「・・・どこか昔、なんだかとても懐かしいような・・・」

少年はずっと走り続けていった。

彼の心は、純粋な冒険心に溢れ、彼の目は、夢を追い求めるようにキラキラと輝いていた。

だれもが子供の頃はそうだった。だが、いずれ、それも消えてなくなる時がくる。

「消えてほしくはないもんだな・・・」

「何を?」

「それは、とつよ・・・いや、なんでもない」

「ねぇ、今日はボートに乗りましょうよ、シュウジおじさん!」

「ああいいよ、志保はボートが好きだねぇ」

「その目!また私を子供あつかいしてるー!」

「いや、はは、そんなことはないさ」

「あ、逃げた!もう、まてー!」

「ははは!」


夕日が落ちた。

私は、海岸沿いのコテージで、海を見ながら酒を飲んでいる。

隣では、志保が遊び疲れて眠ってしまっている。

私は、そっとタオルケットを志保にかけてあげた。

大人のように、精一杯無理をして生きてきた志保は、まだまだ子供だった。

この自然の大地で、志保が普通の女の子にもどるまで、私はここで暮らそうと思う。

それが、アップルちゃんから受け継いだ意思なのだ。

私は彼女を守る。穢れのない純粋な心を守るため・・・



そして、一年後。

私は電車に揺られながら、生活する糧を得るため、仕事場へと運ばれていく。

いつもの朝に、いつものラッシュ。

さすがにウンザリするが、これを我慢しないとサラリーマンは始まらない。

私は、隣の男が新聞をガサゴソと読んでいるのを不快に思った。

新聞ガサゴソ男は、私に気付いて目を合わせてきた。

私は、そいつを睨むと、ドスの利いた声で言ってやった。

「ちょっとばかしうるせぇんだよ・・・わかったかい、おにいさん?」

すると、新聞ガサゴソ男はコソコソと別の車両へ逃げていった。

まったく・・・相変わらず電車に乗る人間のマナーは悪いものだ。

でも、しかし。これもなんだか懐かしい気がする。

私は、今まで、ずっとこの生活を続けてきたんだなぁと、しみじみ思い返した。


電車は走る。同じ列車の上を、何度も何度も繰り返し走る。

それは、例えるなら人の人生に似ている。

でもそれが、けして退屈だということではない。

同じ列車に乗っていても、自分が降りたければ降りればいいし、別の電車に乗りたければ乗ればいいのだ。電車は自由なのだ。どこにでも行けるのだ。


目の前の棚には、さっきの新聞ガサゴソ男が、慌てて逃げる際に置いていった新聞があった。

私はそれを何気なく開いた。隣の乗客に迷惑にならないようにだ。

そこには、大きな見出しとして、『深刻!格差社会!』と書かれてあった。

確かに、それは深刻な問題かもしれない。

しかし、それを生み出したのは他ならぬ人間であり、その責任は人間以外の何者でもない。

金持ちと貧乏。

そこに、強者と弱者という概念を作ってしまうからこそ、人は人より優位に立とうとするのだ。

くだらない・・・無意味だ・・・

私たち人間は、もっと仲良くしなければならない。争い事などもってのほかだ。

それに、人はいかなる場合でも、人を裁いてはいけないのだ。

人は何の権利があって人を裁く権利があるのだろうか?

いや、それは社会の安全を守るためだという事はわかっている。

でも、やっぱり、人が人を裁くのには、少なからず摩擦が起きてしまう。

やはり人間は、欲望のままに生きることが、人間であることの証明なのだ。

欲を持つことは当然であり、欲のまま行動してしまうのも当然なのだ。

間違っているのはわかっている。だが、わかって欲しい。

それが、他人に迷惑をかけないという条件下に限り、それを許して欲しいのだ。

何事も社会という狭い枠で囲われている昨今、自分の欲に苦しんでいる人達がいる。

欲を抑え欲に苦しむことで、その欲は更に増大し、他人を傷つけてしまうこともあるだろう。

しかし、正しい欲を持つことで、人はさらに成長できるのではないだろうか?

これは、現代人に忘れられた大切な感情ではないだろうか?

誰もが大人しく、無機質に与えられた仕事をマニュアル通りにこなすことが、社会にとって必ずプラスに働かないことは誰の目にも明らかなのだ。

ならば、いいじゃないか。突欲というものがあっても。私はいいと思う。

私のように、いい歳をして道を踏み外した人間がいたとしても。私はいいと思うのだ。

だから、これだけはハッキリと言える。

突欲こそが、これからの社会を活性化させる礎になるのだ、と。

電車は走る。いつまでも走ってゆくのだった。


私は電車を降りると、公園の前を通り過ぎていった。

それにしても、二ノ宮から聞いた話には驚いた。

殺したと思った山根の奥さん、ひとみちゃんは、なんと死んではいないという。

私は彼女を殺そうとしたが、彼女にも私を誘ったという負い目がある。

それに、アップルちゃんから受け継いだ組織の力を使えば、彼女を黙らせることなど造作もない。

これからは、ひっそりと暮らしていくのだろう。


驚いたことパート2。

私が殺したと思った松下も、実は死んでいないようだ。

奇跡的に息を吹き返し、なんとか命を取りとめたらしい。

まったく・・・たいしたというか、呆れた生命力だ。

しかし、後遺症で記憶喪失になってしまったのは、運が良いのか悪いのか?

まぁ、とにかくそんなところだ。


そして更に、驚いたことパート3。

私の妻も生きているようだ。

詳細はわからないが、死んではいない『らしい』。

らしい・・・ということには、ふたつの考えがある。

ひとつは、本当に死んではおらずに生きているということ。

もうひとつは、死んでしまったのだが、組織の力で死んでないことにしているということ。

どちらにしても、もう私には関係のないことだ。二度と会うこともないだろう。

私は思い出すのも腹立たしいので、思い出すことをやめた。


驚くことはまだ続く。

朱雀江さんとみそのくんは、自殺未遂をしていたそうだ。

どうやら人生に疲れ、ふたり仲良くあの世にで楽になりたかったのだろう。

一見同じ趣味を持つもの同士、幸せに見えたが、その世界に生きるというのも楽じゃないらしい。

だが残念なことに、朱雀江さんは未だに意識不明。みそのくんは消息不明。

あの時の乾杯には、もしかしたら、これで最後という意味があったのかもしない。

もう一度、みんなで酒を飲める日はくるのだろうか?


忘れていた。

もうひとりいたのだった。それは後藤くんのことだ。

あれ以来、すっかり改心した後藤くんは、自立して会社をはじめたらしい。

あれ?ラーメン屋だったかな?それとも車屋?

とにかく、一攫千金を夢見る後藤くんは、日夜借金とりから追われているらしい。

まったく彼らしい。またいつか会いたいものだな、後藤くん。


そして。

身寄りのない志保は、私と以前暮らしていた南の島に残っている。

彼女には、しばらくあそこでゆっくりした方がいいだろう。

それに最近、仲の良いボーイフレンドもできたようだ。

いずれ、彼女を養子にしても良いと、私は本気で思っている。


アップルちゃんから残された遺産は、組織にほとんどあげてしまった。

それでも残った金額は、私にとってかなりの額だった。

そのかわり、私との面倒なつながりは一切もたないことを条件にした。

でも、困った時には助けてくれよと、ちょっとお願いしておいたが。


会社を定時で終えると、私は二ノ宮と待ち合わせしてタクシーに乗り込んだ。

車を走らせ、ある場所へと向かった。

「どうだ、最近は?奥さんとうまくやってるか?」

「はい、子供がやっとよちよち歩きをはじめまして・・・もう、可愛くてたまらないですよ」

「そうか、今が一番可愛い時だもんな」

「でも・・」

「でも?どうした?」

「嫁に浮気がバレちゃって、子供を連れて実家に帰ってしまったんです。だから、この足で謝りに行ってきますよ・・・」

「ははは、相変わらずだな、オマエは!ちゃんと謝るんだぞ!」

「はい・・ガンバリます・・・」


そして、私はある場所で降ろしてもらった。

そこは、アップルちゃんと、山根の墓があるお寺だった。

「山根はオシャレだったから、教会とかの洋風な墓の方が良かったかな?アップルちゃんはここで良かったよな?だって、どう見てもお寺がお似合いだもんな!」

私は、ふたりの墓に話しかけた。

アップルちゃんの墓に高級ブランデーをドボドボとかけてやった。

「たっぷり飲んでくれよ。そうだ、私もちょっといただくかな」

私はブランデーを瓶のままラッパ飲みした。

「ぷはぁ!うめぇなぁ!やっぱコイツはストレートにかぎる」

私はすこし酔っ払うと、ふたりの墓の間に立った。

山根の墓の上にブランデーの瓶を置くと、アップルちゃんの墓に肘をついた。

私の人生に、急激な変化と興奮、そして感動を与えてくれたもの。

それは、私の突欲だったのかもしれない。


「突欲よ・・・さらば・・・」


私の人生は、あといつまで続くかわからない。

人生が終わるまで、人生を行き続ければいい。

そう思いながら、ブランデーに口をつけるのだった。   


   突欲・・・完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

突欲 しょもぺ @yamadagairu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ