第6話「後日談」

「七海!」


「七海、無事だったのか!」


「パパ! ママ!」


 あれから無事に村から脱出した七海は街へと続く街道を歩き、そしてようやく自分の家へとたどり着いた。


「よかった、本当によかった……ほかのふたりは無事かい?」


「……智樹君、由紀ちゃんは……」


 言って七海は語る。

 村で起こった常軌を逸した出来事を。

 ただそれを親が信じるはずもない。

 七海はただ気が狂った村人たちに襲われ、智樹と由紀が殺されたとそう伝えた。


「そうか……けど、お前だけでも無事に本当によかった」


「うん、これも全部あの人――蒼刀さんのおかげなの」


「蒼刀さんの?」


 言って七海の両親ふたりは喜ぶ。

 自分たちが依頼したあの人物が娘を無事に取り返してくれたのだと。


「それで蒼刀さんは? 彼にはぜひお礼をしないと!」


「それが……お礼はいいからってあの人とは途中で別れたの」


「そうなのか。ぜひお礼をしたかったのに……。いやしかし、なんて謙虚で素晴らしい人なんだ」


 そうあの人を賞賛する両親に七海は心中、複雑な感情を抱いていた。

 あの時、オヤシロさまを始末した蒼刀は、その場で七海を殺すことはしなかった。

 代わりに村から離れ、街へと続く街道に出た時、彼女の耳元へ甘く囁くように呟いた。


「君みたいな青くて美味しそうな果実を今食べるのはもったいないからね。もっと美味しく実って、君が幸せと希望に満ち溢れ、人生を謳歌したその瞬間――その命の花を奪いに行くから。それまで生かしてもらった命……大事にするんだよ♥」


 そう言って彼女のおでこに優しくキスをし、蒼刀は姿を消した。

 彼から受けた死の接吻に手を置きながら七海は固く誓った。


(絶対に……幸せにならないでおこう)


 それは命を生かされた少女のサイコパスへと送る、ささやかな抵抗であった。








「さてと、ゲテモノ退治も案外つまらなかったし、やっぱりバラすなら生きてる人間がいいよねぇ♠ どうせなら、もっと公に人を殺してもなにも言われない世界とかいいな♥ たとえばそう……異世界とか♠ ふふっ、僕が伝説の勇者として異世界に召喚されて、世界を救うために止む無く人を殺しまくる……ああ、それってすごくいい感じじゃないのぉ♥ どこか、僕を拾ってくれる異世界の女神さまがいないかなぁ、ふふっ、ふふふふっ♥」

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ホラーにサイコパスを投げ込んだ結果 雪月花 @yumesiro

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