もしも願いが叶うなら…

うすたく

願い事

「お前の願いを叶えてやろう。」


 目の前の異様な光景を目の前に、私はただ立ち尽くしていた。前にいるのは、全身が青く染まっている人型の何か・・・。だが、とても人間とは言えない者だった。


「いきなりそんな事を言われても困ります。他を当たってください。というより失せてください。」


 あまりに気持ち悪い姿に、うっかり本音が漏れてしまう。


「まさかそんな言われ方をするとは思っていなかった。だが、願いを叶えられるのは事実だ。あ、でも非現実的な願いはやめてくれよ?何個でも願いが叶えられる様にしてくれとか、一生なにも食べなくても生きていける体にしてくれとか、そういう夢のない願いは本当にやめてね、クレーム殺到するから・・・」


 その青い人型の何かは焦りながらそう言う。


「その前に名前教えてよ。ナレーションがかわいそう。」


「ナレーション??まぁよい、申し遅れた。私の名はエルク。この世界の第三神の1人に当たる者だ。さて、話を戻そう。願いはなんだ?」


 エルクは少女の向かって願い事を問う。


「願い事なんてないんだけど。例えばなにを言えばいいの?」


 少女の質問にエルクは顔を強張らせる。


「いざそう言われると困るなぁ。あっそうだ、お金持ちになりたいとか、モテたいとか、そういうささやかな願いでも良い。」


 そう聞くと、少女は俯き、悩みに悩む。


「…ない物はない。だいたい、なんであたしなの?」


「お主が選ばれたからだ。第三神は1000年に一度、この地球の人々の名前が全て書かれた紙を用意して、あみだくじを行う。その途方もない数の中から選ばれた強運の持ち主の願いを叶えてやろう。という今世紀から始まった企画なのだ。」


「あたしが最初かよ!!」


 少女は思わず突っ込む。過去にも願いを叶えてもらった人がいるなら参考にしようと思ったのに。


「さて、願いを言うのだ。」


「ねぇ、これ強制なの?」


 少女は面倒臭そうにそう言う。


「当たり前だ!第一回にして企画終了とか、あまりにも悲しすぎる!!企画どころかこの物語も終わるし、タイトル詐欺にもなるからね!?」


 この神、とてつもなくメタい。


「もう一回あみだくじやり直してよ。あたしこういうの面倒なんだよね。」


「俺たち神だってお前が最初というのは抵抗あったんだぞ?もっと可愛げのある女子おなごにしたかったのだ!でも何回やってもお前。なめとんのか!」


「そんなにあたしがイヤだったか!?」


 エルクは当たり前と言わんばかりに頷く。


「やり直しするくらいあたしは嫌われてるのか。それはショックだな。それ以上にあんたらのクズっぷりに呆れたけど。」


 少女は呆れ顔で溜息を吐く。


「とにかく願いを言わんかい!俺はもう帰りたいんじゃ!」


「じゃあ決めた。」


 少女は指をピンと立てて可愛げにそう言う。


「言っとくが、お前がそんな事やっても、これまでのイメージから可愛いという認識にはならないぞ?まぁ良い、早く言え。言った瞬間願いを実行してやる。」


 エルクは腕を組んでそう言った。少女は薄く笑みを浮かべながらこう言った。


「第三神全員死んで♡」


 その瞬間少女の目の前からエルクの姿は消えた。それと同時にこの世に神頼みという概念は消え、神社という存在もなくなった。終いには、「神」という単語すらも人々の記憶から消えてなくなった。


「何したかあんまり憶えてないけど、なんか嫌な奴を殺した時くらいに清々しい気分だなぁ。」

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