エルフなあの子はアルバイト
就職にも失敗し、かといって冒険者になれるほど強くも無い。
そんなあなたにぴったり!
モンスター保護区で求められるのは多少の雑務と命を懸けることだけ!
ご連絡は以下の宛先まで!
「はぁー、やっぱりいくらなんでもこれじゃ人がこないよなー」
自分の職場の求人広告を見て深いため息をつく。
1ヶ月前から働きだした俺の職場であるモンスター保護区。
モンスター保護区とは
・文字通りモンスターを保護、そして世話をする仕事で国にも認められている役職
・その理由は様々でモンスターを狩りすぎることで起こる『人災』や保護することにより人間に益をもたらすモンスターを冒険者や密猟者から守ること等の理由も含まれる
・モンスターの種類は千差万別
・従業員は上司のアネッサさんと俺の二人だけ
という場所なのである。
なんでそんな国にも認められている役職に従業員が二人しかいないかって?
実はこの職場、一度就職したら辞められないとんでもなくブラックな職場だったのだ。
一度契約書にサインするとモンスターと話せるようになる呪印が手の甲に浮かびあがり、職場を辞めようとしたり逃げだそうとすると手が爆発する仕組みになっているのだ。
いいんだそれは。いや良くはないんだけど。いいんだ。
どうせ貴族の四男で家を追い出された俺に行き場所が無くってたどり着いたのがここだし。
ただ問題が二つある。
一つは上司のアネッサさん。
黒髪ロングの綺麗なお姉さんなんだが
「あー、元貴族君、長いね、おーいモトキ、お茶入れてー」
「はい!ただいま!」
まったく仕事をしてくれない。
なんだよモトキって。誰だよモトキって。
雑用からモンスターの世話まで、すべて俺の仕事となっている。
アネッサさんは定期的に国への報告義務とかなんとかで留守にする以外、事務所の机から動こうとしない。
前に一度目を見開いて痙攣しながら
「神は死んだ。犯人はマンホール」
と謎の寝言を言っていたので本当に起きているのか、寝ているのかすら分からない場合がある。
凄い人ではあるらしいのだがこの人が役にたっているところを見たことがない。
そして二つ目の問題が保護をしているモンスター達そのものである。
ほとんどのモンスター達がこれ保護なんて必要なのかって言いたくなるほど強い。
そしてモンスターだからなのか、それともそれがあるからモンスターなのか。
全員が全員自分勝手であり自分勝手に行動をする。
あるものはメスのオークでありながら人間の雄に欲情して襲い掛かってきたり。
そしてあるものはゴブリンのくせにオークに惚れてその恋敵になりそうなものを物理的に排除しようとしたり。
まさに千差万別。
命がいくつあっても足りない。
実際、俺もそのゴブリンこと ゴブ・サップ君が投げた毒ナイフであの世一歩手前まで行ったことがある。
本人曰く、
「ワルギハアッタ。ユルセ」
とのことなのでいつかコイツだけは刺し違えになっても始末しようと心に決めている。
ちなみにメスのオークことグロリアちゃんが惚れているのが俺だ。泣きたい。
ダメ男臭がやばいぐらい出てる俺はグロリアちゃんの好みだったみたいでアネッサさんには
「男冥利に尽きるわね。ひゅーひゅー♪」
と時代遅れな絡み方をされた。
中身おっさんだろこの人。
ただ考えてみても欲しい。
成人男性よりも遥かに大きいサイズのオークキングと呼ばれているやつと同等の存在が自分目掛けてフルスロットルで走ってくるんですよ。
人って自分の貞操がかかってるときって早く走れるんだっていうことを身をもって体験出来ました。
そして別ベクトルでやっかいなのが
『あん?何見てんだこの野郎?』
スーダラ・イ・ムジオン三世ことスライムのスラ兄。
毒で死にかけたときに毒を吸い出して助けてくれた恩人?ではあるのだがコイツが仕事上一番面倒くさい相手でもある。
なぜかというと
『それよりさっき会談登る時に体液がマットに吸い取られて今ピンチなんだ。早く水よこせ』
些細なことで死にかけるほど弱いのである。
スライムという種族が狩られ過ぎて残った元スライムの王様らしいことから保護されている。
なんでわかるにはわかるんだけど
『いいか、水をかけるときはそっとだぞ。一気にかけると吸収しきれずに俺の体が弾けるからな。ちょっとしたグロ画像だぞ』
「スライムの体が飛び散っても水と変わらないんじゃ」
『バッカ、お前本当にバッカ。人間にはそう見えなくてもスライムから見たら内臓が飛び散ってるんだぞ!スプラッター以外の何物でもねーよ』
と凄い面倒くさい。
俺はこいつが真っ二つに両断されなお生きている瞬間を見ているので実は生命力半端ないと思っているのだが本人曰く、
『それはそれ、これはこれ』
ということらしい。
いやどういうことだよ。
こういったいろんな意味で大変な職場に充実感という名の諦めを感じだしてきた今日この頃。
せめて、せめてもう一人、従業員が入ってくれたらなー...
「やー、少年、青春してるかい?」
と黄昏ている所にアネッサさんが絡んできた。
「青春なんかしてる暇ないですよ。今日だけでゴブ・サップのナイフを避けること46回、グロリアちゃんの気配を消してから近づく突進を避けること32回。スラ兄が勝手に死にかけること90回。青春なんかしてられませんって」
「モトキもタフになったわね~。正直ここまで持つとは思ってなかったから意外に拾い物だったかもしれない」
今さらっとすごいこと言いませんでした?
「でね。そんな頑張っているあなたへ。プレゼントを用意しました。ドラムロール、カモン!」
『ドルドルドルドルドルドル』
とスラ兄がドラムロール音らしきものを出していた。
お前が音担当なのかよ。
『デデン!』
「なんとエルフの女性をアルバイトで雇うことにしましたー!」
ドンドン パフパフ
とスラ兄からいろんな音が流れる。
バリエーション多いねスラ兄。
ってエルフ?
「エルフってあのエルフ?」
「イエス、あのエルフ」
「美人で可愛くてスタイル抜群で有名なあのエルフ?」
「ふふふ、そうよ。まさにそのエルフよ!どう?嬉しい?」
「さすがアネッサさん!俺一生ついていきます!」
エルフ
妖精が大人の姿になったもの、森から自然に生まれた人々、
人間と妖精のハーフ、等々。
種族としての始まりはいろんな逸話があり、エルフのほとんどが森から自然に生まれたと主張しているが実のところはエルフ本人達にも不明である。
長生きするものは400年から500年も生きると言われている。
外見的特徴として金髪、とんがっている耳、青い瞳、そして美しい容姿で生まれてくる。
人間界で活躍しているエルフのほとんどがファッションモデル、グラビア等幅広い分野で活躍中。
P.S. エルフには男のロマンが詰まってるんじゃ!とじっちゃんが言ってた。
モンスター辞書100選、これであなたもモンスターのハートをこじ開けちゃえ!(著者 by アネッサ)に書かれていた内容がこちら。
エルフってモンスターだっけ?とか思わなくもないが細かいことは今どうでもいい。
「本当に本当にエルフがウチに来るんですか!こんな底辺中の底辺であるこのブラックな職場に!?」
「そうよ~、引っかかる言い方だけどウチの職場にやっとエルフが来てくれることになったのよ」
「それで!そのエルフはどこにいるんですか?」
「あなたの後ろに」
「えっ?」
僕はゆっくりと振り返る。
一秒一秒噛みしめながら。
最初に見えたのは金髪の長い髪。
そしてとんがった耳。
青い瞳。
そして容姿も、
「う、美しい」
そこには雑誌等でしか見たことがない本物のエルフがいた。
「エルフキター!!!!!」
『興奮しすぎじゃね?モトキのやつ』
「よっぽどストレスが溜まってたのねー」
あのエルフと一緒の職場で働ける。
一生懸命働いてればいいことがあるって本当だったんだ!
おおっといけない。まだ自己紹介すらしてなかった。
俺としたことがいけないいけない。
「どうも初めまして、あなたの白馬の貴公子です」
『あいつ舞い上がり過ぎじゃね?』
さぁエルフさん。その美しい声を僕に聞かせてくれたまえ。
「アネッサちゃんや、ご飯はまだかねえ?」
あれ?おかしいな。
なんかすごいおばあちゃんの声だったような?
「もうエルデ婆ったら、さっき食べたでしょ?」
「そうだったかのう?」
あれ?あれれ?
「あのう、アネッサさん。そのエルフの方何歳なんですか?その...見た目はかなり若く見えるのですが」
「ちょっとモトキ君、女性に年齢を聞くのはマナー違反よ」
「す、すいません」
そうだよな。
確かにエルフって長生きするけどあんなに見た目若いんだからいくらなんでも
「まぁ、500歳なんだけどね」
「思いっきりババァじゃねぇか!」
「アネッサちゃんや、ご飯はまだかねえ?」
「しかもボケてるし!」
俺の思い描いていたエルフ像が崩れ去っていく。
「何言ってんのよ。500歳でまだあの若さを保っているのよ。同じ女として色々見習いたいわ」
「あたしも若いころはブイブイ言わしてたんだよ。ところでそこのお兄さんアメちゃんはいるかえ?」
「あ、いただきます。じゃなくて!」
アメはイチゴ味でした。
「アネッサさん、いくらエルフが長寿の種族だからってこんなボケちゃってる人、仕事の役に立つんですか?」
「失礼ねモトキ君。これでもこの方、エルデミリアン様は昔、人間の国を一人で滅ぼしたことがある知る人ぞ知る生ける伝説兼賞金首なのよ?」
「国!?今国って言った!?」
エルフたった一人でそんなことが出来るの?
「昔はちょっとやんちゃしすぎたかねぇ~、ところでアネッサさんや、ホストクラブはまだかねぇ?」
「もうエルデ婆ったら、昨日行ったでしょ。ボケたフリして今日も行こうとしたら駄目よ」
わりと人生エンジョイしてるみたいだし。
「そんなすごい人がなんでまたこんなところでアルバイトなんか」
「エルフの里を追い出されてしまったらしいの」
「そうだったんですか...」
やっぱり500歳なだけあっていろいろあったのかな?
人間とエルフの確執とか。
「ちょいとエルフの里の金を使いこんでしまったのがバレてしまったわい。ヒッヒッヒッ」
「横領かよ!」
「ナンバーワンホストに貢ぐのも楽じゃなくてねえ」
「しかもホスト狂いかよ!」
俺のエルフのイメージが、イメージがああああ!
「というわけでホスト狂いになってしまっていろいろ売っちゃいけないものとか使っちゃいけないお金とかに手を出しまくった結果、エルフにも人間にも狙われる、だけど生ける伝説という訳わかんない人になってしまったの。で、ウチだったらなんとかエルフを『モンスター』のくくりに入れることで保護出来るから借金返済も兼ねてアルバイトとして雇うことにしたのよ」
「いやいやいや、こんな人雇わないでくださいよ。いろんな意味でやりづらいですって」
「ツバサ君、今度は何をプレゼントしようかねえ」
まだ貢ぐ気まんまんじゃねぇか。
確かに見た目は若くて綺麗だけどこんなホスト狂いでボケちゃってる人どうやって働かせればいいの?
『おいおいおい、何弱気なこと言ってんだモトキ』
「スラ兄」
話を聞いていたスラ兄が出てきた。
『これからお前が先輩になるんだろうが、新米に格好つけなくてどうすんだ。ビシッとしやがれビシッと!』
「た、確かに。スラ兄、俺が間違ってたよ!」
たまに格好いいんだよな。コイツ
言ってることは正しいし。
『どれ、俺が一発かましてきてやらー。おい、そこの新米のエルフ!俺はお前がどんな奴だろうと新米として扱うからな!仕事も楽じゃねーぞ!』
おお。スラ兄言うときは言うんだな。
『お前がしっかり仕事しないと俺が死ぬからな。すぐ死ぬからな!覚悟しとけよ』
少しでも見直した俺が馬鹿だったよ...
『とりあえずまずは俺の水分補給からやって貰おうか。あ、ミネラルウォーター以外は肌に合わないから、すぐ荒れるから気をつけろよ』
「はいはい、可愛いスライムちゃんだねえ~。アメちゃんはいるかえ?」
『おい、やめろ、なんだその人工着色料の塊は。近づけるんじゃねえ!うええええ、なんか体ん中で溶けきらなくてドロドロする、めっちゃドロドロする!』
スラ兄の中に無造作に突っ込まれた複数のアメが中途半端に溶けてスラ兄の体色が面白いことになっていた。
「フゴフゴ、フゴ (あら、新入り?)」
「あ、グロリアちゃん」
「フゴフゴフゴ、フゴフゴモトキ(もう、グロリアって呼び捨てにしてって言ったじゃない。モトキマイダーリン)」
「ええ、新しく入ったエルフのアルバイトですよ、グロリアちゃん」
絶対に呼び捨てにしてなるものか。
最初さん付けで呼んでたのにちゃん付けを強要されたが多分、呼び捨てにしたら終わる。
今度はオークのグロリアが出てきた。
スラ兄は相変わらず悶えているがオークとエルフってイメージだと仲悪い気がするんだけど。
「おや、グロリアのお嬢ちゃんじゃないの?元気にしとったかえ」
「フ、フゴ (エ、エルデのクソ婆!?)」
あれ?グロリアが怯えている?
人をまるで枝のようにポキッと素手で折れるヤツが?
「ナンダナンダ、モトキドウシタ。トウトウクタバッタカ」
今度はゴブリンのゴブ・サップが出てきた。
こいつ、会うたびに俺の死を願うのやめてくれないかな。
ヒュン
今も会話の途中で何気なくナイフを投げてくるし。
さすがに1ヶ月続けて投げられてれば避けれるようにもなってくるよ。
避けれるようになってしまった俺が悲しい。
「おや、そこにおるのはゴブ・サップの坊やかえ?」
俺は初めて見た。
ゴブリンというモンスターが恐怖する顔を。
そして逃げた。
グロリアちゃんも一緒に。
「おやおやまあまあ、どこへ行っちゃったのかねえ。昔は一緒に戦争した仲じゃないか」
「えっとちなみに味方同士ってことですよね?」
「昔のことは忘れちゃったねえ。オークやゴブリンの集落が数十、いや数百消えたような?」
あ、これ敵対してたやつや。
しかも婆さんめっちゃ恐怖の元凶だし。
「というわけでモトキ君、エルデ婆の教育係よろしくね~」
「いやいやアネッサさん、任されても困りますって。手に負えませんって」
「大丈夫大丈夫。護衛として十二分に働いてくれるから。また賞金稼ぎとかゴロツキが襲ってきたら大変でしょ?」
「いや、護衛してくれるはずの人物が賞金首だから。俺一般人なんで」
「モトキ君も国によっては賞金首よ。一般人は卒業よ」
え?
「いやいやいやいや俺、一般ピーポーですよ、そんな賞金首だなんて」
「ほれ、持ってきてあげたよ」
バサッと俺の目の前に置かれたもの、それは。
完璧に僕の顔が描かれている手配書でした。
デッドオアアラビキと書かれている。
「ええええええ!?なんですかこれ!?」
「何って手配書」
「いやそうだけど、そうじゃなくて」
「モンスター保護区はね、かなり重要な場所なのよ。そこで一ヶ月たった今でも生きている職員は特に貴重な人材なのよ。そうモトキ君、キミはうちの期待のホープなの!」
「耳優しい言葉には騙されませんよ。それが?」
「で、モンスター保護区って邪魔だなって思ってる人や国がキミがいなくなれば多少なりと得をするかもしれないってだけの話」
そ、そんなふわっとした理由で俺、手配書なんてあるんですか。
「ちなみにアネッサさんのは?」
「ないわよ」
「え?」
「だってモンスター保護区で働いてるってバレてないし」
「え?じゃあ俺はなんでバレてるんですか?」
「一人は働いてる職員がいるってことにしないと怪しまれるでしょ?」
「…ん?」
「というわけで後はよろしく~」
そしてアネッサさんは何処かへ言ってしまった。
俺はというと生贄にされていることに気づき、膝から崩れ落ちた。
「大丈夫じゃよ。あたしがついてるからねえ。ところでモトキ君とやら、ホストクラブはまだかねえ?」
とエルデ婆がトドメをさしてきた。
あんた、実はボケてないだろ。
というわけで、今日はアルバイトという名の厄介者が増えただけだった。
職員募集の張り紙の大量生産待ったなしです。
誰か一緒に地獄に落ちてくれる人いませんか?
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