先生とか司書とかロリコンとか(2)
「世界について学びたい? その考えは実に素晴らしいとボクは思うね。人間には他の種族とは違う力がある。それは繁殖力だよ。何代にも渡り知識は継承され、その溢れる好奇心により新たな何かを生み出す。これは人間のみに許された物だよ。それだけじゃない。なんたって、人間は短命だからね。長寿の生き物とは価値観が違い、情報の尊さを分かっている。価値が分かるってのはそれだけでかなりの長所さ」
この女性ひとは中々に饒舌で、1度口を開くとそう簡単には止まらない。遮ると怒る。怒るとまた話し始める。しかも捲し立てるように。
先生が語り始めて、既に半刻は過ぎている。エーデルは俺の頭を枕にし、深い眠りについている。
俺も寝たいのは山々だが、流石にそうはいかない。かと云ってこのままでは確実に精神に大ダメージを負う事になる。
まぁ、適当に情報でも纏めておけば、時間も過ぎるだろう。それに、どうせ何時かはしなければいけない事だし。
まずは、この世界から。この世界の名前は――――聞き流してたから忘れた。
次にこの国と周辺の諸国――――も、聞き流してたから忘れた。
最後に、エーデルもとい赤龍レッドドラゴンの生態だが――――聞き流すも何も、最初から聞いていないから分からない。
結論、何も分からない。
…………よし、上手い具合に纏まったな。誰が見ても、何を書いているか分かるはずだ。完璧じゃないか。
と、取り敢えずあれだ。聞き流してしまったのは仕方がない。去る者追わずな精神で行こうじゃないか。
「魔法、それは神々の恩恵。または人々が選択した技術。科学と対となる存在――――」
先生の講義らしきものは終わりを知らない。滞る事なく次から次へと言葉が流れる。
だが、その説明の中にあった懐かしい言葉に、俺は思わず先生の言葉を遮る。
「――――科学、ですか?」
この世界はファンタジーだ。機械は存在しない。機械のような物が無いわけではないが、動力は全て魔力だ。電気ではない。だと云うのに、何故科学と云う言葉がある?
「あぁ、科学とはお伽話の世界でよくあるアレだよ。魔力とは違った何らかの動力――――例えば水力とか電力を使って、人が空を飛んだり水中を探索してみたり。或いは、月に到達してみたり。まぁ、FFファンタジーフィクションと一緒で、小説の中での話さ」
あぁ、なるほど、とそれ以上は追求せず、先生に次の講義と云うか説明を促す。
先生は1つ頷くと、また魔法の説明に戻る。
個人が得意とする魔法は、体を巡る魔素(魔力の元)により染色された体毛で判断する事が出来る。
また、魔法を使う際に用いる言語は真語と云い、全世界共通の言葉である。これのおかげで、我々は他国の人間と意思疎通が可能である。
その他にもあらゆる知識が披露される。しかし、俺はそれを話半分にしか聞いていなかった。
「――――FFファンタジーフィクション…………か」
恐らく、これは向こうの世界で云うSFサイエンスフィクションと同じだろう。
つまり、向こうの世界で魔法がお伽話であるように、こちらの世界では科学がお伽話である…………と。
「この世界の本も読まなければな…………」
活字はあまり得意ではないけど、そこは我慢するしかない。
だが、仮に本を読むとして、一体何から読めばいいのだろうか。やはり、お伽話と云う事で絵本だろうか。それとも、無難に有名な作品をチョイスするか。
目の前にいる叡智を守護せしうんたらかんたらな先生に聞くのが最も速いだろうが、どうせ答えは決まっている。先生の事だから『全てだ。ここにある本は全てお勧めだ。君が読むに値する本だろう。そもそもこのボクが駄作なんてこの館に入れるわけがないだろう? そんなの火を見るより明らかだ。君も少し学んだ方がいい。ボクと云う存在は――――』とか長ったらしい事を延々と述べるのだろう。それはごめんだ。俺としても、向こうの世界での校長先生を彷彿とさせるような長い話を聞くつもりはない。
取り敢えずそこら辺は追い追いやっていくとして、まずはこの先生から赤龍レッドドラゴンの生態でも聞こう。
「先生、赤龍レッドドラゴンの生態に非常に興味があります」
「…………君はまた人の話を遮るんだね。そこは君の悪い所だ。人の話を聞くと云うのは大事だ、と云うのは子供でも知っている。…………まぁ、説教はこのくらいにしておこう。先ほども云ったが、知ろうと思うのは大変良い事だ。まぁ、取り敢えずは赤龍レッドドラゴンの伝承から話そうか。赤龍レッドドラゴンは今から――――」
先生の蘊蓄が始まる。赤龍レッドドラゴンの伝承とかどうでもいいよ! とは云えないので、黙って耳を傾ける。
しかし、実際に聞いてみると、赤龍レッドドラゴンの生態については詳しく分かっていないらしい。先生の説明を要約すると、とても強い。とても硬い。とても長生き。そんな感じ。
俺が疑問に思った、年齢とレベルが等しいと云う事も知られていない。
それでも、ためになる情報が2つだけあった。
1つは、赤龍レッドドラゴンは成長期が3回あり、1度目の成長で人間で云う10歳ほどの容姿と思考力を持ち、2度目で14歳程度、3度目で20歳程度になると云うもの。今現在、エーデルは1度目の成長期を終えた姿と云う事になる。
んで、もう1つの情報が、赤龍レッドドラゴンを含め、ある一定以上の龍種は全て人型になれると云う事だ。…………いや、正確に云うと、人型の方が安定して力が出せる――――つまり、人型の方が強いらしい。
あー、なんかごちゃごちゃとしてきたが、人型の方は小回りが利くし存在の密度が高まるから強いらしい。完全体ってやつ。生まれたばかりの龍種の子供はドラゴンの姿になれないと。普通逆じゃね?
「あ、そろそろ授業に出ないと拙いんで!」
さいなら! と右手を挙げ、先生の口撃が始まる前に逃げる。
授業に出ると云うのは逃亡するための口実ではあるけど、一応俺は学生だ。退屈な授業でも受けて今日を消化するとしよう。
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