第9話 初めての決戦

 ジムの中。ヘッドギアとグローブを付けた翔太と流也が向かい合っている。そばに早見が立っている。壁際に大介と隼人が立っている。

「時間は2分1ラウンドのみ。ダウンしてもテンカウントはとらないよ。ぼくが勝負あったと判断したら、すぐに止める。いいね」

 早見が言い、翔太と流也はうなづいた。

「王武会ルールは、グローブなしの顔面パンチなしだけど、ここはキックボクシングのジムだからね。グローブとヘッドギアを付けて、顔面パンチありとする。いいね」

 早見が言った。流也が早見を見た。

「かまいません。ただし、ぼくは顔面に突きは打ちません。王武会では反則ですから」

 流也が言った。早見は少し考え、

「きみがそうしたいなら、それでいいよ」

 と言った。

「翔太。絶対、目を閉じるなよ。目さえ開けてれば、あとは体が反応してくれる」

 大介が大声で言った。

「はじめ」

 早見が言った、と同時に流也が前進した。

「胸の真ん中に突きを一発入れれば終わりだ」

 そう言いざま、流也が右パンチを翔太の胸に打ちこんだ。ドンッと音が響いた。翔太の両腕のガードが、流也のパンチを受け止めた。

 流也が凄まじい速さで、翔太の胸と腹にパンチと前蹴りを連発で打ちこんだ。が、そのすべてを翔太がガードで受け止めた。

「全部受けた?バカな!」

 流也が信じられないように言った。

(見える。流也くんのパンチやキックのスピードは、大介くんと同じくらいだ)

 翔太はそう感じた。

「大介を相手に練習してきた成果だ。速い技に目が慣れている。高いレベルの者と一緒に練習すると上達は早い」

 翔太の動きを見て、隼人が言った。

「それにグローブが、流也の敵になってる。空手の突きは、鍛えこんだ固い拳を相手の体にねじりこむもんだが、16オンスのグローブで拳の固さが消されてる」

 流也が翔太の胸と腹に、何発もパンチとキックを放つが、翔太はすべてをガードした。

「くそ」

 流也が右拳を大きく振りかぶり、顔面ががら空きになった。

「顔面がら空きだ!」

 大介が叫んだ。翔太がジャブ、ストレートを流也の顔面に放った。流也が上体を後ろにそらしてよけた。翔太が右ヒザ蹴りを放った。翔太の右ヒザが、流也の腹に当たった。

「ぐっ」

 流也がうめいて、ぐらついた。

「よっしゃ」

「ヒザ蹴りが入った」

 大介と隼人が叫んだ。

(左足の踏み込みが浅い)

 早見は思った。流也の顔が険しくなった。

「くそ!」

 流也が叫びながら、翔太の顔面に突きを打ちこんだ。翔太がガクッとヒザをついた。

「顔面パンチだ!野郎、だましやがった」

 大介が叫んだ。

「す、すまない。つい」

 流也はそう言い、動きを止めた。

「翔太。立って闘え!」

 大介と隼人が声を合わせて叫んだ。

 その声に応えるように、翔太が、グッと立ち上がり、ファイティングポーズをとった。

「続行!」

 早見が言った。次の瞬間、翔太が、大きく左足をドンと踏み出し、右ヒザを突き出した。

「同じ技は二度はくわない」

 そう言い、流也は両腕でみぞおちをガードした。が、翔太の右ヒザはグンと上に伸び上がり、左足が床から浮いた。翔太の右ヒザが流也の顔面に向かった。

「軌道が違う!?」

 そう言い、流也が上体を後ろにそらした。が間に合わない。翔太の右ヒザが、流也のアゴ先をかすった。

「跳びヒザ蹴りだ」

 大介が叫んだ。

(左足の伸びが強すぎて、上に跳んじゃったのか。まぐれだが、結果オーケーだ)

 早見は思った。

 流也がグラッとふらついて、ヒザをついた。

 翔太は、バランスをくずし、背中から床に落ちた。

 二人とも、息を切らしている。

「それまで!」

 早見が言った。

 大介と隼人が、翔太に駆け寄った。

「大丈夫か。翔太」

 隼人が言い、翔太はうなづいた。

「二人とも軽い脳震盪を起こしていると思うよ。少し休んで様子をみよう」

 早見が微笑みながら言った。

「脳震盪?おれが!」

 流也が歯噛みして言った。

「ヒザがアゴ先をかすったでしょ。あれで軽く脳が揺れたと思うよ」

 早見が言い、流也は「くっ」とうめいた。

「すごいな。跳びヒザ蹴りなんて」

 隼人はそう言ったが、翔太は首をふった。

「いや、ヒザを前に突きだそうとしたんだけど、なんか勢いあまって跳んじゃった」

「たまたまかーい」

 翔太のボケた言葉に、大介がつっこんだ。

「無意識に跳びヒザを出したのか」

 流也は驚いた。早見が腕組みをして考え、

「うーんと、判定は引分けかな」

 と言った。

「いえ、俺の負けです。王武会ルールだったら、顔面パンチは反則。跳びヒザ蹴りで一本です」

 そう言う流也に、早見が感心したように、

「きみもまじめだね」

 と言った。

「へっ、わかってんじゃねえか」

 大介が言った。

「翔太。おまえが格闘技に向いていないと言った前言は撤回してやる」

 そう言う流也に、大介がイラッときた。

「だから、どうして上から目線なんだよ」

「やったあ、認められた」

 流也に詰め寄る大介を無視して、翔太は無邪気によろこんだ。

「だがしかし!まぐれで1回勝ったからって、いい気になるなよ。再戦だ再戦!」

 完全にムキになった流也が言った。

「えー」

 イヤそうに翔太が言った。

「ちょっと待てや。その前に俺とやろうぜ」

 大介が間に割り込んだ。

「おまえなんか知るか。翔太、再戦だ!」

 流也は大介を無視した。その流也の尻に、突然大介がローキックをブチこんだ。

「なにしやがる、このクソ野郎!」

 キレタ流也が大介に叫んだ。

「やろうぜ、勝負!」

 大介が応じた。

「やめろ、大介。こんなケンカみたいなのはだめだって」

「流也くん、キャラ変わってる」

 隼人が大介を羽交いじめにし、翔太が流也に抱きついて止めようとするが、大介と流也は手足を振り回し、くんずほぐれつの状態になった。

「うーん、もうちょっと爽やかに終わってほしかったなあ。おじさんとしては」

 早見はぼやいた。

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