クラスマッチとかペンとか戦闘とか(1)

「おはよーございまっす!」

「…………ございます」


 前方不注意でうっかり扉を蹴破る。これは事故だ。何時の間に起きたのか、肩車されているエーデルも仕方がないと云っている。そんな気がする。


「な、なな…………」


 蹴破られた扉と俺を交互に見比べ、金魚のように口をぱくぱくと開閉する教師が約1名。真面目で優等生と名高い俺でも、その先生が誰なのかが分からなかった。きっと、新任の教師なんだろう。


「き、キール! 廊下に立ってな」「だが断る」


 空いている席がないか辺りを見渡すと、幼馴染みであり俺を全力でフッた、ミリの隣が空いている事に気付いた。颯爽と席に着く。


「…………そこ、違う人の席。キールの席はあそこ」


 どうやら間違えてしまったらしい。俺は失礼、と今日学園を休んだであろうクラスメイトに謝ると、ミリが指を差した方を見た。


 ――――そこには、筋肉マッチョな男2人に挟まれるようにして存在する空席があった。


「休んでいるやつは死んだのと同じだ。故に俺が座っても何の問題もない」


 言い訳と云う名の戯れ言を吐き、俺はそのままミリの隣に腰掛けた。マッチョよりミリがいいのは当たり前だ。略して当前。当然とは少しばかり違う。


「それよりキール、いい加減副担任を困らせるのは止めなさい」


 どうやら先ほどの教師は副担任だったらしい。まぁ、観察眼の優れた俺はその事には気付いていたがな。


 因みに、現在この教室に副担任殿はいない。俺の言葉に泣きながら教室を飛び出して行った。あ、泣きながらって云っても、副担任はオッサンだから。


「ミリ、今日の授業って何だった?」


 向こうの世界での俺は、惰性で学校に行っていた。高校に入学したのも、ただ単純に社会がそれを持ち上げていたから。社会自体が高校に行かないやつらを糾弾したわけではないが、少なくとも社会の雰囲気として、高校に入学しない人間は無能だと云うレッテルを貼られていた。


 事実、どんな理由が存在していても、中卒だと社会的立場が低い。


 勿論、中卒で会社を立ち上げ成功した人間もいる。だが、同時に高卒以上じゃないと働けない職種もある。


 だから、この世界の俺は気儘に生きる。それとこれとは話が違うようでいて、感性からすると間違ってはいないはずだ。


「…………キール、聞いてないの? 専門科は、毎年長期休暇明けはクラスマッチみたいなのがあるんだって」

「つまり?」

「今日は授業はなくて、クラスマッチの説明。私は今から、魔法科のトーナメントに出場する予定」


 全然知らなかった。少しテキトー過ぎたかなと自己反省。明日からは当社比数パーセント上昇なやる気で頑張ろう。


「キールは戦闘科のトーナメントに出るつもり?」

「いや、出ない」


 即答する。俺がそんな面倒なやつに参加するわけがない。まぁ、観戦は自由らしいし、テキトーに座ってミリの活躍でも見ようと思う。


「観戦するなら、記名するペンを忘れないようにね」


 それじゃ、と云ってミリは席を立った。


 ミリ曰く、観戦するのは自由だが、予約をしないと席が埋まるらしい。今行くと時間が余るため、暇にはなるが…………まぁ、だからと云ってする事は特にないので、予約をするために立ち上がる。


 少し音が立ったために視線が集まるが、数秒のうちにそれらの視線は分散される。因みに、誰もエーデルにツッコミを入れないのは隠蔽魔法を使っているため。魔法って便利だよね。まぁ、意外にも、全体的な便利さは圧倒的に科学の方が上だけど。


 1度伸びをして教室を出る。途中、何人かの人物が俺の頭上を見るが、特に何も云わない。恐らく、魔法の気配を気にしているだけだろう。警備のオッサンもチラ見してたし。


「頭上に魔法の気配…………下手したら俺、ヅラ疑惑がかかるかも」


 そんな恐ろしい考えを抱きながらも、だだっ広い敷地内を進む。流石に何年も通い続ければ道を覚える。今の俺は、地図があれば絶対に迷わない程度の能力を保持している。


 そして、何故か同じ道を数度通ったり、また教室に戻ったりしつつも、なんとか目的地に到着した。


「おー、人だかりスゲー」


 到着して早々、長蛇の列に並ぶ。何の列かは自分でも分からない。ただ、俺は列を見ると並びたくなる人種だ。


「はい、次…………って、キールか。取り敢えず頑張れ」


 俺が並んでいた列は観戦のための列だった。みんな名前記入しているし。


「あ、どもです」


 何故か応援されたので頭を下げる。相手は知らない人だ。多分。


「あぁ、一応お前の先輩だよ。戦闘科所属。こうして話すのは初めてだよな。ま、よろしく!」


 そう云って、自称先輩は笑いながら手を差し出して来る。基本、イケメンは人類の敵だと云う認識を持っている俺は、黙ってチョキを出して勝利宣言をする。


「「……………………」」


 微妙な空気になったので、用紙に名前を記入し、証明書を貰って列を離れる。


 トーナメント開始まで、あと半刻。

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dagger 佐々木 篠 @shino_novel

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