鎧なあの子はアイドル系

働けども働けども仕事は楽にならず。

原因は分かっている。

新しく入ったアルバイト、エルフのエルデ婆が全く戦力にならないからであった。


「モトキ君や」

「なんですかエルデ婆」

「…なんだっけねぇ?」

「いや、俺に聞かれても」

「そうじゃった。ホストクラブはまだかねぇ?」

「借金返してから聞いてこい」

「最近物忘れが激しくていかんねぇ」

「借金したことは忘れても借金そのものは消えないぞ」


とホストの話しかしてこない。

モンスターの世話をさせようとしてもグロリアちゃんのときとかは


「フゴ?フゴフゴ?フゴ?フゴフゴ?(あれ?今日の料理当番はエルデ婆?ってこれなんかスープから変な音出てない?なんか生き物の悲鳴のような?)」

「愛情たっぷりのエルフ秘伝のレシピじゃ」

「フゴ(ふーん、じゃあ一口」


その後倒れたグロリアちゃんは解毒のスペシャリストの人が来てくれるまで意識不明の重体に陥った。


「あれ、間違えたかねぇ?」


オークを殺れる料理っていったい何が入っていたんだろう。

オークって確かなんでも食べれたような。

残ったゴミ(料理)を出そうとしたら封印が必要な呪いのアイテムは捨てられませんとのこと。

これを捨てるなんてとんでもない!とのことでゴミ収集の方に断られた。

愛情たっぷり...エルフ秘伝...

料理だよね?これ。

しょうがないのでその料理は箱に入れて倉庫に入れておいた。

たまにその箱がガタガタ動いている気がするが見なかったことにしている。

他にもスラ兄のときは


『なんだ新人?俺の世話に文句でもあんのか?おい、なんだその入れ歯は?おい...何故こっちに寄せてくるんだ?おい馬鹿やめろ。俺は入れ歯の洗浄剤じゃないぞ!やめろー!!』


と悲鳴が聞こえてくる。

エルデ婆って入れ歯だったのか。

見た目だけは二十歳そこそこに見えるし、動きが俊敏だからてっきり歯も丈夫だと思ってた。

ちなみに入れ歯はピカピカになってた。

スライムってすごいのね。

スラ兄はその後


『入れ歯が、入れ歯が来るよー』


と俺の部屋に逃げ込み夜な夜なうなされていた。


ちなみにゴブリンのゴブ・サップは最近姿を見ない。

グロリアちゃんはまだエルデ婆と怖がりながらもコミュニケーションを取っている。

ここで良い娘だなぁ、と口に出してはいけない。

俺の貞操が危ないからだ。

社交的なオークというマイルドな表現にしておこう。

社交的なオークって何だろう。

だがゴブ・サップは過去に何があったのか知らないがいろいろ怖い思いをしたらしくエルデ婆がいるところには絶対現れない。

俺としてはナイフを投げられることもないので平和でいいんだが見かけないので逃げたかいつのまにかエルデ婆に始末されたか。

もしそうならこんなに嬉しいことは…大変なことはない。

一応あれも保護対象だから死なれると俺の責任問題になる。

なんせ表向きは従業員が俺しかいないとこの前上司のアネッサさんに言われたばかりである。

アネッサさんはここで働いてるってことにはなってないとのこと。

詳しく聞こうとしたら


「国から存在を無かったことにされると思うけどそれでも知りたい?」


ということなので俺はそれ以上聞くのはやめた。

一般市民万歳。

なのでモンスター保護区で起こることすべてが俺の責任ということになっていた。

だってアルバイト以外の正社員?社畜?は俺だけだからだ。

そして仕事をしているのも実質俺だけだ。

エルデ婆はテロを、アネッサさんは優雅にお茶を飲んでいる。

仕事はしていない。

いつも通りの光景だ。

誰も頼ってはいけない。信じてはいけない。

ここで信じることが出来るのは自分自身だけなのだ。

上を見上げると晴れているのに雨が流れていた。

だってこんなにも頬が濡れているんだもの。

上を向きながら箒で玄関の方を掃除していると声をかけられた。


「あのう、こちらモンスター保護区でよろしいでしょうか?」


凄い可愛い女性の声。

でも俺はどこぞのエルフでもう学んだ。

夢は持つべきものではない。

振り返ったそこにユートピア等無い。

今更癒し系の女性が俺の前に登場するわけがない。

ほーらだって


俺の前に立っているのは空洞の鎧だもの。

ピンク色の。


「ええ、保護希望の方でしょうか?」


俺はビジネススマイルで答える。

もう慣れたもんさ。

もう夢なんて持たない。

来るやつはモンスターか賞金稼ぎしかいないのがモンスター保護区だからさ。


「ええ、ここでしたら事情のあるモンスターを保護してくださると聞いて」

「はい、では中へどうぞ」


中に案内してアネッサさんと顔合わせする。


「アネッサさん、珍しくあなたが唯一役に立つ仕事ですよー」

「やだモトキったら。反抗期?」

「いいから仕事してください」

「うぅ、お姉さん悲しい」


よよよ、と泣き真似をする上司。

泣きたいのは俺の方です。


「さてモンスター保護区へようこそ。リビングアーマーさん」


リビングアーマー

中が空洞の動く鎧。

死んだ騎士の怨念が乗り移った、鎧自身に自我が芽生えた等様々な理由で生まれるモンスター。

鎧を壊せば死ぬが不老であると言われている。


P.S.

リビングアーマーの中に入ったら錆臭かっただけだった。


モンスター辞書100選、これであなたもモンスターのハートをこじ開けちゃえ!(著者 by アネッサ)に書かれていた内容がこちら。

リビングアーマーの中に入ったことあるのかよ。


「はい、私リアラと言います。よろしくお願いします」

『リアラちゃん...だと!』

「知っているのかスラ兄!」


いつのまにか部屋にいたスラ兄。

エルデ婆がいないから出て来たな。


『知ってるも何も、リアラちゃんは人気アイドルだ!』

「アイドル?この鎧が?」

『失礼なこと言うんじゃねぇ!リアラちゃんはな。モンスター界で彼女にしたい女性ナンバー1、結婚したい女性ナンバー1、トドメを刺されるならこの人がいいナンバー2の人なんだぞ!』

「マジで!?」


モンスター界では鎧萌えなのか。

奥が深いなモンスター界。

そういや前にアネッサさんが丸いスライムはアイドルだけだって言ってたっけ。

アイドルの基準が分からない。

っていうか最後のランキングの第一位は誰なんだよ。


『お前リアラちゃんが可愛いからって手出すなよ』

「どうやって手出すんだよ」

『おま、俺にそんな卑猥なこと言わせるつもりか!いやらしいモトキ!』


鎧に対して卑猥なことって逆にどうしたらいいんだよ。

鎧触って、すべすべですねとか言ったら良いのか?


「モトキ、リアラちゃんを案内してあげてー」

「あ、はい」


スラ兄がギャーギャー言っているうちにアネッサさんと鎧のリアラ?さんとの会話が終わったらしい。


『絶対、手出すんじゃねーぞ!絶対だかんな!』

「はいはい」

『後、サイン貰ってこい。俺宛ての』

「このミーハーが」


なんでスライムが鎧のファンになってるんだろう。


「では行きましょうかリアラさん」

「はい、よろしくお願いします」


でも確かに声は可愛いんだよな。

離し方も丁寧だし。

今までいなかったタイプだ。

モンスターにも常識的なやつがいるんだなぁ。

アイドルだからか?

モンスター保護区内にある施設をざっと案内しているうちにリアラちゃんへの好感度が高くなっていく。


「モトキさんって結構格好いいですよね。なんだか仕事が出来る男の人って感じがします」

「そ、そうかな」

「モトキさんってモテるんだろうなぁ」

「え?そ、そう?」


っていうかこの鎧可愛くない?

可愛い声ですねって言ったら恥ずかしがるし鎧がモジモジするときにこすれるガチャガチャ音気にしなけば今までで一番女の子じゃね?

アネッサさんは女やめてるし、エルデ婆はボケてるしホスト狂いだし、グロリアちゃんはいろんな意味で肉食系過ぎるし。


「あのう、モトキさんって彼女とかいるんですか?」

「い、いないけど」

「そうなんですか。モトキさんの彼女になる人が羨ましいなー」


もう鎧でも良くね?

とりあえずモンスター保護区の案内を終わらせる。


「以上で案内終わるけど何か質問ある?リアラちゃん」

「はい、一つよろしいでしょうか?」

「ええ、なんでしょう?」

「あなたが今後私のお世話をしてくださる方ですか?」

「そうだよ」


逆に言えば俺しかモンスターの世話をまともに出来ないんだが。

それでもなんだろう。

鎧だって分かっててもドキドキしている俺は、ひょっとしたらリアラちゃんのことを...


「そっか。じゃあ今日からお前があたしのマネージャーな」

「は?」


今何か急にドスのきいた声で凄いこと言われたような気が。


「だ・か・ら、お前があたしのマネージャー兼舎弟だっつってんの」

「いやいやいや、性格変わり過ぎじゃね!?っていうか舎弟って何!?どうしちゃったのリアラちゃん!?」

「そのリアラちゃんってのもキモイし馴れ馴れしい。リアラ様って呼べよ。舎弟のくせに調子にのるんじゃねぇよ」


えええええええ!!


「っていうかさっきまでのはリップサービスだろうが。あんたが世話係の下っ端ってことはあたしのマネージャーだろう?それでマネージャーと言えば舎弟だろう?」


リアラちゃんが自分の中に手を突っ込み何かを取り出す。

何あれ?タバコ?

え?アイドル吸っていいの?

ていうか鎧って吸えんの?


「おい、とろくせーな早くしろ」

「え?」

「だから火だよ。火。本当使えないなお前」

「あの、火つけるもの何も持って無いんだけど」

「ったく本当使えないなお前」


俺は鎧にときめいていた1分前の自分をぶん殴りたくなった。

ここはモンスター保護区だ。

ここにいるやつらは全員モンスターだという当たり前のことを何故俺は忘れていたのだろう。


「じゃあ、とりま風呂用意しろ風呂」


目の前にとんでもないモンスターがいる現実を見つめなければ。

お前風呂入んのかよ。





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激務なモンスター保護区へようこそ モンスターなカバハウス @monsterkabahouse

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