第4話 全然違う。

「白っちはいつも菓子パンなのね。」

私は卵焼きを口に含みながら言う。

「別に…深い意味はないよ。美味しいし…菓子パン。そんなこと言うなら、黒さんだっていつも缶コーヒーだよね。」

「白っちは牛乳ね。」


白っちが食べているのは菓子パン。

私が食べているのはお弁当。

白っちが飲んでいるのは牛乳。

私が飲んでいるのは缶コーヒー。


全然違う。


プルタブを開けコーヒーを飲む。

苦味と少しの甘み。

べたつく口の中にいい具合に広がって、すっきりする。


「コーヒー、苦くないの?」


もう、菓子パンを食べ終わった白っちは牛乳を飲む。


「果糖だから少し甘み入ってるよ。」

「…それでも、苦そう。」


想像したのか、顔をしかめる白っちの顔が面白くて、思わず笑う。


「…何。」


不機嫌そうな顔は、可愛い。

みんな「無表情だ」という白っち顔は私にとっては表情豊かにしか見えない。


すん。と鼻を鳴らして白っちは前を向く。

中庭から見下ろせる、街を見ているのか、その目は果てしなく遠い。

私が見ていた事に気付いたのか、こちらを白っちは向く。

そして、

私のまだ飲みかけのコーヒーと、飲みかけの牛乳を見比べて、

牛乳の中にコーヒーを入れた。

………⁉︎


「何やってんの⁉︎」

「……何って、コーヒー牛乳、作ってるんだけど?」


さも、当たり前の事かのようにさらりと言う。


「はい、飲んでみて。」


私にストローを向ける。


いやいや、ちょっと待って、これって、間接キスというやつになるのでは………⁉︎

その前に、白っちコーヒー牛乳飲めないよね⁉︎


「…飲めるの?コーヒー牛乳。」

「飲めるよ、ただ、少し苦手になっただけ。」

「いや、でもさ、白っち?」

「…………。」


どうしても飲めという事か⁉︎

渋る私を訝しげに見てから、気付いたようにコーヒー牛乳を下げる。


「ご、ごめん………。」


左手を口に当て、恥ずかしげに視線を逸らしている。

もうっ、こっちまで恥ずかしくなるじゃんか‼︎


白っちは今度は丁寧に缶にコーヒー牛乳を半分入れる。


「ほら、これで飲める…よ。」

「あ、ありがと。」


ずいぶん綺麗に入れたものだ。

口に含む。

美味しい。

けど、何かが違う…ような気がする。

白っちを見るとまた、静かに街を見下ろして遠くを見ている。

コーヒー牛乳を時折口に含み、少しだけ、顔をしかめて。


ふふ、ふふふ。


また笑ってしまった。


手渡された缶に入ったコーヒー牛乳。

牛乳パックに入ったコーヒー牛乳。

同じコーヒー牛乳のはずなんだけどなぁ。


全然違う。…みたい。



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