engagement ring

あかいプラスチック製のおもちゃの指輪。




むせかえるように暑い夏祭りの夜、あたしの大好きな彼がくれた。




夜店の軒に飾ってあった大きなクマのぬいぐるみ。




あたしにプレゼントだとくじを引いて、やっぱりハズれた残念賞。




こんなんでごめんな。




彼は苦笑いをしながら、あたしの薬指にこの指輪を嵌めてくれた。




そのうち絶対、本物を買ってやるから。




彼は視線をあわせず、照れくさそうにそう笑った。




あかいプラスチック製のおもちゃの指輪。




見るからに安っぽいおこさま向けのリング。




でも、あたしはとても嬉しくてしかたなかった。




ずっとずっと大事にするね。




嬉しくて指輪をぎゅーっと握りしめた。




あくる日からあたしに内緒で始めたアルバイト。




やんちゃなクセに、へんなトコで生真面目で。




いちばんの友だちに、アイツと約束したんだって言ってたって。




ホントそうだよ、約束したじゃん。約束した。




その日も原チャで急いでて、センターラインを超えちゃったの。




バカなヤツだな。バカなヤツだよ。みんなが悲しい目でそう言ってた。




バカじゃないよ。




バカじゃないもん。




彼からの最初で最後のプレゼント。




今も私の大切な宝もの。




あかいプラスチック製のおもちゃの指輪。




ぎゅっと握りしめると、あの夏の夜の照れくさそうな笑顔が今も目に浮かぶ。




私は指輪を外すと、小箱にしまった。




明日、彼のいちばんの親友と結婚します。




今は私のいちばん大切なひと。








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