第5話 別に、そんなんじゃないよ。

「あの。」


いきなり声を掛けられた。

予鈴が鳴りみんな、いそいそとクラスに帰っている時に。

どうしたものかと振り返れば、小柄な女の子。

じっ…と私の事を見て、意を決したように言った。


「あなた、白先輩の何なんですか!」


…は?

何だこの子。いきなり、意味がわからない。


「…幼馴染…かな?」


私に話しかけてきた子は随分小柄な子で、タイの色は青。

…1年生か。

学年によってタイの色が違うから、見ただけでわかる。


「っ…付き合ってるんですか⁉︎」

「付き合ってないよ」

「…そうですか、わかりました。では。」


訳のわからない子だ。

名前を名乗りもしないで、ペコリとお辞儀をして、走って行ってしまった。

どうせ、私と白っちが「付き合う」何てこと出来ないのに。


追いかけようかとも思ったけど、もう直ぐ授業が始まる。

諦めて、教室に入り、自分の席に着く。

ふと、外を眺める。

予鈴が鳴る少し前に別れた白っちは体操着でグラウンドを歩いていた。


「ふふふ」


あまり見ない白っちの体操着姿に笑みが浮かんでくる。


「なーに笑ってんのー」


後ろから小突かれた。

今年の4月にクラス替えをして、仲良くなった友達。桜宮桃。

頭のいい子で、テストはいつも上位。

ベリーショートが似合う、目のぱっちりとした可愛い子。


「別にー何でもないよ」


白っちから目を離したくなくて、手だけで挨拶する。


「朝川君の事見過ぎで、授業中怒られないよーに」


気になってるんでしょーと、桃が 言った。

別に、そんなんじゃない。

「朝川真白」と、普段呼ばないからか、むず痒いような気分になる。


「別に、そんなんじゃないよ。」


窓の外を眺めながら、つぶやいた。

うん、別に、そんなんじゃ、ない。

気になってる、とか、そんなんじゃ、ない。

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『書く』と『描く』と『かふぇおれ』と 雨樹月 @gogatuame

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