第4話



午前7時25分


都立学園前行きのバス停で、僕は今日も彼女を待った。


幼なじみだった彼女、小・中・高と一緒だった彼女。


僕の知らない事なんて、無いと思っていたんだ。


そう──

昨日まで……。


昨日、彼女の背中になんだかわからない得体のしれない触手が生えていた。


誰も、それをおかしい事だと思っておらず、僕はこの世界が何者かの侵略者に攻撃されているのかもしれないくらいに思った。


僕は最初こそソイツを恐がり怯えていたが、その彼女の触手に助けられた。


それがきっかけで触手に対して、少し寛容になったが僕と彼女の友達は言った。


あることだと……。


「一体、なんなんだよ……」


今日もいつにもまして寒い。


僕は両手の平にはぁっと息を吐きかけた。


僕の吐いた白い雲に霞んで、誰かがコチラに向かって来るのが見える。


昨日と同じ、にこちらに向かって駆けてくる。聞き慣れた足音が響いてきた。


「おっ……、おはっ……よ……う~っ!」


昨日も聞いた、いつもと変わらない彼女の声。


少し息を切らして近づいて来るのもいつもと同じ。


通常通り僕より少し遅れて、彼女はバス停にやって来た。



「オハヨウ……」


僕は昨日の事が出来れば夢であればいいと願った。


彼女の顔をちゃんと見ないで、俯きながら挨拶をする。



「どうかした?」


優しい彼女の声。


イヤ、ダメだこんなんじゃ!


僕は昨日、彼女に助けられたじゃないか!


例え、触手が生えていようが角が生えてようが、彼女は彼女だ! 変わらないんだ!


「なんでもないよ……」


僕は顔を上げた──

  

「…………!?」


アレ……?

ない……



触手がない!!



僕は彼女の頭を凝視した、念のため彼女の周りをぐるっと回ってみる。


無い!

触手が生えてない!!


「な、なに? どうしたの? 今日の私、なんか変かな?」


「いっ、いやどちらかというと昨日の方が変だった」


「えっ?」


「あっ、いやいやなんでもないよ、うん、良かった……本当に良かった」


やっぱり昨日の事は夢だったんだ。


そうだよ、彼女に触手が生えるなんてそんな事あるもんか。


僕は心底安堵して、人生で一番の深いため息を吐いた。


もう幸せが逃げるとかどうでもいい、ともかくそれは不安や恐怖からの解放のしるしだ。


「あっ、バス来たよ」


もうなにもかもいつも通りだ、バスが二人の前に停まり扉が開く。


彼女を先頭にして中へ乗り込むと階段を昇り、僕はふと彼女の頭を見た。






髪の毛に隠れて、何かがちらちら見え隠れしている。






(なんだ……?)


さっき見た時はわからなかったが、彼女の髪の間で何かが蠢いていた。


「えっ……」


触手? ではない。


明らかに、コッチを【ソレ】はジッと見ている。



そして──



僕の視線に気づいたソイツは……

スーッと髪の間からコチラの方へと這いだして来た。


ヌラヌラとした粘液に包まれた、目玉の化物。



「うっ、うぎゃああああああああああああああああああああああ────——————!!」




僕はそのまま意識を失いそうになり、けれどこのままそんな事をしたら食われるかもしれないと、必死に自分を奮い立たせた。



「だ、大丈夫?」


彼女は驚きつつも、後ろに倒れそうになっている僕に手を伸ばし腕を掴んで引き起こす。


はにかむ彼女は、やっぱり何も変わらない。


「……ああ、悪いちょっと驚いただけ」


僕は願う。

以前までの平凡な日常に戻る事を……。


「もう! 驚かせないでね? ま、まさかまたゴキブリ……?」


「いや、違うよ」



でも、もし————



それが叶わなくても、異形の姿をした彼女の中身が変わらないなら……


「ゴキブリに見えたが、見間違いだった

みたい……」


「ほ、ホントに? 良かった〜」



彼女と一緒に目玉の化物が脱力している。


「ほら、早く乗れよ」


僕が彼女の背中をポンと押すと、彼女は微笑み目玉だけのそいつも目を細めている様に見えた。



やはり、姿は異形なものでもコレも彼女の一部で彼女自身という事なんだろうか……?



でも、それならば、多分この先も大丈夫かもしれない。



僕の溜息の数が増えるだけだから。







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異形な彼女 警告 @minato0330

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