第3話 隕石
少し急かす声音でツキミは言い、豊かな自然に気を取られながら歩いているフユメに釘を刺した。それに気が付いた彼は、慌てて横に並ぶ。
「……場所、確認しておいてね」
フユメが横に来たのを確認して、ツキミはズボンのポケットから、長方形の端末を取り出した。
その端末には『星降りの街』のおおまかな地図が入っている。道中で見つけた『キューバー』に記録されていた、記憶を使って制作したものだ。
『キューバー』は、『キューバー』を読み取る『キロウス』に反応し、僅かながら信号を発するので、おおまかな位置を割り出すことが出来る。
「あ、うん。そう、だねぇ……。星降りの街の構造上、南西の方から探索したほうがいいね。このセグメント、わかる?」
端末に表示されている『星降りの街』を、正方形のブロックごとに切り分けた個所をセグメントと呼び、『キューバー』が無い場所や建物の倒壊などを通らないよう、効率的な探索を可能とする。
《星降りの街》は都市だったのだろうか、半壊した高層ビルが多く、頭上と足もとに注意しなければならない。頭上からは、風や振動によって瓦礫が崩落する危険性があるし、足元は散乱する瓦礫が足場を悪くしている。
「ここから視認できる場所ね。建造物が折り重なっていて、進むのは困難を極めそうよ」
「ホントに? じゃあ、ちょっと変えるよ」
ツキミは淡々とした口調で、いつの間にか手にしていた望遠鏡を覗いている。フユメは、ツキミから実際に生で見る情報を元に、安全に探索をするための経路を絞る作業を行う。
フユメはこう見えても緻密な作業が得意な方なのだ。地図とツキミの指示から、安全ルートを確保し、効率よく捜索をしていくのが彼らチームの強みだ。過去に、数々のキューバーを回収して、それなりの知名度もある。
「ツキミ、一応経路確保できたよー」
そう言いながら、端末をツキミに手渡したフユメは、背負っていた荷物を降ろして、探索に必要な装備を取り出す。
「少し、遠回りになるけど?」
端末に表示されていた経路を見て、ツキミはどこか得意そうな表情で言うのが聞こえ、荷物を入れ替えているフユメは顔を上げた。
「あー、でも遠回りしたほうが、帰り楽になるよ」
作業を中断して、フユメは端末を覗く。指で地図をなぞりながら、ツキミに説明する。
確かに、いくつあるかわからない《キューバー》を持ちながらこの瓦礫の山を歩くのは、相当体力を削るだろう。若いといっても、限界はある。それなら、行きは近道をして、帰りは多少の遠回りでもいいから安全なルートを歩いた方がいい。
「ふ、ふーん」
僅かな遠回りをミスかなと思い、少しからかおうと思っていたツキミだったが、それが不発に終わりそっぽを向いた。
その反応を、フユメはまた何か怒らせてしまったのかと受け取ってしまい、ツキミの指摘も最もだと、慌ててフォローを入れるが、彼女は口をとがらせたままだ。
いつもの事だしフユメは諦めて、自身で考えた経路と実際の街の様子をもう一度見比べて、安全かどうか確認し直す。最後まで確認を怠らないことが一人前の『キューバー・ハンター』になる近道だと、兄から口うるさく言われていたので、フユメは入念にチェックするのが癖になっている。
――特に、違和感はないかな。
どこか抜けているようで、おっちょこちょいなフユメも、与えられた仕事はキチンとこなす。それを見て、ツキミはどこか満足そうな表情で頷いていた。
フユメは、確認作業を終えた端末をフユメに手渡し、すぐに作業途中だった荷物の入れ替えを再開させる。
「準備おっけー」
「じゃあ、行きましょうか」
お互いにうなずき合い、瓦礫の山を歩いていく。
瓦礫野山でも、軽快な足取りで瓦礫の山を進む姿は、プロフェッショナルのような動きを連想させる。
「だいぶ、歩くの慣れて来たね?」
瓦礫の山を軽々と飛び越えながら、どこか余裕そうな表情でフユメは後ろを振り返り、ツキミの様子を伺った。
「そう? フユメはともかく、私はあまりそんな気はしないけど」
「いやいや、そんなことは無いよ?」
実感が無いのか、ツキミはすぐに否定をするが、フユメの見る限りでは、かなり歩くのが上達したように映っている。
「お世辞はいいから。とっとと目標地点に向か――」
すると、ツキミは言葉を言い終える前に、持っていた端末をその場に落として固まった。
「――ッ!?」
続けざまに、ツキミから息を飲む鋭い声が聞こえ、フユメはびっくりして足を止めた。
「え? どうしたの?」
ツキミの只ならぬ様子に、フユメは困惑しながらも、すぐさま意識を切り替える。前方で何かが起こったようだ。
フユメは、振り返っていた視線を前に戻してーー唖然と口を開いた。
「フユメ! 落ちてくる!」
ひどく狼狽した、普段とかけ離れたツキミの声を聞き、一気に現実に戻された。
空から何かが落ちてくる。それは視界を覆い、ものすごい速度で降り注いでいる。
「フユメ! 急いで!」
空を見上げポカンと口を開いていたフユメの右手を、ツキミは無理やり掴み、転びそうになりながらも、その場から必死に逃走する。
空気を切るようにして、音を立てながら二人の元に降り注いできた物。それは、この街の由来にもなっている、空からの贈り物、隕石だった。
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