第2話

 部室へと男女2人組が入ってくる。


トオリ「あ? うわっ。……だ、誰!?」

サチ 「まあ、そうか……」

トオリ「いや、残念そうな顔の意味わかんないんだけど!? いや、本当、え、なに!?」

サチ 「私たちは簡単に言えば君の仲間だよ」

トオリ「不審者に仲間扱いされても困るんだけど!? いや、ちょっとマジで人呼んだ方がいいかなこれ」

サトル「それは意味ないぞ。どうせ俺たちは記憶に残らないからな」

トオリ「……記憶に?」

サチ 「最近、君は人に忘れられたりしない? それも1度や2度じゃなくて何度も、日に日に悪化するように」

トオリ「もしかして仲間ってそういう……?」

サトル「そうだ。俺たちはその状態を『透明人間』と呼んでいる」

サチ 「正確には君はまだ完全に透明人間になっていなくて、半透明人間といったところだな。記憶には残るが薄れていく状態だ」

サトル「で、俺たちは記憶にすら残らない。透明人間以外の記憶にはな」

トオリ「ちょっと! ちょっと待ってくれ! いきなり情報量が多い。整理させてくれ」

サチ 「1、私たちは透明人間。君はまだ半透明人間であと2か月もすれば完全に透明人間になる」

トオリ「お前が整理すんのかよ!? 俺が飲み込めなきゃ意味ないだろ」

サトル「2、透明人間は透明人間以外の記憶に残らない。で、経過途中の君は残るが徐々に薄れていく」

トオリ「だからさあ!?」

サチ 「ここまででわからないことは?」

トオリ「ないけども!」

サチ 「3、私はサチ。こっちはサトル」

サトル「よろしくな」

トオリ「なんで急に自己紹介を……」

サチ 「よし、これで大体は飲み込めたな。それでさしあたっては君は透明人間になるのを阻止するために透明人間を殺さなくてはいけない」

トオリ「透明人間を……殺す? え、自殺ってこと?」

サトル「ちょっと違うな。今のお前は透明人間に憑依されてる状態だと思ってもらえればいい。それが完全に馴染むと同じ透明人間になると思うとわかりやすいな」

トオリ「お前らの透明人間と、その憑依してる透明人間は別ものって思っていいんだよな?」

サトル「その通り。あ、これ別にお前の名前とかけたダジャレとかじゃないから、危ないスベるところだった」

トオリ「あ、うん、なんかごめんな。ちょっとややこしいな、名称を分けたりしないのか?」

サトル「伝わる人には伝わるしこれでいいだろってことになってる。文脈で分かるだろ、新聞部」

トオリ「わかるけどさ……。まあいいや、続けてくれ」

サチ 「殺し方というのが恋愛をすればいい。誰かにあなたじゃなきゃダメ!と思わせるような恋愛をすれば、透明人間は『うわ、こいつの存在は消せないわ』って消滅する」

トオリ「え、透明人間って恋で殺せるの。少女漫画かよ」

サチ 「ロマンチックでしょ?」

トオリ「物は言いようだな……」

サトル「そのために! 俺とサチでお前が透明人間にならないように、恋愛のサポートをしようってことだ」

トオリ「はあ!? 余計なお世話すぎるんだけど!?」

サチ 「どうせ君のようなチェリーボーイは女の子に話しかけることすらまともにできないでしょう。だから協力してあげるって言ってんの。わかる?」

トオリ「だ、だだ、だだだ誰が童貞だ!」

サチ 「違うの?」

トオリ「違わねえけどお前が言うのは違うだろ!?」

サチ 「いや、別に……。ちょっと落ち着こうよ、ね?」

トオリ「なんでお前に諭されるんだよ……。で、俺の恋愛の手伝いするって言ってるけど、具体的にはなにすんの?」

サトル「とりあえず俺らは記憶に残らないけど、書いたものや作ったものは記録となって残るんだ」

トオリ「作ったものまでは消えないってことか。それで?」

サトル「お前が好きな女の子の前でトオリの名前が書かれた紙と白紙を交互に見せて意識させる」

トオリ「サブリミナルかよ……」

サチ 「もしくはお前の名前が書かれた紙と、チェリーボーイと書かれた紙を交互に見せてお前が童貞だということを意識させる」

トオリ「なんでだよ!!」

サチ 「童貞が好きな女もいるかなって……」

トオリ「いるかもしれないけど、刷り込む必要はねえよ! 却下!」

サトル「ではトオリの名前が書かれた紙と、デカラマと書かれた紙を」

トオリ「下の話から一旦離れろ!!!」

サトル「思春期の男はすぐに下ネタに反応する。あー嫌だねえ、いやいや」

トオリ「なんで俺が悪いみたいな反応なんだよ」

サトル「俺はお前のことを思って巨根アピールしてるんだぞ?」

トオリ「俺のことを思うならもっとピュアな応援をしろ!!」

サチ 「ピュアですって聞きましたお兄さん」

サトル「童貞君だからピュアなんですよきっと」

トオリ「童貞から離れろおおお!!!」


 息を荒げながら水を飲むトオリ。


サチ 「落ち着いたか」

トオリ「おかげさまで」

サトル「まあ、冗談は置いといてこっそりともの渡したりとか、人からの評判を聞いたりと恋愛ゲーム顔負けのサポートできると思うぞ」

トオリ「そりゃあどうも」

サチ 「……で、君の好きな子を教えてよ」

トオリ「好きな子、ねえ。しいて言うなら、くらいだけどクラスの多々良さんはちょっと気になってる……かな」

サチ 「煮え切らない言い方だけど、それ本当に好きなの?」

トオリ「わかんねえよ。けど、好きになれる可能性があるならそいつかなって」

サトル「きっかけはなんでもいいさ。結果的に好きになるかどうかはわからないんだからな」

サチ 「……まっ、それもそうか。そいつまだ学校いるの?」

トオリ「多分まだ部活してると思うけど。……ってもしかして今から押しかけるつもりか!?」

サトル「もちろん。時間がないから早いに越したことはないぞ」

サチ 「さっきは言わなかったがお前に残された時間は残り2か月もない。さっさと恋愛成就しないと消えるよ、お前」

サトル「ほら、わかったらさっさと行くぞ。来い」

トオリ「いや、ちょっと!? 俺副部長戻るまでこの教室いなきゃなんだけど!? おい!?」


 無理やり引っ張られて部室から出るトオリ。

3人の姿が消える。

暗転。

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透明人間の殺し方 メイ @may010

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