エピローグ

エピローグ 世界の果てで

 これは余談だが、壬生エースの人生は苦難の連続だった。


 聖人とは天から授かった試練に毅然と立ち向かってこそ本来の在り様なのだが、俺が出した答えを、恩師である近藤教官、並びに先人達は非難轟々を寄越すかも知れない。

 俺の人生は苦衷に呑まれて、息をすることさえも侭ならない、だけど。


 俺達は苦難を乗り越えて――世界の最果てに辿り着いた。

 そこには父や英雄、荒儀煉が俺達を待ち望んでいた、ということでもないが。


「エースぅ~、ルドルお姉さんの、起立、気を付け、礼、そして休め。さ、エース、私に何か言うことがあったんだろ?」


 父や英雄は仲間に囲まれる俺を尻目に、父であれば母に、英雄であれば聖地に電話を掛けていた。世界の最果てに着いた暁には、俺は彼女にプロポーズする。彼女達はその情報をルドルの母、壬生メノウから聞き及んでいたらしい。


「……どうしたんです? どうしたエース、何も躊躇うことなどないだろう」

「小雪さん、俺は躊躇ってるんじゃないんですよ」


 しかし、彼女達の前で明朗な態度も取れない。

 だから俺は海へと身を投げた、無論自殺ではなく単なる現実逃避。


「お! おにょれエースゥ、ルドルお姉さんの、トォ!」

「……まったく、馬鹿馬鹿しいが……この鳳凰座小雪から逃げられるとでも?」


 仲間の皆が俺の後を追って、青く澄み渡る海へと飛び込んだ。

 本当に、人生とは息苦しい。


 むしろ死後の方が快感であれば真摯に生きるのは辛いだけだ。俺は永きに亘った旅路でそれを学んだ、人生とは――苦しみの裡にあると。特に聖人であれば人一倍苦心惨憺な経過を得るのは齢六つの時に判ることだ。


 俺のこの答えを、恩師である近藤教官、並びに先人達はどう受け止め、返事してくれるだろう。俺はその返事を認めるのが楽しみでもある、その悦楽は明日のために、明日を生きる糧として大事に取っておく。


 糧が無ければ俺達は生きていけないのだから、が、そんな簡単に死ぬこともないだろう。苦しくても生きていけると言えば、俺は明日を生きる。俺達が辿り着いた世界の最果ては絶海に在った。此の海に穢れは残されてない。


 俺を筆頭に皆はその海へ飛び込みそして――――息を止めている。


 英雄に倣った俺の紅蓮の髪が無色透明な海に浸かり、陽光を受けて揺蕩っている。

 この光景を拝んでいる今だって。


「……――」

 今だって、俺は息を止め、苦しみに苛まれている。


 人生が苦しみの裡にあると言うのなら、俺は今を――生きているくるしんでいる




 FIN.

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そして真相は闇に葬られるApnea サカイヌツク @minimum

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