第2話
「ちょっと男子!」
学級委員長、鮎川ミチコが叫ぶ。
「ちょっと男子、掃除して!・・・痛っ!」
ミチコが左の二の腕を抑えて悲鳴を上げたので、周りの取り巻きの女子が「どうしたのミチコちゃん。」「大丈夫?」と駆け寄る。
「ううん。大丈夫。気にしないで。」
すると背の高い男子で、問題児として知られる倉田タツヲが「あれー、ミチコちゃん、もしかして虫になっちゃう?虫になっちゃうの?」と掃除しながらからかい半分に声をかけた。
「人聞きの悪い事言わないで!」とミチコは血相を変えて叫んだ。取り巻きの女子たちも「そうよ!そうよ!」と囃し立てる。「ははは、怖いなあ、冗談なのに。」とタツヲは笑うが、その笑みにどこか悲しい瞳をしている事にトオルは気づく。
「やっぱり私たちちょうどその時期じゃん?」帰りルリがトオルに話す。
「その時期?」トオルは空を見ながらぼんやりと返答する。
「二次性徴。ルドルフ病が発症する時期。」
「ああ。」
「だから神経質になっちゃうのかもね。ミチコも。」
「そうだな。」トオルは空を見た。「それに女の子からしたら、あんなのになるのなんて恥ずかしいよな。」
「何言ってるのトオルくん。」ルリが睨む。「デリカシーが無いね。人前で言わないようにね。」
「ごめんよ。」トオルが気まずくなって空から地面に見下ろした時、「あっ」と声をあげて立ち止まった。
「どうしたの・・・あ。」ルリも気づいた。道路の脇に墜落したヒトムシ。どうやら腹の部分が齧られているが、快楽の笑みを浮かべてよだれを垂らしながら倒れていた。
「なんというか満足した顔。一年という少ない寿命を生ききった、って感じだなあ。」トオルは傍観するように言った。ヒトムシがぴくぴくと痙攣している。裸体に近いとはいえ、四肢が虫のように節があるのであんまり人間を見るような恥ずかしさはない。
「トオルくん、はやくいきましょうよ。」ルリが嫌そうに言った。
「う、うん。」トオルはなんとなく気になるものの、ルリが本気で嫌がっているので、彼女について行き、その場を去ることにした。
「一週間後に検査してもらうからね。トオル。」
トオルの母がそう言う。
「検査?何の・・・。」
「ルドルフ病の。」
「え、でも、」トオルは困惑した。「それってまだ公式にできてないよね。そしてすごい高いお金じゃないの?」
「わかってるわよ。インチキかもしれない。でも念のためよ。」
「うん・・・」親の意思がとても固そうなのでトオルは何も言えなかった。まあ気休めにはなるのかなあ、とトオルはぼんやり考えながら、伸びをする。ルリも検査を受けるのだろうか、とトオルはふと思った。
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