月のない夜

 月のない夜はあの子たちのことを思いだす。

 同じ孤児院で育ったあの子たち。可愛いアタシのきょうだいたち。月のない暗い夜には、いつも怖がってアタシの布団に入ってきたっけ。

 ルゥを寝かしつけたマリアンは一人、湖の岸に腰かけ、その足を濡らしていた。

 裸足の足をかすかに動かすたびに水面は揺らめき、波紋を広げていく。ぱしゃぱしゃと童心に帰って水をもてあそんでいると、急に目頭が熱くなってきた。

 あの子たちは無事だったんだろうか。ちゃんとごはんを食べているだろうか。こんな月のない夜に怯えてはいないだろうか。

「……お母さん?」

 振り向くと、目をこすりながらルゥが裸足で歩いてきていた。

「ルゥ、起きてきちゃったの。こんな夜中に起きてるなんて悪い子ね」

「ごめんなさーい」

 ふわわ、とあくびをしながらルゥは謝る。そうした後に駆け寄ってきて、マリアンの顔をじっと見た。

「お母さん、泣いてたの?」

「えっ、泣いてなんていないよ。ただちょっと目にごみが入っちゃってね」

 慌てて目をこする。誤魔化せただろうかと視線を上げると、ルゥは手を伸ばしてマリアンの頭を撫でてきた。

「いいこいいこ」

 きょとんとするマリアンをよそに、ルゥは頭を撫で続ける。

「お母さんもさびしかったんだよね。今日はルゥが撫でてあげるね」

 その言葉を聞いた途端、収まっていた涙がマリアンの目に再びこみあげてきた。

「ルゥ、ありがとう、ありがとうね」

 ぽろぽろと零れ続ける涙。だけどそれは、不思議と温かかった。

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ルゥのお母さんはお嫁さん! 黄鱗きいろ @cradleofdragon

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