第二話 化け物の今と出会い

目を開けると、木目のある天井が見えた。どうやら私は、何かもふもふしたものに寝転がっているらしい。ガバッと起き上がり、側にある窓のカーテンを開けると、日の光が入ってきた。その光のおかげで、やっと頭がはっきりしてきた。

「むー、ががが…!」

ぐぐぐーと体を伸ばして、ベットから降りた。久しぶりに、懐かしい夢を見ていた。あの日、森の奥に逃げた私は、周りの木を使って結構こったログハウスを作った。魔法を使ったので、数分でできたと思う。ベットとか衣服とかは、草を編んだり、綿をさがして

詰めたりした。森は広いから、頑張ればなんとか発見できた。でも、森だけじゃ見つけられないモノだってあるので、それは市街地で探した。お金は、森の果物や縫いぐるみなんかを売って稼いだ。勿論、正体がばれると大変だから、ローブを編んで被っていった。そんな感じで、どうにか生きてはや7年。5歳だった私は、12歳になった。今の私に、できない魔法はなかった。…まぁ得意不得意はあったが。幸いにも、あの青年がしっかり伝えてくれたおかげで、私は一夜で消された化け物として伝承に残っているらしい。暇すぎたので、適当に買った本に書かれていた。まぁいつか、そんな伝承なんて寂れて消えるんだろうけど。

「はぁ、私もよく生きれたよなぁ。」

お手製のブラシで髪をとかしながら呟いた。今までいきれたのは、多分魔法力が関わってると思う。魔法力の多さのおかげで、私は栄養失調で倒れることもなく、病気になったりもしなかった。まぁ怪我は人並みにするし、歳も重ねていったし、不老不死ではないらしい。病気とかの免疫が極端に強くなっているのか…

「いただきます。」

朝御飯用に、あらかじめとっている果物を食べる。ちなみに自家栽培だ。無農薬だから、なかなかに美味しい。しゃくしゃくと黄緑色の果物を食べていく。

そういえばこの果物はどんな名前なんだろうか。…わかんないし適当に青梨とでも呼ぶか。

「ごちそうさまでした」

食べ終わって空になった皿を洗う。そのあとも、掃除、洗濯をして一通りやることを終えた。暇になったので、お茶でも飲みながら本を読むとしよう。

 今日は何を読もうか。

そう思案していると、ドアのほうからノックが聞こえた。…道に迷った旅人とかだろうか。それなら可哀想だが、私は無視することにした。あまり人と関わりたくないのだ。私は結構珍しい外見らしく、本にもしっかり記載されていたから、多分一発でばれるだろう。死んだとされる化け物が生きていたら大変だ。きっと、あらゆる手を使って私を殺しにかかるだろう。

「あのー!!化け物さんのお宅ですかー!?いますよねー!!居留守は私に通用しませんからね!!早くでないと町の人たちここにつれてきますよぉぉぉ!!」

居留守をきめこもうとした途端、いきなり大声を出し始めた。高い声だから、多分女性だろう。

…んん?今大変なこと言わなかったか?町の人?

「そっ、それはダメです!!」

あっ

「聞こえましたからね!!いるんでしょ化け物さぁぁん!!どーあーをーあーけーてーくーだーさーいぃー!!」

居留守が使えないんじゃあ、出るしかないな…。

ドアノブに手をかけ、開けるとそこには金髪でボブの女性が立っていた。

「あららら?意外と小さいんですね。えーと、あなたが化け物さん?」

しょっぱなから随分失礼な奴だな。思ったことはすぐ口に出すタイプなので、しっかりもの申しておく。

「失礼な方ですね。大体私は化け物なんて名前じゃありません。ハメルーって名前があるんですよ。ちゃんと」

背の差により、下からになってしまったが睨み付ける。

「あっ、申し訳ありません。私エナと申します。国立リクライド魔法中等学園の教師をしています!」

「はぁ…その、エナさんは一体何のために私の家に?」

元気一杯に自己紹介をするエナさんに、私は用件を質問する。

早く帰んないかな…

「はい。実は化けも…ハメルーさんを、我がリクライド中等学園に教師としてお招きしたく伺いました。」

…教師として?

わけがわからなかった。生徒ならまだ分かるが、教師?私はまだ働ける年ではないぞ

「あの、すいません。私まだ12歳なので働けないのですが…」

よし、これを口実に断ろう。

なんて考えは、エナさんの先回りにより簡単にねじ伏せられた。

「大丈夫です!そこらへんのことは学園長に許可とってますから!」

「で、でも、年齢はいいとして、化け物が教師なんて生徒にばれたら…」

「まー、そこはどうにか誤魔化しましょっ」

「燃やすぞ貴様」

あ、いけないいけない。つい口がすべっちゃった。まぁこのぐらい言わなきゃこの人退かないからな。

「うんうん!それぐらいのことを平気で人に言う度胸と実力があるなら教師の資格は大丈夫ですね!」

自分で自らの墓の穴をほってしまった。

そんな不毛な会話をしばらく続けているうちに、ある嫌な考えが頭に浮かぶ。

「もしかしてあなた、私が”やります“と言うまで帰らない気じゃ…」

恐る恐る聞いてみる。すると彼女は眩しいくらいの笑顔で、

「そりゃあもちろん。教師は粘り強さも必要ですしね!」

「最悪泊まらせていただきますよ」と続ける。これはつまり、私に選択肢は1つしかないという意味も込めているんだろうか。

すえおそろしいですわぁ

「…わかりました。」

私はここで、目の前にいる面倒く…もとい粘り強い女性に白旗をあげた。

「へ。」

あっけなく承諾したのが意外だったのか、エナさんは間抜けな声を出しました。

「教師、してもいいです。」

「ほっ本当ですか______」

「ただしです。」

エナさんの声を遮り、ある条件をつけたす。

「私の家から通うこと。またお給料などお金関連についてはしっかり払うこと。そしてさいご!!」

ひときわ大きな声で言う。

これが一番大事なのだ。

「私の外見や年齢についてはどうにか誤魔化すこと!いいですね?あと私が使える魔法は樹木魔法のみということにしてください。」

「え、でも」

「い・い・で・す・ね?」

まだ食い下がろうとするエナさんに、私は圧をかける。エナさんはぐっ、と押し黙った。まるで蛇ににらまれた蛙のよう。

「…わ、わかりました。のみましょう!その条件を!」

ほっと息をつく。これで化け物とばれるリスクは減っただろう。

「では、今日から宜しくお願いしますね!ハメルー先生」

「はい、宜しく_____ん?今日から?」

可愛らしい笑みをたたえつつ、はい!と返事をするエナさん。

「とりあえず今日は生徒たちへの挨拶と学校を回るだけでいいので!さ、早くいきましょう!」

「そ、そんないきなり…それにこんなところからすぐにいけるわけが」

私の言葉を遮るように、エナさんは指をならした。

「…馬車が、来ますね。」

ポツリと呟いたエナさん。すると本当に家の外から馬の足音と馬車の音が聞こえてきた。

「…え?」

私は目を見開きながらエナさんをみる。エナさんは、

「さっ、行きましょう!ハメルー先生っ」

なんて、屈託のない笑顔で言ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法世界の化け物が教師になって帰ってきた。 魚紙奈夏乃 @yakizakana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ