第14話 ずっと、ずっと一緒に居てくださいね
目が全く笑ってないほたるが、にこにこしながら【study buddy】を代表して裁判を進行した。
「君たちの漫才とパソコンのログから大体の事情は分かった」
「「はい」」
「正直、僕らを守ろうとしてくれたのは素直に感謝する。が、僕らとユーザーに不要な心痛を与えたのだけは頂けないなぁ」
「「申し訳ない」」
完璧なユニゾンで運営長と辰己は頭を下げた。
「僕は言ったはずだよね? 『僕の妹たちに何かあったら、全力で反撃する』ってさ」
「はい……」
これは、辰己だけが言われていたらしく、運営長は辰巳に『俺はその報告受けてないよ……』と言いたげな表情をした。
ほたるの容赦ない追及は続く。
「ユーザーは感動の夜だったけど、【study buddy】達には黒歴史になった者も少なくない。酷いと思わない?」
二人を囲む【study buddy】たちの顔が赤くなったり、青くなっている。
「「おっしゃる通りです」」
「よしよし。それでは、地獄のオシオキをどうするか票決を取りまーす。何事も民主的にね~☆」
振り返って、ほたるはキリキリと二人をにらみつけていた【study buddy】の面々を促した。票決には各自のタブレットのメーラーを利用するらしく、次々と自分のタブレットに戻っていく。
がらんと誰もいなくなったパソコン画面で、ほたるは笑みを消してぽつりと呟いた。
「……本当は、僕らに頼るべきだったと思うよ」
こっちがほたるの本音らしい。
辰己と運営長は顔を見合わせて頷いた。辰己が口を開く。
「ありがとう。ただ、俺たちは【study buddy】が教師と生徒の板挟みになることは避けたかったんだよ。そんなことは、俺たちが、『運営』が、引き受けるべきだ」
「で、このありさまってわけ?」
「「面目ない」」
またそろって辰巳と運営長は謝った。ほたるは吹き出して笑った。
ぱらぱらと【study buddy】達が戻ってきた。やがて全員がそろう。
「お、票決出た? うんうん、大体予想通り。それじゃあ、発表しま~す」
するすると幕で隠されたボードが降りてくる。
どこからか、ドラムロールまで聞こえてきた。いやに本格的だ。
「ちょっと、待ってください!」
現れたのは、ひかるである。慌てているのか着地地点を間違えたようで、画面端から走ってきた。
「お、拗ね姫が来た」
ほたるが久しぶりにチェシャ猫のような笑みを浮かべた。
「拗ね姫ってお前……」
「ほたるちゃん、どうか寛大な裁量をお願いします! その人、ちょっと過激で、突っ走って、挙句、ボロボロになるようなどうしようもない人なんですけど、私の大事な人なんです」
「……悪口が9割。そこまで言わんでも」
辰己は床にのの字を描いた。
息を切らせて嘆願するひかるに、ほたるは、よよよ……としなをつくって泣いてみせる。
「ごめんね、ひかる。罰を決めるのは僕の裁量じゃなくて、多数決だからどうしようもないんだよね。まぁ、僕はもっと重い方がいいと思うけど。みんな優しいなぁ」
「え……?」
「大事な人とずっと一緒に居たいのは、ひかるだけじゃないってこと」
いたずらっ子の様にウィンクして、ほたるは幕を引き下ろした。ボードがあらわになる。
「……ということで、『運営』への罰は『これからもマスターと一緒に居れるように、卒業後もサポートを続けてください』に決まりました~! みんなの愛に拍手!」
【study buddy】達が照れたような笑いで拍手をする。やがて大きな歓声となった。
実は、ひかるたち以外にも、昨日の騒動でいくつかのカップルが誕生していたのだ。
辰己達の作戦の思わぬ成果だった。
その光景ににこにこと満足げに頷いていたほたるが、くるりと二人を振り返る。
笑みは口だけで、ゴゴゴゴゴと得体のしれないプレッシャーが噴出していた。
「で、……まさか、出来ないとは言わないよね」
運営長と辰巳は顔を見合わせて、力強くうなずいた。返答を間違えれば、東京湾に浮かぶことになる!
「先輩を」
「馬車馬のように働かせれば」
「「できます……いや、なにがなんでもやらせます」」
事の発端である先輩をとっちめることに異論はない。
この世の果てまで追い詰めてもやらせようと二人は決意を新たにした。
返答にうんうんと頷くほたる。
安心したのか、ほたるもいつもの調子に戻ったようだ。
あ~あ、とつまらなそうに頭の後ろで腕を組む。骨の髄まで天邪鬼だ。
「これでハッピーエンドかぁ。あ~あ、もう一波乱ほしいな。……ねぇひかる、浮気しない? それか、僕が辰巳を寝取ればいいのか」
ひかるをけしかけるほたるだったが、ひかるにキッと睨まれてしまった。
「しませんし、あげません! 辰巳さんが欲しいなら、私を倒してからにしてください!」
がるるる~と、ひかるが可愛らしくうなる。
なんか吹っ切れたのか新しい属性がくっついたようだった。
「え~、別にそこまでして、欲しくないや。ん~、余裕なくなるくらい惚れてるのかねぇ? 辰巳、ちゃんと、フォローしてあげなよ。それが、ひかるへの償いだよ。ほら」
「ほ、ほたるちゃん」
ぐいっとひかるを画面前に押し出して、ほたるはにんまりと笑った。
「もちろん。ひかる、これからもよろしくな」
辰己が微笑みながら言うと、ひかるは顔を赤くした。
「こ、こちらこそ! ……ずっと、ずっと一緒に居てくださいね」
かろうじて言い切ると、ひかるは一筋だけ涙をこぼして笑った。
「あぁ、ずっと一緒だ。必ず幸せにする」
男だろうが女だろうが、ひかるの笑顔を見ただけで、それだけで、辰己はなにもかも救われた気がしたのだった。
―Fin―
男子高校生と電脳少女たちが挑む《第6次バレンタイン戦争》 北斗 @usaban
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